私は大丈夫だよ!
カー君だけに強制したつもりなのに、合わせて敬礼してくれるみんなの姿。
笑えるなぁ~。
「あ~ぁ、慣れないことしたから、疲れちゃた~」
本当に今日は疲れちゃた。
「ライ君、早くセレミスキー貰っちゃて、トンズラした方が良くなーい?」
私の提案に涙目だったライ君がセレミスキーを集め出す。ったくぅ、男の子が簡単に泣いたらダメですよ。特にカー君!
「ニーセさん、隊長は…」
「置いてくよ」
自分の声かというぐらい冷たかった。どっちみち、ガンデアには連れて帰れない。
「隊長、大きくて重いしね」
よし!弾んだ声を出せた。皆に愛されるニーセ様のキャラは大切にしないとね。
「ヨ~シ、カー君!隊長命令。後は任せた!隊長は疲れたから先に宿に戻りマース」
逃げた訳ではありませ~ん。本当に今日は疲れちゃたのだ。
「ニーセさん、あの…」
あっちゃ~、こちらもボロボロと泣いている。私が麗しきスマイルを向けてあげると何も言えなくなってアノとソノを繰り返す。アレン君、可愛いなぁ~。
「アレンくーん、お姉さんを口説こうなんて十年早いぞ~」
慰めようとするのもね。
「あの、足、治療しましょうか?」
エルちゃん、だったかなぁ?可愛い子だなぁ。
大丈夫!と一声だけかけて、私は、教会を出る。
今はこの足の痛みが逆に心地良く感じるんだぁ。
部屋に着いたらベッドに即ダ~イブ。
あぁ、ふかふかベッドが気持ち良い~!
…寝れない。まだ昼間だしね。でも、眠ってしまいたい。思考を停めてしまいたい。考えたくないことを考えたくない。
どのくらいそうしていたのか、只、天井を見つめていた私の耳に部屋の外からの音が入る。
「ニーセ、入るぞー」
「ハイハ~イ!」
普段からサービスを心がける私は元気な声を聞かせてあげちゃう。
「昼飯まだだろ。飯持ってきてやったぜ」
扉の向こうからお盆を持ったライ君とユキちゃんが現れた。
「ワァ~、ライ君、気が効くゥ~。ユキちゃんもありがとう!」
出来れば一人にしておいて欲しかったんだけどね。
「案外、元気そうだな」
「ユキちゃん、そういうこと言わないの。だから、可愛い気がないんだ」
そう言いながらお盆を置くライ君。
「ワァオ!二人ともいつの間にかすっかり仲良しさんだね!」
「違う!全然仲良くなんか…私はもう行くぞ」
そそくさと出ていってしまうユキちゃん。素直でよろしい!
「俺も行くぞ。ちゃんと食えよ」
私に気を使ってるな。
今は、ライ君のその優しい気遣いが憎らしい。だから、逆襲しちゃお!
「ライ君が食べさせてくれたら、食べれるかも~」
「そいつはカー君に頼みな」
笑いながらそれだけ言うと扉の向こうに消えるライ君。
残された料理に手を付けずにまた、ふかふかベッドにダ~イブ!ハァ~、幸せだぁ~。
「入るぞ」
オイ、コラ!野郎がレディーの部屋に、返事を待たずして入って来るとはどういう了見だ!私がベッドに寝転がるセクシーシーンを勝手に見やがって!
あれれ、私、今一瞬、悪魔に頭を乗っ取られてたみたい。困った悪魔ちゃんだなぁ~。
「聞きたいことがある」
仏頂面で体制を慌てて正した私の向かいのベッドに勝手に陣取りやがる女性に対する配慮の欠片もない男。私の少しだけ敵意を込めた美しき視線を無視して勝手に話を進める。
「お前らの少数部隊は分かる。だが、あの魔鎗を持った奴や クレサイダはかなりの人数だった。どうやって国境ノースを抜けた?」
レディーの寝込みを襲って仕事の話か?
だけど、聡明な私はこの男の言いたいことが解っちゃうんだよね。
私たちみたいに三人ぐらいの少数ならば、Iカードを偽造して只の旅行者を装えば、検問もそこまで厳しくは取り調べない。
ハシュ君みたいに大所帯の武装団体になってしまうとそんな偽造パスぐらいでは簡単には入れない。シーベルエに独断で検問を通すぐらいの有力な協力者がいなければ…
そこで、私の天才な頭脳にあるひらめきが生まれる。
普段はノースに駐在しているのにたった三人の密入国した軍人のためにナールスエンドに遠征した北方騎士団長。騎士団員を使わずに、まるで魔剣を途中で奪ってくれとばかりにライ君、アレン君を送り出した北方騎士団長。
ふと、その北方騎士団長の弟さんがまた私の断りもなくタバコを吸っていることに気付く。
そして、無言で見つめられていた自分が恥ずかしくなった。
他のことを忘れられて思考に耽って、気が軽くなってなんかないからね。
絶対にこの無礼男はそんな気を遣う奴じゃあないよー。
「ぜんぜーんわかんなーい」
「…そうか」
私の天使のごとき微笑みにも眉一つ動かさないで一言。用が済んだんならのんびりタバコ吸ってないでとっとと出ていけ!
あらら、私の中の悪魔ちゃんは今日は活発だぁ~。
「…お前、うまく笑えてないぞ。その下手な笑顔で、皆が心配してる」
何、言ってるのぉ~!そんな訳ないじゃんかぁ~。私は笑顔が素敵なニーセさんですよ。
「貴方に見せてあげるほど、私の笑顔は安くないだけだよ~」
何で!何で私の得意な愛想笑いも出来なくなってるの!しっかりしろ、ニーセ・パルケスト。
「…泣かないのか?泣きそうだぞ」
煩いなぁ~。早く出てけよ!
「良い女は、良い男を落とす時以外は涙を見せないものなのォ~。私を涙が見たかったら、良い男になって来てねぇ」
出直して来い、くそ野郎。
「俺はお袋に泣きたい時に泣けるのが良い女だと教わったが?」
「…ワォウ、女の武器を簡単に使っちゃうなんて損なお母様ね~」
そして泣きたい時に泣かせて貰えるなんて、羨ましいお母様だ。
「泣いておけ。今はそれで得られるものも大きい」
「何なのよ。その屁理屈…」
言葉が紡げない。
あれ、頬が濡れてる。
雨だ。雨が降ってきちゃった。アレレ、室内なのに何でだろう。
どんどん勢いが増していく。
困ったなぁ~。どうやって、このどしゃ降りは防げば良いのかなぁ~。傘なんて持ってないよぉ~。今日は雨が降る筈じゃなかったもん。直ぐにびしょ濡れになっちゃうよ。
私の頭に大きくて暖かい手のひらが置かれる。
まるで隊長が昔やってくれたように。
雨足はさらに勢いを増した。
全くレディーの髪に断りなく触れるなんて何様だ!そんなもので、このどしゃ降りは防げる訳ないでしょ?
まぁ、これは私のような良い女をびしょ濡れにさせた罰だ。この雨が止むまでずっとそうやっていなさい。
言っておくけど、私はぜんぜ~~ん大丈夫だよぉ~!
この無礼千万を極めた男が近くに居なければもっと大丈夫だったんだけどね~。
うん。
何時も作者の頭で勝手に暴れてくれるニーセ様を苛めてやろうと昨晩の寝枕で思い付いたストーリー。
ニーセ様にまたしてもやられました。
まるで魔法にかけられたようにすらすらと進む指。書いた後にビックリ!
ニーセ様ってこんなに良い女だっけ?
さておき、作者は皆様の愛という名の感想に大変飢えております。
どんな些細なことでも構いません。どうぞお気軽にお声をお聞かせ下さい。
お願いします!