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歴史に消えた英雄

「あ~ぁ。逃がしちまったか」


身体が軋んで立てそうに無い俺と違い、そんなことをぼやきながら立ち上がるおっさん。おいおい、そんな怪我で立てるなんておっさんも化け物だな。

まぁ、元気そうで良かったと俺から安堵の苦笑が漏れる。


「隊長。大丈夫なんですか。重傷なんですから寝てて下さい!」


カー君の命令口調が聞こえる。



そして、おっさんは力無くアッサリと倒れた。

その姿はあまりにも綺麗で、二度と見たくない光景だった。

一瞬全ての音が消える。


「隊長ぉ~!!」


カーヘルが叫び駆け付ける。ニーセも負傷しただろう足を引きずり必死にやって来る。


「アレン!!エルを呼んでこい!早く!!」


やっと頭が動き出した俺が怒鳴る。その声に一瞬戸惑いアレンが駆け出す。


「ニーセ、そこに居るかぁ?」


既に目が見えて無いらしい。ポケットから探り出し血塗れのIカードを掲げる。ガンデア連邦のエンブレムまで真っ赤に染まっている。


「俺の隊…お前に譲るわ…」


そのカードと言葉の意味を噛み締めて無言で受けとるニーセ。


「何…言ってるですか?隊長?ふざけないで下さい!今までで一番最悪なジョークですよ!」


おっさんの身体を揺すり、猛るカーヘル。


「カーヘル…。強くなれよ。俺なんざよりも…。自分の家族ぐらい守れるに」


「隊長ゥ~、臭すぎますよぅ~。その台詞は」

悲しく無いはずは無いだろう。でも、いつものおどけたニーセが居た。

頬を緩めるおっさん。


「ニーセ、お前に俺の持ってる全て…、俺の好きなこの世界の全部やるわ。この世界、お前の好きにしろ」


「ワォ~。隊長~、太っ腹ァ~。じゃあ、隊長の大事な愛娘のミシャちゃんをお嫁に貰っちゃおうかなァ。……しっかり承りました。カー君もミシャちゃんもラベルグ教官も…隊長にもらったこの世界の全てを守り抜きます」


途中で決意へと変わるニーセ。既に顔にはいつもの笑顔は無い。


「学者、悪いがこいつら頼むわ。ニーセは何壊すかわかんねぇし、カーヘルはまだまだお子チャマで頼りになるかならんか、少し心配なんだわ」

「分かった」


涙目の俺が答えられた唯一の言葉。


「アァ~。こんなことならもっと仕事サボってミシャと遊んでやりゃあ良かったぜ…」


騒々しくエルとユキを連れたアレンが入って来る。

おっさんの声は消えていた。


「隊長?隊長ぉ!貴方が死んだらどうすればいいんですか!これからミシャちゃんや奥さんは…、僕はどうすればいいんですかぁーアァァ~」


もう動かないおっさんにしがみつき泣きじゃくるカーヘル。

その時、聞いたことの無い怒鳴り声が飛ぶ。


「カーヘル・ドーヌ!!背を正せ!世界の為に戦ったガンデア軍人を前に見苦しいぞ!しっかりと立て!カーヘル!!」

その声の先にニーセは居なかった。おっさんから譲り受けたガンデア連邦特殊任務第一機動隊新隊長ニーセ・パルケストが居た。

直立をするカーヘル。アレン、ジン、ユキ、エル、そして俺の背も正される。ニーセが静寂をぶち破る。


「己の愛する世界を守り続けたガンデア軍人最高の英傑ケルック・ラベルク中尉の数々の武勲と名誉ある殉職に敬意を表して!」


大聖堂に響き渡り反響する凛とした号令。


「全員、敬れぇーい!」




己の愛した世界を守り続けた男、ケルック・ラベルク。


世界を救ったこの男の名はきっと歴史には残らないことだろう。


俺たちの中だけの大英雄はこの世界から消えた。

ネタバレという名の作者の哀しみと決意。




作者が連載当初から考え続け、何度も迷った話です。殺さないことにしようかどうか。


正直、この結末はどうしても書きたくて、書きたくなかった。

おっさん大好きだった。作者の意図していた以上にライシスやアレンを変えてくれる。

しかし、涙を飲んでここで舞台を降りてもらいます。でも、おっさんはこの物語にいろいろな影響を与えてくれました。


こんな駄文では、おっさんに申し訳が立たない。


腕を磨こう。

この“勇者と冒険記”の世界を守るために。

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