第十一話 ダンジョンマスター
「君に尋ねたいことは、私たちの管理区域の砂漠に外部の人間がいた。エルフとしては困っている者を見捨てることは出来ないので助けた」
「旅人のリュケアが里に連れて来た。その人間に尋ねたところ、ダンジョンの調査をしていたら、気が付いたら砂漠にいたそうだ。どう言うことだ、マスター」
「現在、ただ今、ダンジョンを大リニューアル中の事故だと思う。階層を入れ替えたり、モンスターを入れ替えたり、色々してるから……」
「こう言うことはまた起こるのかね!」
「……」
「マスター!」
「出来るだけ起きないように努力したいとは思います……」
「約束は出来ないと言うことかね?」
「……」
「ええとだね、今回の大リニューアルも前回、外部の人間が二名も砂漠に入って来たその反省を踏まえて行っている」
「あの時はもう二度とこういうことが起こらないように対応しますと君は約束したはずだ」
「こんな短期間で破るとはもはや信用出来ない」
「私としても、人喰い鬼とゴブリンの村では外部の人間の侵入を防げないので、十九階層は死者の世界にした。まさか生きている人間が死者の行列に並ぶとは想定外だったんだよねえ」
「君の遊び場を移転するように、再度求める」
「断る。もうここまで出来たものは移せない」
「あのう、質問しても良いですか?」
「人間君、構わないよ。僕は心が広い」
「ありがとうございます。その十九階層にあった人喰い鬼とゴブリンの村はどこに移動したのでしょうか?」
「それは、ダンジョンの難易度上げるために三階層に移動させました」
「今までのダンジョンってさ、初心者向けだったのね。でも、つまらないから、上級者向けのダンジョンにしたいわけね」
確かに、三階層で人喰い鬼が出たらもう初心者も中堅もダンジョンには入れない。転職しないとダメだよね。それも良いかな……。
「ありがとうございます。ダンジョンマスター」
「君には期待しているよ。このダンジョンは九十九階層まで用意をした。僕と戦いたければ九十九階層まで来てね。この五百年暇だったの。僕、チートスキル全開だから、僕が勝つけどね」
「………、チートします宣言は引くわ」
「言い間違えしました。スキル全開で頑張ります」
「それと砂漠には二十一階層への道標と地上への脱出口を設置するので、エルフさんたちには今後面倒を掛けないことをお約束します」
「それでは、さらば」
「ちょっと待て、君は悪魔を地獄から呼び寄せたらしいが本当か?」
「……」
「私たちは世界樹を守る役割を与えられている。悪魔は、数千年前、悪ふざけをして、世界樹に傷を付けた。その時の長老は責任を取って世界樹の根元に今も眠っている」
「ええと、たぶん、悪魔もエルフさんたちには迷惑を掛けないと思います……」
「さようなら……」
逃げたな。アレは間違いなく迷惑を掛けると思っている。長老様たちの表情がとっても暗い。
「世界樹を守る人数を倍にする。対悪魔用の魔法の開発を急がせろ」
「リュケア、その人間はお前に任せる。私たちは悪魔対策を行う。下がって良い」
◇
「君ってダンジョンマスターに認められた人間なんだ。凄いよ。エルフだってダンジョンマスターのオモチャなのにさ」
「アタイ、あっ私はダンジョンマスターに認められたのですか?」
「言ってたでしょう。九十九階層で待っているってさ。僕もまだ言われたことがない」
「少し質問しても良いですか? リュケアさんておいくつですか?」
「僕は八百五十三歳。まだまだ若い。長老たちは数千歳だからね」
「それで、三十年前のことがこの間っていう感覚なんですね。分かりました」
「君、僕がこの前ここに連れて来た人たちと知り合いなの」
「はい、とても仲良くしてもらっています。ここのことはほとんど教えてもらえなかったのですが」
「そうなんだ。二人ともちゃんと約束を守ってくれているんだ、ありがとうと言っておいて」
「はい、そう伝えます」
「僕は明後日出発する予定なので、僕と一緒に来てほしい。ただ、僕は独り者なので女性を家に泊められないから、アイラのところで出発の日まで待ってほしい」
◇
「アイラすまないけど、僕の出発の日までミサを預かってほしい」
「それは良いけど、帰って来てすぐに旅ってひどくないこと」
「悪魔がこの里に来る前に出来るだけ情報を集めておきたい。二度と世界樹には手を出させないためにもね」
「そうね。ミサさん、大しておかまいも出来ないけど、うちで泊まってね」
「お世話になります」
「じゃあ、アイラよろしく」
「ええ」
「お母さん、私も外の世界に行ってみたいーー」
「あなたはまだ小さいし」
「ミアは、百三十歳になったし、もう子どもじゃない」
エルフ様って百三十歳でも子どもなんだ。成人って何歳なんだろう?
「里から出るには長老様たちの許可が必要だし、悪魔が里に攻めて来たらミアも弓で戦ってもらわないと、エルフの数は少ないからね」
「里に悪魔が攻めて来るの?」
「ええ、リュケアはそう言っていたよね」
「ミア、明日から弓の練習する!」
「私たちは、世界樹の守り人なのだからね。もう二度と世界樹に、悪魔なんかには触らせてはいけないのよ」
◇
「ミサさん、夕食は鹿肉のポトフですけど、良いですか?」
「ミア、お肉嫌い」
「お肉も食べないと、お父さんのように大きくなれないわよ」
ミアちゃんが、ぷーっと頬を膨らませた。
「少しなら食べる……」
「夫は兵士なので、一度家を出ると十年くらいは戻って来ません。今は私とミアだけなので、遠慮なく」
一度仕事に出ると十年は帰って来ない。三十年前がこの間感覚だからついていけない。
「ありがとうございます。遠慮なく過ごさせてもらいます」
「人間はお風呂に入るみたいですけど、エルフは湖で水浴なので、ミアに湖に案内させますね」
「ミア、ミサさんを湖にご案内して」
「はーーい、お母さん」
◇
「あっちが男の人の湖で、こっちが女の人の湖」
入口は別れているけど、同じ湖だし、ここからでも湖に入っている人が見える。男の人も女の人もスタイルが良くて、何というかあ、区別がつかない。まったく同じ姿に見えるのだけど。
アタイとしては、とっても嬉しい……。
服を脱いで、カゴに入れて。
「ミサお姉ちゃん、タオル」
「ありがとう……」
アタイはまだ二十五歳、ミアちゃんは百三十歳、どう考えてもミアちゃんの方がお姉さんなんだけど。
湖に浸かると、温かかった。下からお湯が湧き出している。ここって露天風呂じゃん。
「うえーー、極楽、極楽」
マズい、オッサンになっている。
「ねえ、ミサお姉ちゃん、どうして髪をそんなに短くしているの?」
ミアちゃんはプラチナブロンドで、長い髪。周りのエルフ様もだいたい長い髪、髪の色はピンクだったりブルーだったりするけど。アタイみたいな黒髪の人はいなかった」
「ええとねえ。お姉ちゃんはモンスターと戦っているから、髪が長いと邪魔になることがあるから」
本当は髪の手入れが簡単で良いからです。アタイ、見た目を良くしようとか、女性ぽくしよとかの意識がありません。
「そうなんだ。私のお父さんと同じだね」




