魔鍵セレミスキー 1
「ところでライ君、セレミスキーってどんな形してるの~?」
ニーセにしては適切な質問だな。
「知らん。普通の鍵の形をしている説も有り、光の結晶だって言う説もある。只の魔導書説もあるぜ」
セレミスは死ぬまで、セレミスキーを誰にも見せなかったらしい。教会は鍵型説を扱って、様々な美術品を残している。それが教会のセレミスキーを隠すための世間に対するブラフの可能性はある。
教会大聖堂の門を慎重に開いたと思ったら素早く飛び込むジン。
その軍人的潜入に続いて俺たちも素早く大聖堂に入る。
巨大な神の像の前に膝まずくセレミスの像。そのセレミスの掲げる手には俺たちの求めるセレミスキーを象る鍵が握られている。
神の頭に輝く冠の装飾品を始め、神の瞳や服飾、セレミスの瞳やセレミスキーに大小様々な宝石が使われ日の光を浴びて光る神秘的光景。
そして、床やベンチに横たわる聖騎士団員やセレミス教信者達の無数の亡骸と充満する血の匂い。
吐き気を催してきました。ある意味で熱心なセレミス教信者の俺が神聖なる教会で吐く訳にはいかないので、我慢します。
「奥の部屋に生存者が三人居る」
俺やアレンと違って、この場面に怯まないジンがこの状況をも的確に探っている。
「そんなこと分かんのか?兄ちゃん、すげぇなぁ!」
「へぇー、弓兵レッドラートの血筋って奴ゥー?」
こちらのお二方もご平気なようです。
「無駄話は止めだ。こっちに来る。」
神像の隣にある扉に銃身を向けるジン。それに続いて各々がその武器を構える。
重々しい音で開かれる扉。
出て来たのは、装飾の派手な修道服を着たヨボヨボなじいさん。
穏和な顔付きだが、目の色が明らかにおかしい。
「傀儡魔法ね」
ニーセがまた珍しく真面目で不機嫌そうに呟く。
「ヤァ。君たちも来ていたんだぁ」
ムカつく戯れ声を出しながら後ろから現れる黒坊主。
そいつに続いて現れる俺に何か言いたげなヒョロメガネ。
「逃げ…なさい、君たち!こいつは化け物だ!」
叫んだ後に呻いて倒れかける御老人。黒坊主が腕を掴んで乱暴に立ち上がらせる。
「教皇様、余計な事は言わなくて良いよ。セレミスキーは何処だい?」
無言で神の像の前に歩き出す教皇。
“それじゃあ”と一言、黒坊主。
俺たちに炎魔法が飛んで来る。いち速く反応して、光るペグレシャンでその魔法を掻き消すアレン。
前回と同じでアレンに伸びてくる魔鎗。それをカーヘルの剣が阻む。
同時に黒坊主へのジンの炎弾が放たれる。それを難なく交わす黒坊主。その黒坊主が避けた地点がニーセの炎魔法が直撃する。
カーヘルとアレンが示し会わせたようにヒョロメガネに突貫していく。
俺は、それを確認する前に教皇をめがけて駆け出すおっさんに続く。
教皇まで後十歩というところで、地面から炎が勢い良く現れ、おっさんの行く手を遮る。
「やってくれちゃって。特務一隊は僕の邪魔をする気かい?ガンデアに対する反乱だよ?」
燃えて役割を果たさなく成った黒ローブを脱ぎながらおっさんに尋ねる蠢く黒い塊。
ニーセさんが気持ち悪いと一言本音を漏らしました。
「特務隊にゃあ、国の危機に際しての独自行動権があるんでね。どう見ても危険なテメェを、俺のお国の為に斬らしてもらうぜ!」
格好良いぜ。おっさん。
そのおっさんの啖呵の余韻を消す轟音。
操られた教皇が、この大聖堂の重要文化財の神像を魔法で破壊し始めた。
そして、セレミスキーはその姿を見せる。
この表現は少しおかしいな。2000年前からセレミスキーはその姿を様々な人に見せていたのだから。