再びふなれな船旅 3
「だからぁー、なにを考えてぇいるんですかぁ~ニーセさぁん。たいちょうになったんですからシャンとしてくださいよ、シャンと。あっ、隊長でした。下官にあるまじきぼぉげんお許しくだしゃい」
エルとアレンが二人で去った後、酒の勢いを借りたカーヘルがくだを巻く。飲み過ぎだ。
「カー君、飲み過ぎぃ~、ハハハ」
こちらもなかなかでき上がっているようだ。
悪いが俺はこれで失礼させて頂く。珍しく酒を口にしたアレンがエルに突拍子も無いことを仕出かすかも知れん。
「あっれ~、ジンさぁ~ん?まだ宵の口だよ~。もうちょっと付き合ってよ~。ね?」
ね?じゃない。俺はアレンが犯すかもしれない凶行を止めに行かねばならん。
「…酒に酔って、暴れちゃうかもしれないよ」
この女ならやりかねん。ニーセは思ったよりも酔ってはいないようだが、俺は席に再び着くことにした。
まぁ、良い。トーテスに着く前にこの二人には聞きたい事があった。
「それで、お前らは俺たちと共闘するのか?ガンデアに付くのか?」
この質問に急に萎れて頭を伏せて悩むカーヘル。俺に指摘されるまでもなく悩んでいた問題なのだろう。
「…僕にはどうすりゃ良いか。分かりませんよぉ…。ニーセ隊長に付いて行きます…」
「キャア、カー君、ダイターンな告白。あれ、カー君?カーく~ん!」
オイ、カーヘル寝るな。誰が寝たお前を運ぶと思っている。いや、静かになってちょうど良いか。
「それで、ニーセ隊長はどうするんだ?」
「うわぁー、美女と二人きりになって仕事の話しかできないのー?興醒めぇー。」
「酔いが醒めたようで何よりだ」
最もこの女はさほど酔っていたわけではないだろう。
「こんな美女と楽しくお酒を飲みたいと思わないワケェー?」
「誤魔化すな」
俺は聞きたいことを聞くだけだ。今は戯れに付き合う気はない。
「チッ!…私達の任務はペグレシャンとセレミスキーをガンデアに持ってくこと。だから~、アレン君、ライ君についていくの~」
「それで、トーテスで奪ってガンデア陣へ持っていくと?」
俺にはニーセの考えは読めん。ただし返答次第ではこちらもこの二人への扱いを改めて考えねばならない。
「…するわけ無いじゃない。隊長を殺されたんだよ。クレサイダを引っ張り出して焼き尽くさないと私の気が晴れないわ。その交渉の道具としてあなたたちを徹底的に利用させてもらうわ」
良い覚悟だ。全くの嘘でもないようだ。
「ガンデア軍と一戦交えることになってもか?」
「皆、真面目なニーセさんを見て良く誤解されちゃうんだけどさぁ、私って見た目程愛国心って持ってないんだよねぇー」
俺はどうやら真面目なニーセさんを誤解していなかったようだ。
「それに貴方も同じじゃないかなぁー。同じ騎士団。しかも、貴方に似ていけ好かないお兄様と喧嘩するんでしょー」
「同じだな。俺も見た目程は愛国心や家族愛を持ち合わせていない」
「心配しなくても、だーれも貴方がそんなものを持ってると思わないだろうけどねぇー」
「そこもお前と同じだ。おい、カーヘル、起きろ。戻るぞ」
ふらつくカーヘルを起こし、この話は終わりだ。
この二人は、少しは信じても良いようだ。
「後ろからグサッとされて、海にドボンされないように気をつけてねぇ~、…貴方の背中を狙ってる美女がここにいるからね」
少しは信じても大丈夫だろう。