横浜
翌朝、俺は一番に目を覚ました。
今日はかつての故郷、横浜へと足を進める。
行かなければならないと思うが、やっぱり故郷の悲惨な姿は見たくない。
前世で日々のルーティーンとなっていた朝の緑茶を啜りながらそんなことを考える。
今日もいつも通り朝食を取り、自転車に跨って昇り始めた太陽へ向かって走る。
この自然がたっぷりある世界の方が俺は好きかもしれない。
道中、魔物に襲われたが今日は難なく撃破。
特に障害もなく、横浜へ到着した。
町は高い壁で覆われており、中央の鉄製と思われる中へ通じるドアには見張りがついている。
その見張りに、親父が話しかける。
「お久しぶりです。桜田さん。ちょっとよろしいですか?」
「あなたは…タバスさん?お久しぶりです!20年ぶりくらいですか?」
「もうそんなになりますか。あなたと最後に会ってから子供ができ、こんなに大きくなりました。この人たちは息子とその仲間たちです。」
と、俺の肩を叩く。
「それはそうと、一つ話しておかなければならないことがありましてですね…。」
俺のことだろう。
この人は俺…桜田正義の子孫ということになる。
親父はこの前、俺の記憶がよみがえったことを桜田さんに話した。
「…そうですか…。そんなことが本当に…。」
と、信じられないといった表情で呟いた。
「タバスさん。お仲間さんを連れて一度家へ来てください。そこでもう少し詳しく話をしましょう。」
と言って、俺たちを連れて鉄製のドアを開け、中へと入っていく。
少し歩いた先に、小さな集落があった。
ここは放射線の影響をあまり受けない場所らしい。
「私はここの村長をやっています。さ、どうぞ入ってください。」
と、桜田さんは言う。
言われるままに屋敷の中に入り、通された部屋の椅子に腰かける。
「スクリードさん。あなたはご先祖様の記憶を持っているということで間違いないですか?」
「はい。自分の子孫と話してるってなんか変な感じですけど。」
「あなたに渡しておきたいものがあるんです。」
そう言うと、桜田さんは後ろの棚の方に歩いていき、額に入れた一枚の写真を持ってきた。
手渡されたものを見てみる。
するとそこには…。
「これは…。どうやって1000年間も保存したんですか!?」
俺の妻と子供、それに両親と一緒に写っている写真だった。
「それは差し上げます。どうか大事になさってください。」
あぁ。もう見られないと思っていた顔が、写真であるとは言えども見ることができるとは。
嬉しい限りだ。
俺は写真を大切にリュックにしまい、屋敷を後にする。
「どうかお気をつけて。」
と、桜田さんが言う。
「大丈夫です。写真、ありがとうございました。」
と、別れを告げ、旧横浜市街地へ向かっていく。
森を歩いていると、進行方向に光が見えてくる。
森を抜けたらもうそこは横浜の繁華街のはずだ。
森を抜けた俺たちを待っていた光景は、想像の何倍も悲惨なものだった。
形を保っている建物は無く、建物はどれも、ツタやコケで一部緑色になっている場所がある。
これがかつての故郷なのか。
目の前の現実を脳が処理しようとしない。
辛い。ひたすら辛いという感情しか出てこない。
俺はさっきもらった写真を一目見る。
そして、人目もはばからず泣き出してしまった。
このやり場のない感情は、どうしたらいいものか。




