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英雄時代の到来 2

「そう言う訳でして、私は今日の執務を以て、議会の決定により騎士団総長を退任することになりました」


また、大したことはない言わんばかりに言う騎士団総長。


「僕は認めんぞ。スコルト・レッドラート無しにシーベルエを守れる訳がなかろう!」


今回は国王に賛成する。身内に反逆者が出たとして、ジンの親父さんやジンがこの国に反逆するわけがない。今、シーベルエがこの騎士団総長を手放して得られる一時の安心は、ガンデアやウォッチ・レッドラートにすぐに不安に変わるだろう。

だが、この国で議会を承認した人物の息子には、すでに議会の決定を独断で覆す権力は無い。


「勿体無きお言葉です、シーベルエ国王陛下。例え、この身が騎士団から去ろうとも、シーベルエ国、陛下への忠誠は決して忘れません」


俺たちの存在を忘れてか、国王の目には涙が浮かぶ。もっと僕に力が在ればと…


「さて、私の最後の仕事をしなくてはいけませんね。セレミスキーは手に入れましたか?」


騎士団総長の質問に俺が代表して答える。ニーセやカーヘルの紹介を含む今までの経緯を全て話した。


「なるほど、セレミスキーは7つあって、クレサイダに2つ持っていかれましたか」


机に並ぶ5つのセレミスキーを眺めながら言う騎士団総長。


「魔王召喚。そんなことの為に戦争を起こしているのかガンデアは!」


怒る国王。前回と違って国王らしい姿だ。


「そんなことの為に僕は愛する国民達との熱い夜を楽しめず、国事に追われる毎日を過ごさなくてはならないのか!」


おーい、この場面ぐらい真面目な話をしようよ。


「ガンデア連邦はクレサイダに踊らされているだけですわ、国王様。かつて、魔王の召喚で一番被害を被ったガンデア人で再び魔王の召喚を望む人間は多くありません」


貴女は誰ですか?ニーセさんは国王を前にすると口調が変わるらしい。まぁ、それが当然ですよね。


「うむ。その通りだ。君みたいな綺麗な女性を産み出した国がそんなに悪い国な訳が無い。ところで、どうだろう。シーベルエ城で働かないかい。僕の秘書として」

「陛下、ふざけている場合ではありません」


ロンタル執政官長、そいつ追い出しませんか?


「諜報部隊軍曹ヨウカ・ヒノナカ!ただいま、帰投しました。入室許可を!」


部屋の外から聞こえるこの場に相応しくない元気一杯な声。


「彼女も間に合いましたか。入って下さい!」


間に合った、騎士団総長として情報を聞けるということだろうか?


扉を勢い良く開けて入って来た女性。ユキと同じ黒髪、黒目。名前からしてもカイナ人、そして、諜報部隊ということはおおよそニンジャだろう。


「アッ、雪先輩帰ってきてたんですね!!」


まぁ、ユキと違って愛想は良さそうだ。


「ヒノナカ軍曹、カイナは何と返事をくれましたか?」


「実際にシーベルエ陥落の危機になったら手を貸すとのことです」


「シーベルエに付くか、ガンデアに付くかのんびり見定めるってことかぁ。あわよくば、漁夫の利を得られるってね」


国王陛下のこの考察は外れて無いだろうね。

カイナの援助は得られない。


「ということは、自分達で何とかしませんとね。レッドラート中尉、スベルク伍長はトーテス駐留隊に転属が決まりました。北方騎士団長が間違いなくそこに駒を進めるでしょう。止めて来て下さい」


「了解しました」


「駄目だ!ジンサも居なくなったらどうやってシーベルエンスを守る!」王の言いたいことを理解する。

北からのシーベルエンス攻略の前に抑えなくてはいけない重要拠点貿易都市ターシー。シーベルエの重要財源、重要兵料庫のターシー。そのターシーを落とすには西のナールスエンドと北のトーテスを抑えてしまえば簡単だ。


シーベルエとしてはトーテスが体勢を整えるための時間稼ぎにしたいことだろう。トーテスが堕ちるのは予定済み。その間にターシーに本陣を敷く。つまり、ジンやエルは死地に送られた訳だ。


「俺は命令に従わなくても良いんだよな?」


「勿論ですよ。私たちに君を縛る権限はありません」

騎士団に所属していない俺は特にだ。


「じゃあ、俺は里帰りするぜ。そろそろトーテスの実家に顔を出さんとお袋に殺される」


俺のその台詞に仰仰しく頭を下げる騎士団総長。


「申し訳ない。私の愚息どもをよろしくお願いします」


あの、やめて下さいよ。別に只、里帰りするだけなんだからね!貴方の息子さんたちのことなんか知らないんだからね!

「一つ条件だ」


弱った人の足元を見て、利用出来るものは利用する。それが俺、ライシス・ネイストだ。


「ニーセ・ケルペスト、カーヘル・ドーヌの無罪放免だ」


ニーセは声を殺して笑い出す。カーヘルは俺の発言が余程信じられないらしい。


北方騎士団総長の判断は早かった。「駄目ですね。私の一存で決められることではありません」


しくじったか。


「但し、今は騎士団総長の入れ替わりで軍部はゴタゴタしていますからね。私は、前騎士団総長が新騎士団総長にうっかりここでの話を忘れても仕方がないと思いますよ」


つまり、ニーセやカーヘルの罪はここだけのお話ってことですね。大人ってずる~い。


「ところで陛下、ロンタル執政官長。セレミスキーって知ってますか?」


「さぁ、そんな名前の女の子は聞いたこと無いね」


「セレミス教会がすでに失われたと公表しているものですからねぇ。私も実物は見たことがありませんよ」

わざとらしく惚けるこの国の重役お三方。


同じくずるい大人な俺はこの餞別を素直に懐に収めることにしよう。

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