ライシス、故郷に帰る 1
叡智の集まる街、トーテス。
稀代の賢人バスタク・トーテスがこの当時の農耕にも牧畜にも向かない地を救うために、寒冷地に向いているイモや麦、乳牛などの生産を大々的に始めたことに起源とする。そのトーテスの独学による学識を求めて集まった庶民のために学問所を建て、その門弟たちによりいつの間にか学問の街となった。現在では様々な学問において国を代表する頭でっかちの集うシーベルエ最大の学問都市へと成長した。
「そして、この稀代の大天才ライシス・ネイスト様が育った場所なのだぁ~」
オイ、アレンとエル以外ノリが悪いぞ!わかっているさ、俺自身、自分の馬鹿に高いテンションが恥ずかしい。
もう日は暮れて、初夏だというのに息は白く曇り始める。
ユキが寒そうに肌をする。
だから、ターシーで長袖買っておけって言ったじゃないですか、ユキちゃん。俺は暑いよりは、寒い方が得意なのですよ。
「で、ジン?今から騎士団屯所に行くのか?」
「いや、明日で良いだろう。北方騎士団もそこまで早くはやって来ないだろう」
俺の予想じゃあ、後、三日ってところだろうけどね。
「じゃあ、良い宿知ってるぜ。よーし、皆、ついて来い!」
あー、久しぶりのトーテスは俺に元気をくれる。変わってない街並み。良いねぇ~。
学生さんの数が激減してるが…。まぁ、戦難を避けて地元に帰っちまってるんだろな。だが、予想に反してトーテスのメインストリート、高学院通りには活気があった。その活気は俺が通ることでさらに騒々しく。
「あれ、ライシスじゃないか?」
相変わらず、声がでかいぞ。カンタス。
「おっ!家出小僧帰って来たか!」
オウ!凱旋して参りました。誰だっけ?あぁ、雑貨屋のおっさんかぁ。
「良い、シューちゃん。あのおじちゃんに関わったらダメよ。悪いことばっかり教えるから」
聞こえてますよ。俺は断じて悪いことは教えませんよ、本屋のお姉さん。結婚したの?ちょっとショックだ。
「オイ、ライ坊!クルアさん、カンカンだぞ。殺されねぇように気を付けろよぉ!」
ご忠告は素直に受け取っておこう。肉屋のおっさん。
「ネイスト、凄く人気だな…」
「ほんとぉ~、スッゴい有名人だねー」
ユキちゃんとニーセがぽつりと一言。まぁ、この街では有名人だからね。
「色々とライシス・ネイストの武勇伝を作ったからな」
「えっ、ライ兄。凄い。どんなことやったの?」
「それは言わぬが花だ」
そして、この地では宿屋のイタズラ小僧ライシス・ネイストの名が恐れられている過去の事実も知らぬが花だ。
そして、俺たち一行がたどり着いた4階建ての建物。INNネイストの看板。
一息吐いて、その扉を開ける。さて、俺にとっての悪魔が出るか、天使が 出るか、それとも魔王が出るか。
魔王様が偶然出かけているなんて都合の良い話は無いんだろうなぁ。