本当の旅立ち
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…。
いつも通り、ここはまた夢か。
今度はなんだ?
灰色にしては暗く、黒にしては明るいもやがかかっている。
先が見通せない。
段々と目が慣れてきて、視界が回復する。
…なんだこれは…。
そこにあるのは、廃墟、廃墟、廃墟。形の残っていない建物が大量に無造作に置かれていた。
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「スクリード。そろそろ起きろよ~」
と、珍しくルセイが俺を起こしてくれた。
「珍しいな。お前が早起きしてくるなんて。」
家に泊まりで遊びに行った時もこいつは母親にぶん殴られるまで起きてこなかったという輝かしい経歴の持ち主だ。
「うっさいわ。今日が出発の日だからワクワクして眠りが浅かったんだよ。」
それは俺も一緒だ。
馬車が出る時刻はAM10:30。今の時刻は腕時計によるとAM8:00だ。
まだ余裕があるのでルセイとスティーノを連れて宿の1階にある朝食バイキングで腹ごしらえをして、宿のチェックアウトを済ませる。
「さて、二人共。長旅の準備はいいか?」
「「おー!!」」
みんなの気合が入ったところで馬車に乗り込もうとすると、遠くから声が聞こえてきた。
「よおボウズ達!旅が終わったらまたこの町に寄って行ってくれよな!土産話、待ってるぜ!!」
もうなんかこの人は優しいというか世話焼きなだけなのかもしれんな…
馬車の走行ルートはいたって単純だ。
アデレードまでの道のりはオーストランド最南端の道を海岸沿いにずっと進んでいく。
まっすぐ行けば一週間ほどでアデレードまで着くが、この馬車は急行ではないためいくつか停車する町があって、そこで一泊することになる。
その宿泊代は馬車の料金に含まれているのでお金の面では心配はなさそうだ。
停車する町は、オールバニー、エスペランス、ユークラである。
最初の町であるオールバニーには、明日の正午ごろに着く予定だそうだ。
「椅子が固くなくてよかったよ。おしりの骨が砕ける心配はなさそうだ。」
と、ルセイ。
「この路線はあまり道も悪くないらしいから心配しなくてもいいと思うぜ。」
「家の外で寝るのなんて、初めてですわ~」
一番心配なのはこの人だよな…音を上げずに付いてきてくれるかどうか…
「スティーノ、割と馬車は揺れたりするけど大丈夫?」
「友達と一緒に旅をする、私の夢でしたから、そんなこと大したことではありませんわ。」
いい夢だ。それなら不安要素は何もない。後は出発を待つだけだ。
時計台の針が10:30を指し、馬車が走り出した。本格的な旅が今始まると思うと、ワクワクが止まらなくなる。空は澄み渡っている。絶好の冒険日和である。
馬車が走り出して少しして、海岸線沿いの道をスピードを出しながら進んでいく。
ふと窓を開け、風を切って走る馬車から身を乗り出す。
自らの身体に当たる風の心地よさと、目の前いっぱいに広がるエメラルドグリーンの海に圧倒されながら、旅とはこうあるべきものだと実感する。
そもそも俺は都会が苦手だ。
親父と一緒に住んでいるあの家は嫌いではないが、たまに旅行に行ったりすると自然の偉大さや尊さを感じる。
…夢の中に出てきた世界は、本当に俺の知るこの世界なのだろうか。
もしそうであるのならば、この世界を絶対にあの廃墟が並ぶ状態にしてはならないのは間違いないだろう。
あの夢の中の世界と、立ち入り禁止区域には何か関係があるのだろうか。
それを知るためにも、まずはブリスベンまでたどり着かなくてはなるまい。
などと考えていると。
「どうしたんだよスクリード。険しい顔しちゃってさ。もっと景色を楽しむなりなんなりしなよ。あ!それか俺ギター持ってきてるけど聴くか?」
こいつも友達思いで良いやつだ。
「ああ。頼むよ。」
ギターを取り出すルセイとそれを目をキラキラさせながら見ているスティーノ。
夢の中の世界にはこんな幸せな光景はあったのだろうか。
あの世界の住人たちはどのような旅をしていたのだろうか。自然はあったのだろうか。
そんなことを考えてナーバスになっていると、ルセイが支度を終わらせて弾き語りを始めていた。
『少年は目覚め、歩み始める。外の世界はまだ暗くてわからないまま。あたりには黒い空気と赤い地面。それでも生き抜く少年は、また未来への第一歩。』
俺たちの地に伝わる有名な歌だ。歌詞が何を意味しているのかは分からないが、大切なことを伝えようとしている気がする。
今はナ―バスになっていても仕方がない。
自分からやりだした旅なんだ。最初から最後まで楽しみつくそう!