魔王の再臨
朝だと言うのに城の中は暗かった。灯りを付けようや。暗い中に光る優雅なはずの装飾が怖いっす。
「陛下、危険です。兵と一緒にお待ち下さい」
「君の心配は嬉しいけどそんなこと言わないでよ、ユキ。僕はシーベルエ国王としてこの決戦を見届けたいんだよ。それに君やエルという愛すべき国民だけを危険に曝せないよ」
ユキ、好きにさせて置けよ。ヤバかったらそいつ置いて逃げようぜ。
フム、こんな状況でも俺は冷静らしい。不思議と怖くない。
「ワッ!」
「何やってるんですか?ニーセさん…」
「チェ、つまんないの~。みんなの緊張を取ろうとカー君の面白いビビりっぷりに期待したのに~」
本当に空気を壊す人だ。カー君の反応はともかく中々楽しい趣向だぜ。
「着いたぞ。中に結構居るな。陛下、ここでお待ちを」
ジンの感覚を頼りに行き着いた場所。
謁見の間。空の玉座の前。そこにクレサイダは居た。おまけにヒョロメガネ、ニンジャ野郎とニンジャ軍団まで付いてました。
「やぁ、お待ちしていたよ。聖女様一行様。せっかくだから君たちも魔王シールテカ様の再臨を一緒に祝ってくれ」
魔力が構成物質のクレサイダの身体は小さかった。前回のニーセによる魔法のダメージが残っていると考えたいところである。
しかし、召喚門が現れている。後は開くだけだと言わんばかりに。
「では早速、魔王様に来て頂こう」
「させない!」
クレサイダがヘブヘルの鍵を翳す。
アレンが走る。行く手を阻む鎗撃。カーヘルがそれを防ぐ。
ニンジャ野郎とその取り巻きどももアレンの前に立ち塞がる。しかし、ニーセが派手にやってくれる。ニーセの魔法を避けたところでジンとユキによる追撃。俺はとにかく我慢だ。まだ、セレミスキーは使えるタイミングじゃない。
アレンのクレサイダへの道が開ける。しかし、現れるニンジャ野郎。振るわれるカタナ。アレンはその迫って来る鉄の塊をあっさりと切断し、ニンジャ野郎に追撃。ニンジャ野郎は後退する。そこに魔鎗の刃。アレンが受け止める。
「もう遅いよ」
更に魔力を使い、手のひらサイズとなったクレサイダの時間切れ宣言。間に合わなかった。ヘブヘルの鍵を奪われた時点で予想出来た最悪の結末。覚悟はしていたつもりだ。
召喚門が開く。
「クソォー!」
アレンが叫ぶ。
現れる男。外見は普通だ。猛禽類のような黒き翼が背中から生えている以外は。しかし…。
「凄い魔力だな…」
俺にはジンが呟いた魔力の凄さは感じられないが、容赦なきプレッシャーが俺の心の中のちっぽけな勇気を簡単に殺そうとしている。その存在感に圧倒されてここにいる人間どころか、時間さえも止まってしまいそうだ。
「ここはクーレか?」
その男の声はかなりの怒気が含まれている。
アレンが動く。一気に魔王に斬りかかる。
アレンに手を翳しただけだった。俺とアレンの距離はかなりあった筈だ。なのに、アレンが俺の側に転がっていた。
「アレン君!」
駆け寄るエルを手で制するアレン。無理にその身体を立たせる。
アレンを一動作で吹き飛ばした男は周囲を見ながら不機嫌そうに言う。
「忙しい中喚び出されて、いきなり斬りかかられるとはとんだ歓迎だな」
駄目だ。勝てない。クレサイダと桁が違い過ぎる。アレンがこの状態でどうやって勝てば良いって言うんだ。
「それでこの我をまたクーレに喚んだのは誰だ!」
怒鳴る魔王。城が震えた。
「私です。魔王様、このクーレを魔王様に捧げる為にお喚びいたしました」
「クレサイダか?お前は生きていたのか?それは、クーレに600年も残して悪かったな」
「いえ、構いません。また、シールテカ様に会えて本当に嬉しいです」
魔王の威圧感が少し和らいだように感じた。向こうとしては感動的な主従の再会。こっちとしては最悪なコンビの再会。
「それでは、シールテカ様。今度こそこの世界を魔王様のお手に収めましょう」
誰も動けない。何でだ。動けないんだ。勝てない。絶対に勝てない。いや、一人だけ居た。
「させません。絶対にさせません!貴方はこの世界の為に絶対に倒します!」
アレン・レイフォート。後に勇者と言われる男。
そのふらつきながらも剣を構える姿は俺達に勇気を与えた。
「まぁ、やってみるか。なっ、アレン。魔王さん悪いがあんたにはヘブヘルに帰ってもらうよ」
今までだって死ぬような無理やって来たんだ。最後にもう一回やってやろうじゃないの?この世界守る為に足掻いてやるぜ。
俺の手はセレミスキーに伸びた。
皆も武器を構える。このメンバーなら何だか本当に魔王に勝っちまいそうだぜ。
この後、この世界を巻き込む一大騒動は凄く衝撃的な結末を迎えることとなる。
次話、誰もが予想だにしなかった衝撃的結末が待ち受けています。…たぶんね。