英雄時代の到来 1
ルンバットでのセレミスキー争奪戦、そして俺の中でまとも人間だと思っていたカー君が超危険人物に認定された次の日、ニーセは案外スッキリしていた。
いきなり、ジンに魔導士の命、魔力強化魔具であろう杖を渡した。
「ガンデア特殊任務第一機動部隊。シーベルエ騎士団に投降しまーす」
そんなにお茶らけて言って良いことなのですか?
カー君も腰の剣を外し出す。
「持ってろ。どうせこんな魔具など無くてもお前は人一人殺せる魔法は使えるだろ」
杖を投げ返すジン。
「うん!…貴方を焼き殺すぐらいは余裕だよ~」
ニーセさん?いつもに増して邪悪な雰囲気を纏ってますよ。
「武器を持ってるなら戦力に数えるぞ」
不敵な笑みを向け、ニーセさんの恐喝をあっさり流すジン。これが大人の貫禄か!というか、お二人に何か有ったの?険悪な空気が漂ってますよ~。主にニーセから
「なるべく貴方の背中に当てないように注意するねぇ~。…私、魔法のコントロール下手だから、高確率で当てちゃうだろうけどね」
この人恐いよォ~。
「そこはお前の腕を信用している」
ニーセさんが黙った!
「ユキちゃ~ん、この人やだよ~」
ユキに抱き着くという撤退に走るニーセ。ジン、ニーセに勝つとは、恐ろしや。
「僕はこの剣がなければ役立たずですが、持っていてもいいんですか?」
いつの間にか俺の隣に居るカー君。すなわち、俺の近くに居るアレンの隣に居る。とにかく離れなさい、カー君。
「構わん。反抗する気がないならな」
「今の僕が反抗してもアレンには敵いませんよ」
あれ、カー君、アレンを何で呼び捨てなの。そして、アレンをチラ見するのかな。お兄さん、とっても知りたいな。
そんなこんなでシーベルエンスを目指してルンバットを旅立った俺たち一行。
予想していたクレサイダの襲撃は全くなかった。
だが、このシーベルエンスへの三日間の旅は大変な道のりだった。精神的に。
まずはニーセ。
対抗心を何故か燃やし、ジンに事ある度にぶつかっていく。それをジンに大人な対応?にヒラリとかわされ、ストレスを溜める。そして、そのストレスは、ジン以外のメンバーに対する精神的からかいへと変換される。
ジンさん、たまには負けてやって下さい。俺たちの精神が持ちません。
そして、俺を追い詰める最大の危険人物、カー君!
事ある度にアレンに近付こうとする。
休憩中に剣の稽古に付き合ってくれ。寝る時にアレンの隣に来る。歩いている時に俺に無断でアレンに話し掛ける。
そして、アレンもアレンだ。さん付けをやめてカーヘルとフランクに呼ぶしさぁ~、今まではいつも俺の隣で食事したり、寝ていたのにカーヘルの隣ばっかりに行くしぃ~、俺に歴史の話題振ることも少なくなって、カー君と剣術の話に夢中になるしィ。カー君と楽しそうに剣を磨き合うしさぁ~。魔物と戦った時には先陣を切りながら“カーヘル、背中を任せます”だよぉ~。
なんでカー君にばっかりかまうの?そんなにカー君が好きなの?
ライ兄は寂しいです。
ジンがエルに対する過保護が今は凄く分かります。可愛い弟妹を奪われる気持ちが身に染みて分かります。
でも、俺はジンほどじゃない。分かっている。アレンにやっと気の置けない友人が出来たんだ。これは喜ばしいことなんだ。お兄ちゃんの事を忘れるぐらいの。きっとカー君の方が付き合いの長いライ兄よりも良いんだ。
嫉妬じゃないよ。俺の可愛い弟分が離れて行くのが少しだけ寂しいだけだもん。
そんな心苦しい三日間を過ごし、シーベルエンスに着きました。俺にとっては、カー君とアレンの急接近に比べて些細なことだが、街の様子がおかしい。
検問が厳しい。入る側も出る側も長蛇の列が出来ている。俺たちはレッドラートの名前で即パス出来たけど。
シーベルエンスで見える商店での食料の争奪戦。物価の高騰。巡回騎士の増員。
それらの現象の起きる原因は一つだけである。歴史学者たる俺には断言出来る。いや、歴史学者じゃなくても分かることだろう。だが、断定する確たる証拠を得るためにシーベルエ城に向かう。
再び、ジンの親父さんの執務室にたどり着く前に廊下を走るという非道徳的行為を行うロンタル執政官長に出会った。
「良かった。貴方達が無事に戻って来てくれて。それで、セレミスキー…、いえ、話はレッドラート騎士団総長の部屋で聞きましょう」
つい敬語が抜けるほど忙しそうなロンタル執政官長の早歩きにスピードに合わせて俺たちも歩き出す。
騎士団総長の執務室は前来た時と変わりがなかった。国王がソファーに寝ていなかった事と報告を終えた騎士団員が出ていったことを抜いてはね。
「で、ガンデア軍は何処まで進軍したんだ?」
この国のお偉方に挨拶を前にそんな事をほざいてしまう俺。ニーセやカーヘルがそんな俺にあんた何者って顔をするが気にしない。俺は正真正銘の平民だ。
「たった今、ナールスエンドが陥落したと報告が来ました」
どうと言うことはないと言わんばかりにサラッと言う騎士団総長。
「思っていたよりも進軍が速いな」
続く国王。
「速すぎるぜ。北方騎士団弱すぎるんじゃないのか?」
そんな憎まれ口を叩く俺は、結構苛ついている。戦争が始まった。もう少しガキの頃なら、わくわくしただろう。戦争は英雄を産み出す。生きてる英雄に逢える機会だ。
でも、何故だろう?死んでいったおっさんの為に戦争なんてやったらいけないんだ。そんな曖昧な感情が俺に取り付いてていた。
そんな俺に対して予想だにしなかった事態を伝える騎士団総長。
「その北方騎士団はシーベルエに反旗を表明してガンデアに就きました」
俺は何も言えずに、北方騎士団長の父親と弟の顔を凝視するしかなかった。
ガンデアが勝てば、英雄となるだろうウォッチ・レッドラートの家族の顔を。これからシーベルエでは、酷い扱いを受けるだろうシーベルエの大英雄の末裔達の顔を