終わりの前に 〈置いてかれるもの〉
何気なく抱いてしまった枕が離せなくなりました。一人は寂しいです。
明日で全てが終わるんです。明日が怖いんですよ。
みんな怪我しないですよね。誰も死なないですよね?
私は結局、前には立って戦えないです。みんなの後ろにいることしか出来ないですから不安なんですよ。
今、誰か一緒に居てくれないかな。誰かの部屋を訪ねようかな。
その曖昧に誰かにしている人の顔が浮かんでしまいました。一人でいるのに頬に熱がこもるのを感じました。
やっぱり無理です。大人しく寝ることに…
「エル、起きてる?入って良い?」
何で来ちゃうんですか~!いえ、来てくれて良いんですけどね。
私は精一杯の掠れ声で返事をしました。
「えっと、急にごめんね…」
「別にかまわないよ…」
本当はとても嬉しいです。でも、話が続きません。私は何を言えば良いのか頭がパニックです。アレン君何か言って下さいよ。
「今日ももう終わるね?」
確かにそろそろ終わって明日が来ちゃいます。
「アレン君は明日が怖いですか?」
私は怖いです。また、誰かが亡くなる気がします。その誰かがアレン君だと考えてしまうととても怖いです。
「…すごく怖い。またクレサイダと戦うと思うと怖い」
でも、とアレン君が辛そうに続けます。
「無事に終わったら皆と別れなければいけないのが一番怖いんだ」
そうでした。無事に済んでも、今まで旅をしてきた皆さんと一緒にいる理由が無くなってしまうんです。明日でアレン君と一緒に居る理由が無くなってしまいます。それはすごく嫌です。
「アレン君は…、明日が終わったらどうするの?」
少しの期待を込めて聞きます。お願いですからまた一人で何処かに行かないで下さい。勝手に置いてかないで下さい。
「ライ兄と一緒にまた旅をしようと思ってる」
そうか、アレン君はもう一人じゃないんだよね。ライシスさんが居ますよね。
「エルはどうするの?」
アレン君が聞き返してくる言葉が胸にとても重くのし掛かります。
アレン君と行きたい。そう言えたらすごく良かったです。
「私はシーベルエンスの騎士団に戻ります」
「そっか…」
アレン君が悲しそうな表情で私を見てきます。
でも、本当は私の事なんかどうでも良いんじゃないですか。
本当に悲しいなら何で誘ってくれないんですか?
何でいつも私を置いて行ってしまうんですか?
アレン君は卑怯だ。私はいつもアレン君だけを見てるのに、アレン君はいつも私以外の人を見てる。
彼は私に近づいて来るのに、私は彼に近付けない。
私はずっと待たされるだけなんですよ。アレン君は待たせてる気は無いから私が勝手に待ってるだけですけど…
「それで、今日何だけど…」
「今日がどうしたんの?今日よりも明日の方が重要だよ」
少し冷たい言い方になってしまったかも知れません。嫌われちゃうかも知れません。でも、もう良いんですよ。どうせ、私はアレン君に置いてかれるんだから。
「…その、今日はエルの誕生日だから、お、おめでとう」
私の顔はアレン君と同じくらい赤くなっていたと思います。私だって忘れてたのに。
「あの、これプレゼント。あの何を送れば良いか全然分かんなくって。対したものじゃ無いんだけど」
ポケットから出したそれを私の手に渡すと、アレン君は直ぐに去っていってしまった。
あまりに速い事態に頭が付いていけません。
やっぱり卑怯だよ。アレン君。
私の手に置いていかれたものを見ながら私の顔と心は緩んでしまいました。