ライシス、故郷に帰る 3
日付が変わり、場所も変わり、お袋という大魔王アーナ・ネイストの説教という名の最恐魔法から奇跡的生還を果たしたライシス・ネイスト。只今、朝も早よからトーテス駐留騎士団本部、トーテス駐留騎士団長執務室に居ます。
俺たちデコボコチームにプラス二人。ここの総司令官殿と補佐官だろう爺さん。あれっ、この爺さんに見覚えが…、まぁ、ここはトーテスだしどっかで見かけてんだろうな。
少なかれ俺は緊張してました。噂だと若いらしい。こんな辺境の地に送られてくる騎士団長。無能でわがままな大貴族さんか、融通の利かない堅物だろう。もしくは、平民出身で騎士団長並の優れた才能を持ち、貴族どもに反感を買ってしまった人間か。
「ジン!久し振り!お前が来てくれて嬉しいぜ!」
「マイケン。相変わらず五月蝿い奴だな」
「…ラスなら、お前が静か過ぎるんだよ。ってつっこむんだろうな」
「…あぁ」
暗いよ。話が重たすぎるよ。ラスってアレだろ。アレンが騎士団の時の隊長で、ジンの親友だったっていう。
ほら、アレンにまで暗さが伝染してるよ。
「えー、友達との昔話は後にしてくれるとありがたいんですけどぉ~」
さすがはニーセさん!湿っぽい空気を読まずにぶっ壊すなんて貴女以外には出来ません。
「その通りだな。失礼しました、レディー。俺がこのトーテス駐留騎士団を統括するマイケン・バースだ。君たちのことは騎士団総長殿に聞いている。まぁ、一応君たちは俺の指揮下に入ってもらうが、ジンと違って平民出身だから気軽に接してくれ」
俺の中の評価はうなぎ登りだぜ。騎士団総長も分かっているぜ。この男の下なら動きやすそうだ。
「マイケン、早速で悪いがこのライシス・ネイストの北方騎士団対策案を全面的に聞いてくれ」
ジンだけには予め俺の頭をフル回転させて考えた妙策を教えておいた。でも、全面的はまずいよ。
そこまで自信無いんですが…。
「ジン。大丈夫なのか?確かにお前の親父さんも評価した策師だが、戦術は素人だろ?」
まぁ、当然の反応だ。この騎士団長は部下と一つの街の命運を背負っている。俺のような得体の知れない奴に全てを託す訳にはいかないだろう。
出来れば、少しだけ俺の無い知恵絞った努力を聞いてくれれば良いよ。俺はそんな重責を持ちたくないんで。
「俺が認める。ラス以上のセコい策師だ」
ジン、それは誉め言葉ですか?頼むジン、ラスウェルさんがどんなセコい人かは、知るよしも無いが、俺に変なプレッシャーをかけないでぇー!
「ラスウェル以上のセコい策師ねぇー」
そう呟き、バース騎士団長は補佐官だろうじいさんに視線で意見を求める。
じいさん、貴方の騎士団経験豊富そうな意見で俺の存在を否定しまくってくれ!
「よろしいのではないですか?このライシス・ネイストはただ者では無いですよ」
ハイ?俺はただ者の中のただ者ですよ。じいさん、耄碌されてらっしゃいますか?補佐官変えた方がよろしいですよ、バース騎士団長殿。
「知り合いか?マードン」
いや、俺はこのじいさんと知り合った覚えは…
「えぇ、このマードン、騎士団に入り40年間でただ一度だけ、この男の術中に嵌まり見事に敗北しました」
やっぱりこのじいさんに会ったことありました。
俺が英雄ごっこで掘った落とし穴にまんまと嵌まったお方です。
その後、魔物に襲われる可能性のある街壁の外で遊んでいた俺を保護の名目で、恐怖の大魔王であるお袋の元へ送り届け、事の次第を大魔王に報告し、“私を罠に嵌めるとは、将来は名軍師になれる賢いお子さんだ”と笑いながら立ち去っていった、あの時の渋くて格好良いおじさん騎士団員だ。
あの後の大魔王様の仕打ちは記憶から消去した。
「なんだと…、トーテス騎士団にこの人ありと謳われた大戦術家“知将スミル・マードン”を策で破ったというのか!?」
あっ、また思い出しました。スミル・マードンってあれですよね、トーテス騎士団養成所で教官長やってる御方。昔、貴方の書いた『初歩戦術論』読ませて頂きましたよ。
「大変失礼しました!ライシス・ネイスト殿!どうかトーテスを救うために貴方様の叡智を我々トーテス駐留騎士団にお授け下さい」
あれ、バース騎士団長殿?
「この児戯のごとき戦術しか練れない老いぼれに、是非、戦術を教えて下され、ネイスト殿」
おい、じいさん、明らかに楽しんでるだろ!トーテスの命運が只のイタズラ小僧の両肩にかかっちまうんだぞ。
くそ、皆、俺がどれほど戦術に関してド素人か弁護するんだ!
ジンは…今回ばかりは頼りにならん。こいつは今や俺の敵だ。
アレン、エルその輝き過ぎてる瞳で言いたいことは分かるぞ。だが、君らの見ているバース騎士団長やマードン補佐官が頭を下げる凄いライシス・ネイストは偶像だ。目を覚ますんだ!
ニーセさん、とても愉快そうですね?絶対に貴女も俺の実力を正確に理解しながら、俺の受難を楽しんでますよね?
ここは良識人のカー君に…、駄目だ。
「まさか、父上の敬服する戦術家スミル・マードンを破った人が居たなんて…」
ガンデアのドーヌ卿を心酔させるほど素敵な戦術家なのですね、じいさん。
頼りたく無いが仕方がない。ユキちゃん、頼む。いつもように俺をしっかり扱き下ろしてくれ!
あれ、ユキちゃん?
あぁ、貴女の疑いの瞳が、後で俺に聞きたいだろうことの概要を伝えてくれてるよ。“只の歴史好きなひ弱な旅人が一騎士団長やシーベルエの現在最高の軍師に頭を下げさせるとはな?”でしょ。
いい加減、俺に対する過大疑惑をやめて下さいよ。
いつの間にやら四面楚歌の俺に、止めを刺したのは、裏切り者その一。
「ライ、時間が無い。早くお前の策を話せ」
良いさ!やってやるさ!俺の頭脳の貧困さを見せつけてやるさ!どうなっても知らないんだからね!
「是非、このマードンを嵌めたあの時のような素晴らしい罠を教えて欲しいものです」
あの落とし穴に十数年かけて俺自身が落ちるとは…、良い子は絶対に落とし穴なんか掘ったらいけないよ。
こうして、誤解を受ける度にどんどん誤解されるライシス・ネイスト青年なのでした。
そして、なんと!ナントォ~!
blazeblueさんが今まで、解読されてなかった天見酒言語を解読して、この『勇者と冒険記』という難文を、読者皆様に分かりやすいように簡潔にレビューに纏めるという偉業を成し遂げてくれました。
誠にありがとうございます。
そして、天見酒を応援してくださる皆さん、“別にあんたの応援なんてしてないけど、たまたま読んでやってるだけなんだからね!”っていうツンデレな皆さん、いつも本当にありがとうございます!