私は赦される
「皆様、ご免なさい」
そう言ってシーベルエ・ガンデア連合軍のお偉方達が作戦会議と言う名目で集っている部屋に、体調が優れないを理由にライ君を残して去る私。
ライ君にはほんとーに悪いけど、私が居てもしょうがないしねぇー。まあ、ライ君に任せましょ~と。
明日にはグルアンかぁ~。久しぶりの故郷だなぁ。でも、帰りたくない理由があるんだよねぇー。
あの人に、会いたくない。いや、会いたいけど、怖くて会えないが正しいかな。自分で行くって宣言したけど少し気が重いなぁ~。
噂をすれば影が差すっていうけどね、頭で考えれば影が差すとは思って無かったよぅ…。
私に当てがわれた部屋の前にその人は姿勢正しく美しく立っていた。この人は私が認める世界一の美女です。
そして、私が世界一恐れる人。
「久しぶりね、ニーセ」
「お久しぶりです。ラベルグ魔導教官」
昔、叩き込まれた、この人を前にすると敬礼をしてしまう条件反射は健在だぁ~。
私は少し怖ーいけど、私の部屋にご招待。
「驚きました。教官が此方にいらっしゃるとは思ってもいませんでしたよ。ミシュちゃんはどうしたんですか?」
どうにもぎこちない雰囲気に、私の口がすらすらと動いちゃいまーす。
「軍から退役した私にも声がかかってね。ミシャは母に預けて来たよ。私も驚いたよ、訓練生時代に悪ふざけばっかりしていたニーセが、あんな高尚な演説を出来る立派な軍人になるとは思わなかったよ」
彼女の顔は優しく微笑んでいる。でも、これが悲しみを隠す笑顔だっていうことは分かっている。だから今の言葉と笑顔が、私にはとても痛い。だから無理にまた口を動かした。
「私は立派じゃないですよ。まだまだ未熟者でぇーす。教官みたいに格好良い女性に早くなりたいなぁ。男なんか目じゃないってぐらいの強い魔法が使えて、とても美人で、たまにするお洒落がとても似合ってぇ、声が透き通ってて綺麗でェ」
私の無意味な誉め言葉の列挙を彼女はただただ私を微笑みながら見ていた。私にはそれが無言で責められているように感じる。声が震えてくる。
綺麗な教官の顔が歪んで来たぞ
「教え子を本当に愛してくれてェ~、イ、良い旦那さんに…オッお嫁に…もらわれ…」
「ニーセ、もう良いよ。辛かったね」
教官が私を優しく抱きしめて慰めてくれる。何やってるの、私。本当に泣きたいのは教官なんだよ。
「ごめんなざぃ~、隊長、連れて帰れまぜんでしたぁ~」
「良いよ。ニーセは良く頑張ったよ」
私はまるで母に泣きつく子供だなぁ。出来るならラベルグ教官が母だったら良かったと思うことは何度もある。
私の実母は娼婦だった。実父は母も誰だか知らない。
一日三食御飯を貰えるだけで贅沢だと思える生活だった。母は2、3日帰って来ないのは良くあることだった。
母から離れられて、無料で御飯が食べられる。私が軍人養成所に入ったのはそんな理由。
でも、後悔はしなかった。ラベルグ教官に会えた。魔法を習った、勉強を習った、料理を習った、良い女の在り方を習った。
彼女は私を娘のように可愛がってくれたし、私にとっては彼女は本当の母だ。
そして、ラベルグ教官の旦那である隊長もまた私の中でいつの間にか父という存在になっていた。
養成所を卒業、入軍試験のセクハラ試験官を派手に懲らしめてしまい行き場の無い私を引き取ってくれた隊長。
ミシュちゃんの産まれて退役した教官と隊長の家に良く遊びに行った。ミシュちゃんも私の本当の妹のようになついてくれた。そのうちカー君というからかい甲斐のある可愛い弟役も加わった。
まるでママゴトみたいな時間を共に過ごした。とても幸せだった。
でも、お父さん役はもう居ない。
私はそんな回想をしながら、ただ泣いて謝るしか出来なかった。
「ニーセ、泣かないであげて。あの人は貴女の、“娘”の泣き顔なんて見たくない筈よ」
私は隊長の娘で良いのかな?貴女の娘で良いのかな?
「それに良い女は?」
「…良い男を落とす時以外涙を見せないです」
「よろしい。分かったら止める」
分かってますけど、涙は急には止まらないんですよぉ~。
でも、教官のいつもの対応に気持ちは落ちついて来た。ここで教官に会えて良かった。
その安心感がニーセ・パルケスト最大の油断を生んでしまう。
「教官…泣ける時に泣けるのが良い女でもあるんですよ」
早く泣き止めと言う教官にあの朴念仁の言葉を漏らしてしまう。
一瞬呆気に取られる教官。しかし、口元がニヤリとつり上がる。その教官の嬉しそうな顔を見て自らの失態に気付きました。
「それは“素敵な男性”に言って貰ったのかなぁ~」
教官の意地悪が始まる。私の顔に熱が集まるのを感じてしまう。
「あらあら、顔を赤くしてぇ~。先生は可愛いニーセちゃんの母代わりとして、しっかぁ~りとその人との話を聞いておかないとね?」
別に教官が面白いと思うことは何もありませんよぅ。
あの朴念仁は決して素敵な男性じゃないですからぁ~。
いかがでしたでしょうか、ニーセ・パルケスト出生秘話。
次もおセンチな話にする予定です。