隣町
まずはオーストランド東を目指し、進んでいく。片手には、昨日拾ったオーパーツを持ち、そこに映し出される道を頼りに、隣町、ロッキングハムを目指し歩く。
…こいつがいるだけで安心感パねぇな。流石10年来の付き合いだ。
「…なんだ?こっち見てニヤニヤして…」
おっと。バレてたようだ。
「何でもねえよ。お前こそ、なんであんなに即答で付いていく事を決めたんだ?」
「…俺には親とか兄弟とか、大切にしたいとか、大事にしなきゃ、と思える人がいないからな。」
そうか。ルセイには守る人も、守ってくれる人もいないのか。
「そうか。ならお前はとっとと彼女作って、守るべきものを生み出さなきゃな。今回、来てくれるって聞いて安心したぜ。俺はお前を一番信頼しているからな。」
…などと話していると。
「出たな。クイックウォンバットだ。近づかれると危険だ。幸い気付かれていないみたいだから迂回して行こう。」
「了解」
ここいらで出てくる魔物は異形は少なく、ただ単に体が大きくなったり、足が速くなったりしている。ただ、現在の装備は青銅で作られた剣一本のみなので、油断は禁物だ。
迂回した道は海沿いの道で、辺りの海はどんよりとした空とは対照的に、とてつもない蒼さと透明度を誇っていた。
隣町までの道のりは、大半が海に面している。海という自然に癒されながら進む感覚は悪くない。
「町に着いたら今後の事の整理をするぞ。宿で一泊する。」
「どんなことを話し合うんだ?」
「走行ルートとか…いろいろだ。」
ピンが刺さっている場所…すなわち目的地はオーストランド東部ブリスベンだ。首都キャンベラ経由で行くには少し無駄がある。出てくる魔物も問題だ。東部の魔物は強いと聞いたことがある。ピンと何らかの関係を持っているに違いない。
「隣町まであと2㎞。もう少しだ。」
「おう。油断せずに行こう。」
冒険というものは、もっと派手なものを想像していたが、これはこれでありなのかもしれない。
なんやかんやあって、ロッキングハムに着いた。オーパーツの地図の縮尺を広げて、町中でも使いやすくする。
「あれ?見ない顔だね。パースのほうから来た人?」
と、声をかけられた。
「はい。このオーパーツの地図に示されている場所を探しているんですが、こういうの詳しい人知りませんか?」
追加情報はあればあるだけいい。
「あぁ、それならそこの路地をすぐ曲がったところにある骨董品屋のテレッゾさんなんかが詳しいんじゃないかな。若いのに頑張るね。いい旅を!」
「ご丁寧にどうもありがとうございます。」
良い人で良かった。
「じゃあそこに向かうか。ルセi…何してんのお前。」
ルセイがちょっと離れたところでうずくまっていた。
「俺、人見知りやねん。」
なんのこっちゃ。
言われたとおりに歩くとすぐにそれらしい店を見つけた。
「いらっしゃい」
そこには、いかにも骨董品屋のオヤジというような、強面で不愛想な白髪の大柄な男が立っていた。
「えーっと。テレッゾさんで間違いないですよね?」
「いかにもそうだが。」
「見てもらいたいものがありまして。」
などと言って懐にしまっておいたオーパーツを出すと…
「ボウズ!お前それスマホじゃねえか!どこで見つけやがった!?」
目の色を変えて話しかけてきた。
「見つけた場所はかくかくしかじかで…スマホ?ってなんなんです?」
「なんか俺聞いたことあるぞ。」
とルセイが言った。
「授業で言ってた。確か古代の通信機器だ。」
「お、よく知ってるな。ボウズ2号。」
「誰が2号じゃ」
と、ルセイ。
しかし、通信機器か。俺は今まで地図としか使っていないけどどうなんだ?
「まぁ今使える機能は地図程度しかない。ボウズの使い方は間違ってねえな。」
じゃあこれまで通り東を目指して進むのみか。
「ボウズ。お前らは何のためにこのピンへ向かってるんだ?」
考えたこともなかったな。でも一番は…
「冒険って、楽しそうだな。と思ったからかな。」
「フッ。そりゃあいい。その感情は大人になったら忘れちまう。楽しんでこいよ。ボウズ。」
と、その店を後にした。
宿に入って一息ついて、今後の事を話し合う。
「目的地はピンが刺さっている場所、ブリスベンだ。んで、俺らは今、パース近郊のロッキングハムにいる。歩いていくととてもじゃないがたどり着けない。」
「それなら心配ない。さっきアデレード行きの長距離馬車の時刻表をもらってきた。これなら2週間程度で着く。ちなみに次の馬車は3日後、発車するみたいだな。」
「でかした!んで料金は?」
「3000$だ。」
「高ぇよ。」
道中危険とはいえそんなに取られるとは…
「よし。今日はもう寝るとして、明日から日雇いのバイトをしよう。少しでも財布に余裕を持たせておきたい。」
「賛成」
そんな感じで、俺の夢みた冒険の1日目が終わった。