ウィルカニア(後編)
「ブリスベンに何かあるんですか?」
「何かあるも何も。あそこは今は聖域だのなんだの言われて立ち入り禁止になっているが、実際はそんなもんじゃない。」
えっ。聖域じゃないの?
「じゃあなんなんです?」
「話せば長くなるがいいかね?」
まぁ、時間はたっぷりあるし。
「いいですよ」
「じゃあ話すぞ。…大昔。人類は今では考えられないほどの技術を持っていた。君の持っているその端末や、儂の持っているオーパーツなんかが当たり前に使われる時代があった。」
それは学校でも教わった気がするな。
「そんな世界である時、2つの陣営に分かれて大規模な戦争が起きた。戦火は全世界に及び、街という街が破壊された。」
全世界での戦争なんて、とんでもないことが起きたもんだな。
「戦争はだんだん、片方の陣営に有利な状況になった。窮地に立たされたもう片方の陣営は、禁忌とされている兵器、【神の鉄槌】を使用した。」
神の鉄槌って兵器だったのか!?
そんなの初耳だぞ。
「その威力はすさまじく、神の鉄槌が落ちた、ブリスベン、ヨコハマ、カルフォルニアは火の海と化した。」
俺が以前見た夢の廃墟ってもしかして…?
「神の鉄槌の効果はそれだけではなく、不思議な力が働いて人間は衰弱し、動物は異形となったり戦闘能力が上がったりした。」
それが今の魔物になっているってことか。
「神の鉄槌が落ちたことによって主要な都市が崩壊した片方の陣営は、国としての効力を失い、文明が衰退してしまった。もう片方の陣営も、三日天下で文明を存続させることができなかった。」
それで今の文明は昔よりも劣っているのか。
「大体わかりました。でもなんでブリスベンは未だに立ち入り禁止になっているんですか?」
「それはだな…これは儂の憶測に過ぎないんだが、人間を衰弱させる不思議な力がまだ効果を持続させているのではないかと思っておる。」
人を衰弱させる力か…
…えっ俺これ行っちゃって大丈夫なのかな。死なない?
「古文書によるとその力は長時間でないと効果は薄いらしい。ブリスベンに行くならあまり長居しない方が身のためだぞ。」
なるほど。なら大丈夫そうだな。
「分かりました。色々とありがとうございます。」
「こちらこそ。危ないところを助けてもらったわけだからな。」
お礼を言って立ち去ろうとすると。
「あぁ。ちょっと待ってくれ。一つ言い忘れていたことがあった。」
「なんですか?」
「その不思議な力なんだが、もしかすると君たちで途絶えさせることができるかもしれない。」
「どういうことですか?」
「神の鉄槌を落とした側の陣営の古文書に、地面に落ちた後の神の鉄槌の扱いが書いてあった。神の鉄槌の表面にはスイッチがあって、それでさっき言った不思議な力を操れるそうだ。ブリスベンに着いたら地面に落ちた神の鉄槌を探してみてくれ。魔物たちの生成に何か関係があるかもしれないからな。」
なるほど。そのスイッチを押せば魔物の生成を抑えられるかもしれないのか。
「分かりました。探してみます。何から何までありがとうございます。」
「じゃあ、気を付けて行くんだぞ。儂はここで応援しているからな。」
町長さんの家を出て、宿へと向かう。
それにしてもいい人だったな。
それと、旅の目的もはっきりした。
今後は神の鉄槌のスイッチを切ることを目標に旅をしよう。
これは親父にも要報告な案件だな。
などと考えていると、もう宿に着いた。
速やかにチェックインを済ませ、寝る支度をする。
目標がはっきりしたので、明日からも頑張れそうだ。
そんなことを考えながら、俺は自分のベッドに入った。




