大猿
翌朝、昨日見た夢の内容の濃さで痛む頭を抱えながら、俺はベッドから体を起こした。
今日はチュウゴク地方をさらに東へ進み、オカヤマという町まで行く。
隣で寝ている親父とルセイを起こし、いつも通り仲間たちが集合する。
みんなを起こすのももう慣れた仕事だ。
そのまま、例のごとく朝食を済ませ、宿をチェックアウトして今日の冒険に出発だ。
武器を背負い、自転車に跨る。
今日も、死なない程度に頑張っていこう!
しばらく進んで、今日は山の中を走っていく。
ルートがルートなので、あまりスピードが上がらない。
山道を走ってきて、流石に疲れてきた。
「みんな~。一時休憩にしないか?」
と、仲間たちに呼びかける。
「「「「賛成」」」」
満場一致かよ。
みんな疲れてたんだな。
座れる場所を見つけ、少し休む。
すると。
「今なんかバキって言わなかったか?」
「俺も聞こえたぞ」
「え?ほんと?あたし聞こえなかったけど。」
いや、間違いない。
何か、いる。
バキバキと音を立てて出てきたのは、こないだのクマの大きさに匹敵…いや、超えるレベルの巨体をしたサルである。
もちろん、野生には元々こんな化け物サルはいない。
魔物である。
しかも明らかに毛を逆立てて威嚇してきている。
今日もまた、戦う羽目になりそうだ。
戦闘、開始。
「ねぇスクリード!矢が効かないよこいつ!」
と、ソフィーが悲鳴を上げる。
サルの分厚い毛皮は矢を通してくれないようだ。
ならば、我々刃物組が…と思ったが。
こいつ、とんでもなく手足のリーチが長い。
俺やルセイはもちろん、親父の両手剣でもリーチではかなわない。
なら、誰かが気を引いているうちに誰かが後ろに回って一撃で倒しきるほかあるまい。
この図体のデカいサルを一撃で倒しきる攻撃力を有している武器と人。
親父に頼るしかない。
「父さん!俺が気を引いているうちに後ろに回ってくれ!」
「奇遇だな。俺も同じこと考えてたよ!」
考えていることは一緒らしい。
血のつながった家族ならではだな。
サルの真正面に立ち、注意を引く。
それだけのミッションなのだが、相手は3メートルを超える巨体だ。
足がすくんで仕方ない。
親父、早く頼むぜ…。
剣先を動かしてこちらに意識を集中させる。
時折左右に跳ねてみたりして、敵がこちらの意図に気づかないようにする。
そろそろ頃合いだろう。
「父さん!今だ!」
と、大声をあげて合図を出す。
その声に驚いた大猿は、すぐに後ろを向くが、時すでに遅く。
俺の合図によって駆け付けた親父の剣は。
振り向きかけたサルの肩口から思いっきり振り下ろされた剣は。
袈裟切りで、サルの体を真っ二つにしていた。




