魔剣、目覚める 2
見えてくるのは、ペグレシャンの祠と言う名のついたでっかい岩山とナールスが余生を過ごしたといわれている朽ち果てかけている木造の小屋。そして、身の丈にあった大剣を抱えた大男、ローブを纏う明らかに魔導士を主張した格好の女、真面目なことが取り柄であるとしか見えない剣士の青年。
どうやら、先客がいたようだ。
「よぉ、あんたらも観光か。」
祠に近付くと40代くらいであろうその 大男は仲間であろう二人との会話を留めて気さくに話し掛けてきた。縮こまる人見知りアレンの代わりに、俺が応答する。
「あぁ、ナールスの魔剣の寝顔を拝みに来たんだ。」
「オウ、俺もペグレシャンちゃんの夜這いに来たんだが、残念ながらナールスの親父さんの目が光ってて一目も見ることは出来なかったぜ」
そういうとオッサンは愉快そうに笑った。なかなか、面白いオッサンだ。ただ、横の青年が凄く不機嫌そうにしているのに気付いてやれ。
「カー君、下ネタぐらいで不機嫌にならないの」
後ろで杖にもたれ掛かっていた美の付くであろう女がフォローをいれる。
「別に下ネタで機嫌を悪くしている訳じゃないです。無駄な時間が過ぎていくことに苛ついてるんです」
真面目青年、ここにいることが無駄だというのか。よろしい、英雄ナールス魔大戦記について3時間ほど語ってやろう。
カー君は、俺の好意をアッサリと否定した。
では、ペグレシャンの祠へとアレンとともに目を移す。岩山に綺麗な半円型にくり貫かれた真っ暗な穴、その横に描いてある古代シーベルエ語。
「えーと、眠るペグレシャン、ここは…、違うな。ペグレシャン、ここに眠る。願う…、願わくは、永遠の平和の中で未来に…未来永劫に眠り続けよ」
「ライ兄、読めるんだ」
当たり前だ、アレン。俺は歴史の研究で研究院にいたんだぞ。
「おい、あんちゃん。古代語が解るのか」
おっさんもかよ。おーい、後ろのお二人さんも驚かないでくれ。俺はこれでも歴史、こと英雄史においては国で5本…、いや、10本…、少なくとも20本の指には入るほどの博学者だぞ。多分…
「おれはこう見えても、2年前までトーテスの研究院で歴史研究してたんだよ」
威張ってやる。
「スゴーイ、ライニィちゃん。世界一の学問都市トーテスにいたんだ~。天才じゃん」
素直に誉めてくる美女。
照れるじゃないか。
「一つ言っておこう。俺の名前はライニィじゃない。ライシス・ネイストだ」
ライ兄は、二人旅を始めて、二日目に、さん付けで呼ぶなと言った俺に対してアレンが小一時間考えた末に考えた敬称である。おそらく年上の女性には呼んで欲しくはない。
照れ隠しに祠に刻まれた形状維持であろう魔法陣を手帳に書き写す。600年前で今持って作動している素晴らしい魔方陣だ。
「ところで、学者さんよぉ。その今書いてる魔方陣から何が解る?」
今までと同じ軽いしゃべり方だがどこかに鋭さを感じるおっさんからの質問。
まるで、俺の能力を見定めようとしているような。
「そうだな。この形状維持魔法陣には、遺跡保護のために200年前に開発された手榴弾からの防御の魔法式は組み込まれていない。最も、手榴弾の威力ぐらいじゃ破壊出来ない防御壁で覆われているみたいだけどね。つまり、最低でもこの祠は200年以上前に造られたことが推測できる。こんなところか?」まぁ、ナールスが600年前に造ったのだから、新事実でも何でもないのだけど。
「お見事!」
おっさんがお世辞にも拍手をくれる。
「ところで、学者さん。一つ頼まれてくれねぇか?」
真面目な顔をするおっさんと横の二人。断れる雰囲気ではない。褒められて満更でもない俺は断る気もなかった。