♯1 契約
「ザックス・アルバーレン、其方はこの騎士学校の入試において最優の成績を収めた。貧民の出自でありながら、己を鍛え、騎士となる資格を得たこと賞賛に値する」
「…光栄なお言葉です。司祭様」
「これより、契約の儀を執り行う。闘神界に眠る宝剣と因果を結ぶことで、其方は騎士として人の理を越えた異能を得る」
石造りの祭壇の中央。
剣を地に突き立てた四体の彫像に囲まれた円の内側。
膝をつき、首を垂れる俺の頭に重ねるように、手を伸ばした教会司祭は、契約の詩を紡ぎ始める。
「汝、闘神界の意志に従い、あらゆる魔境の諸手より人界を守護する使命を背負わん。今こそ、冥府の門を啓き、彼に天帝へ至る道を示すことを望む」
天井から差し込む陽射しが、より強い輝きを帯びたかと思えば、俺の肉体の芯の奥、熱した砂鉄を流し込むような感覚が臓腑を焼くように迸った。
「さあ、契約せよ。ザックス・アルバーレン」
肉体の奥底で燃え上がるように疼く感覚を、内から掴み取るように意思を激らせると、次の瞬間に訪れたのは凪いだ湖に漂うような静寂だった。
「宝剣を示せ」
俺は右手を突き出し、精神を研ぎ澄ませる。
その瞬間、異界から召喚された「宝剣」が顕現し、伸ばした手に握られる。
思わず笑みが溢れる。
遂に、俺は「宝剣」を手に入れた。
闘神界と契約し、騎士となる資格を得たのだ。
「ほお、見たことのない形状の宝剣だな」
俺が握る宝剣は、花嫁衣装のように白い色彩を帯びた、のっぺりとした棒状の武器だった。
剣、と言っても刃はなく、柄から先は焼き菓子の生地をこねりやすそうな円柱形だ。一見強力な武器には見えないが、しかし闘神界に眠る人智を超越した獲物であることには変わりない。
「案ずるな。剣の形状と能力に関係はない。見たところ、打撃系の宝剣のようだが、異能を開示してみせよ」
「わ、わかりました」
俺は左手を胸に当て、意識を深く鎮めてから、自らの生体情報を開示する。
左手にぼんやりと浮かんだ光の文字は、俺自身の異能である。
そこには、宝剣と契約したことで人理から外れた数値が刻まれているはずである。
全てが「三桁超え」となっていることは想像に難くない。俺は宝剣と契約した騎士となったのだ。俺はこの力で最強を目指す。
まずはこの学園の頂点に立ち、やがて最上騎士階級の天帝騎士となる。
全ては「あの子」との約束を果たすために!
騎士として力を得た俺の異能は………。
「膂力・16」
「斥力・18」
「瞬発力・22」
「索敵力・17」
「魔力・19」
………………………ぇ?
俺の異能の値を見た司祭が、同情する様な溜息を吐いてから言った。
「お前、クソ雑魚やん」
神聖な司祭とは思えない発言に、俺はこう返すしかない。
「クソ雑魚っすねぇ」
俺の契約した宝剣の名は『眠り姫の親指』
異能上昇効果の殆どないクソ雑魚っぷりに、愕然とするしかない俺は、ショックのあまり気づかなかった。
俺の貧弱ステータスの下に
「固有スキル・一撃必殺」の文字が刻まれていることをーーーーーー。