ふたり旅の始まり 2
俺は、英雄に憧れていた。シーベルエ創国記のシーベルエ初代国王、仁徳のカント・シーベルエと忠義の弓騎士レッドラートの友情。ルビー戦争の勇猛果敢な隻眼の騎士ハールック。東方紛争の女傑キヨイの最終決戦。おっと、ガンデア魔大戦の魔法剣士ナールスの魔王封印の話は絶対に外せない。興奮して話が脱線気味だ。
ガキのころから歴史書を買っては読み耽って、木刀振り回したり、英雄みたいな台詞を喚いてた。あー、あの時の記憶だけ喪失しないかなぁ。
俺は、無謀にも英雄になるために、剣と魔法を習った。その結果は今日のザマ。多勢に無勢とはいえ、雑魚モンスターに敗走する強さを身に付けただけだった。
剣の師匠には、王国騎士団に入れるレベルだが、出世したら奇跡になるだろうとお墨付きを頂いた。
少し大人になった頃にはハッキリと自覚できた。俺は英雄にはなれない。英雄になる才能、勇気も力も知恵も持ってはいなかった。
英雄になれない、そこで、何が残ったのかライシス青年は考えた。
歴史だった。ガキのころから、英雄好きで読んでいた。歴史好きがここで役に立ちやがった。
国の最高教育機関であるトーテス高学院の試験にまさかのパス。英雄になれないなら、英雄たちを調べ尽くしてやる。そう思って必死に勉強したよ。
その結果、高学院卒業後、何と学者の目指す最高峰、トーテス研究院に入ることが出来た。俺にしては、素晴らしい快挙だった。そのままそこに収まっていれば良かった。しかし俺は、歴史を研究するからには世界が見たかったんだ。英雄たちが活躍した本の中じゃない舞台を。
「そういう訳で、馬鹿な俺は安定した職場を飛び出して、研究紛いのことをしながら、英雄の幻影を追っかけて、今に至ると言うことだ。」
話し終えて、いつの間にか付いていたタバコの火を消した。
頼むよ、何か言ってくれ。すげぇ、恥ずかしい。
「まぁ、話も終わったところで、今日は疲れたから寝るぞ。灯り落とすぞ」
黙っているアレンに了解を得て、自分の姿を隠すために灯りを消す。
自分の過去を話すのは結構疲れるなぁ。
「ライシスさん、話してくれてありがとうございます。僕は立派な理由だと思います」
暗闇の向こうから、聞こえるアレンの心地好い小声。
うるさいな。俺はもう寝たんだよ。
今日は良く寝れそうだ。