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僕はもうダメかもしれない

宿の部屋に戻り、隊長の残していった荷物を整理する。

全くあの人はベッドに服を脱ぎ散らかして。パンツぐらいリュックに閉まっておいて下さいよ。なんて出鱈目な人なんだろう。


初めて会った時から隊長は出鱈目な人間だった。


15才のとき、父の治めるドーヌ領を出てグルアンの軍へ入った。

有力貴族ドーヌ卿の息子。それだけで実質的仕事の無い近衛兵へ。退屈だった。

そんな生活は長く続かなかった。半年も経たずに平民出身の先輩軍人の妬みから父を馬鹿にされて城内で剣を振り回し、異動。エロルド軍事総長から異動先を聞いて凄く後悔した。

特殊任務機動第一隊。様々な悪い噂を持つ最悪な部隊。隊長は昼間から酒を飲んで暴れる、上官に反抗する。凶悪な魔女が巣食う部隊。汚い仕事を押し付けられる部隊。どれも噂通りの部隊だった。


城の裏の角に立つ小さな雨漏りの酷い掘っ立て小屋。特殊任務機動第一隊のプレートの架かった扉を開けて見たのは、酒盛りをする赤ら顔の大男と綺麗な女性。僕を見て、隊長の第一声。“もうすぐ娘の誕生日なんだけどよ。何やりゃあ良いと思う”

因みにニーセさんは“リボンが良いですよぉ~、君もそう思うよねぇ?”である。


その初見が最低な部隊に所属して一年後、ドーヌ卿の子息をいつまでもそんな部隊に置いておく訳にいかないと僕に異動命令が下りた。


その時初めて、僕は上官に反抗した。


そして、この隊に自分で残った。


このダメ隊長と性悪副隊長から一年間で学んだことは驚くほど多かった。


軍人の外れ者の隊長から僕は軍人の仕事を学んだ。それだけじゃない。


隊長には魚の釣れない釣りも教えてもらった。酒場でのお酒の飲み方も教えてもらった。参考にならなかったけど、大人の男の磨き方なるものも教わった。

そして、僕にはまだ分からない、妻や娘、可愛い部下がいる喜びを語ってもらった。


隊長は、僕には追い付けない強い背中を持っていた。


隊長に最後に教えてもらったこと。


『強くなれ、俺よりも』


無理ですよ。僕には。


控えめなノックの音が聞こえる。


入って来たのは予想外のアレン君だった。


「どうしました?」


扉の前に立つだけのアレン君に尋ねる。


「その…少し心配で…」


視線を伏せて遠慮がちに言う。


「大丈夫ですよ。心配してくれてありがとう」


明らかなお世辞だ。君に心配される謂われは無い。


「…僕がもっと強ければ、ラベルクさんが死なずに済んだのに」


泣きそうな顔でそんなことを言う。君の足を引っ張っていた弱い僕の気も知らずに…。


「君は十分強いよ。少なくとも僕よりは」


扉の近くに居るアレン君に近寄りながら口が勝手に飾られた言葉を発する。何故か込み上げてくる怒りを抑えつけながら。


「そんなこと無いです。カーヘルさんの方が強いです」


その言葉に僕は抑えていた全ての感情が爆発する。


「ふざけるな!君に何が解るって言うんだ!」


完全なる八つ当たりだ。分かっている。でも、止まらない。

「僕よりも剣の腕が勝っている君に何が解る!弱い僕の気持ちが!尊敬する大事な人も守れなかった僕の気持ちが解るって言うのか!」


吐き出した。僕の中の嫌な感情を全て。何の関係も無いこの優しき青年に全てぶつけてしまった。


「…僕はシーベルエ騎士団第3独立遊撃隊にいました」


それがどうしたと言うんだ。


「ある任務で僕以外の隊員全員が死にました」


「僕と同じだと言いたいのか?でも、君は強い!今はライシスさんも側に居る!」


弱い僕とは全く違うんだよ!


「…違います。僕の尊敬していた隊長が最後に言ったんです。“お前は強い。世界最強だ。強い俺たちの騎士団の志をこれから持って戦ってくれる人間だからな。お前の強さは俺たちでもあるんだ”って…、でも、僕は皆から逃げました」


アレン君は泣いている。


「そんな弱い僕はライ兄に出会って、必要とされて、隊長達の志を、強さをまた持ちたくなって、だから、だからぁ、カーヘルさんは強いです」


涙をこぼし、嗚咽を漏らし、言葉の整理も出来ていない感情の羅列。でも、僕には彼が言いたい事がやっと解った。そして、僕は泣いていた。アレン君を無意識に抱いていた。


「僕は強いのか?隊長の強さを持っているのか?」


「カーヘルさんは強いです。ラベルクさんよりも」


「君よりも?」


「僕にはラスウェル隊長達の強さがありますから世界最強です」


そんなことを言いながら僕の胸の中で背を丸めて泣きじゃくるアレン君。

ならば僕は彼より強くなろう。隊長の強さを持って。

そして、声を殺して泣いた。



暫くその状態で泣いていると、思いの外気分がスッキリして来た。アレン君も泣き声が弱まる。


「ごめんなさい。慰めに来たのに…」


「いや、アレン君のおかげで元気が出たよ」


頭も冷静になってくる。

そうすると、今の状況が見えてきてしまう。


僕にしがみつくアレン君。その少女にも見える可愛いらしい顔が、僕の顔に吐息が当たるぐらいすぐ近くにある。涙で潤んだ瞳で僕の顔を不安そうに見つめている。

あれ、何なんだ?この状況は?あまりの恥ずかしさに顔が火照って来た。


「入るぞ。カー君、飯持って来たぞなぉあ~!」


床に落ちる食事。驚愕の表情を顔全体で表すライシスさん。

その後ろには、食事を落とすことはしなかったものの戸惑いを隠せないユキミさん。


「コッ、これは違うんです」


「カーヘル!テメェ~!アレンを危ない道に引きずり込もうとするとはぁ~!」


「ライ兄…、これは違うんだよ!」


慌てて僕から離れて赤面で弁解するアレン君。その慌てた仕草は事態を悪化させるだけです。


「アレンは黙ってなさい!お兄さんは男同士なんて絶対に許しません!」


ここは冷静な目を持つユキミさんに助けを求めよう。


「まぁ、私は別に他人の恋愛観は人それぞれで良いと思うぞ。ただ、昼間から過激なことはあまり宜しく無いと…」


それから長時間に渡る弁明と一週間近くは、アレン君に近寄るとライシスさんに監視された。

素晴らしき男の友情の芽生えの話です。

決してライシスのように誤解しないで下さい。


カー君!例えこの先も作者やニーセ、ライシスに苛められても、強く生きろよ!

そんな強く生きる君が大好きだぜ!



二話連続の人情話?でしたが、次こそは物語を進めます。

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