たまにはのんびりと 1
トーテスの攻防戦が終了して、とても暇になりました。
トーテスをルンバットの二の舞にする訳にはいかないが、状況分からず動き回りクレサイダとばったり鉢合わせはもっと嫌なので、情報収集にシーベルエンスと国境の街ノースへと行ったユキちゃんの帰りを大人しく待つことになりました。
その間、何もしないのは暇すぎるので、親父の宿を手伝えを無視して、マードン老に戦術を教えてくれるよう何気なく依頼したところ、簡単に承諾してくれた。そして、俺は鬼教官に特別にマンツーマンでたっぷりと扱かれることとなった。
只今、夏も終わりそうな夕暮れの冷やかな風が流れるトーテス騎士団養成所グランドを走らせれている俺です。
「ハイ、後、三周ですよ。もっと早く走りましょうか」
マードン教官の授業は分かりやすく面白い。
しかし、マードン鬼教官は授業の前に毎回小テストを用意してくれます。その30点満点テストでペケをもらった数だけグランドを走り回って下さいとのことです。お陰で俺もかなり体力付いたかな、アハハ…。
グランドの隅で、カーヘルがアレンと仲良くチャンバラしてるのがとても羨ましい。
エルちゃんは、今日も絶賛妊娠中の妹の代わりにお母様と家のお手伝いを頑張ってくださっていることでしょう。
ジンは今日も俺んちの屋上で煙草を吹かしながらお昼寝していることでしょう。
何かしろよ!俺がこんなに汗を流している頑張ってるのに!
ニーセは分かりません。
本当に何をやっているんでしょうか?昨晩聞いたら、『ライ君が知らない方が良いことだよぅ』だそうです。とても素敵な黒き笑顔でした。
うん、知らない方が良いこともあるよね。もう絶対に聞いたりしません。
もうすぐゴールだ。ラストスパート、早く帰って一杯やるぞぉ~!
「お疲れ様です、ネイスト君。明日からは、50問用意しておきますから、復習を怠らないようにね」
最近やっと、ペナルティが10周以下になったのに、まだ、俺をいじめますか?さすが、稀代の戦術家。人を翻弄することに長けている。
だが、俺も成長していない訳ではない、対抗策を打ち立てる。
よし、夜逃げしよう!ハッハッハ、どうだ我が策は!
「レイフォート君、ドーヌ君。明日はネイスト君が逃げないようにしっかり私の元へ連れて来て下さい」
俺への扱きが終了して、一緒に帰るために寄ってきたアレンたちに予防策を授ける鬼教官。
抜かった。くそ、稀代の戦術家マードンはその叡智でどこまで俺を苦しめるつもりだ。
アァ、ユキちゃん。今、とっても君が恋しいよ。
早く俺たちの元へ帰ってきて、この鬼教官からの逃げ道を俺に示してくれ!
「ネイスト、何をやっているんだ」
「アッ、ユキさん、お帰りなさい」
アレンが一番に気付くいつの間にか後ろにいた人。
「お帰りィ~、ユキチャァ~ン!」
俺の喜びの全てを表現して、親愛のハグを…、
鞘が俺のデコを強打しました。
「ただいま。アレン、カーヘル」
ユキ、お前、今うまく笑えてないぞ。その下手な笑顔で皆が畏縮してる。
「さぁ、アレン、カーヘル。皆のところに帰ろう」
あれ、俺は仲間外れですか?二人も素直に俺を置いて行っちゃうの?
「ネイスト君。短い間でしたが御苦労様でした」
マードン教官。何でそんなしんみりと…
「私の授業は今日でおしまいのようです。優秀な君のこれからの活躍を期待していますよ」
手を俺に差し出すマードン教官。思い返せば案外楽しかったマードン教官との日々が俺の頭を駆け巡る。
そんな中、マードン教官の出した手を握る。
「俺はきっと無事にトーテスに帰ってきます!教官に教わったことを糧に頑張ります!」
少し涙声を出しながら恩師に決意を語る。
「そうですか…。では、小テストを用意して待っていますから早めに帰ってきて下さいね」
嵌められた!感動的師弟の別れは鬼教官の罠だったのか!
「ネイスト!何している!早く行くぞ!」
暮れなずむ夕日の中、歩く三人の仲間の背中を追い掛けながら俺は一つの決意を固めた。
絶対、トーテスには帰って来ないと…
うん、自分の作品で自分の作品からパロディって見ました。書いてる側は面白い。
パロディ元は、読者の皆様に何故かご好評頂いたニーセ様視点の『私は大丈夫!』。この話を投稿したら、閲覧数が急に増えました。つまりニーセ様は偉大ということです。
ライシスに迫る主人公交代の危機!(絶対にしません)
という訳で、次話はニーセ様視点で。
作者はいつ、如何なるときも皆様の有り難きご感想をお待ちしております。