聖都燃える 1
頭が痛いです。吐き気があります。風邪引いたかも知れない。俺はあれしきの酒では決して二日酔いなる症状にはかからないのです。
出来れば昼までベッドと仲良くしていたいところだったが冷血な女に叩き起こされました。
「それで、何処に行く」
「ユキちゃんは何処に行きたい?」
ふざけるなと目がオープンに語っている。
「まぁ、取り敢えずセレス・セレミスの墓に行ってみますか?」
「昨日、ガンデアの三人は何もなかったと言っていたが?」
貴女は何故ケンカ腰なのですか、俺にだけ。
「実際に自分の目で見てみなければ分からないこともあるのだよ、ユキミ君」
最も俺が見るのはこれが2度目だけどね。
ユキミ君、目の前の男性の言動が気に食わなくてもレディーが舌打ちをしない。
「ライ、当てずっぽうに付き合う時間はないぞ。何か読みがあるなら話せ」
ジンにはばれてたか。
「ガンデアの三人からはガセしか獲られなかった。情報は俺の知識しかない。ルンバットでセレミスキーがある可能性が高いのは2つだ。墓の中。しかし、これは恐らく既に誰かに盗掘されないっていうのはおかしい。おっさんならば、俺たちが来る前にこっそり掘り起こしてそうだしね」
「もう一つ俺の中の確信のある心当たりは、セレミス教教皇の手の中」
「でも、教皇様が聖具であるセレミスキーを持っているなら持っていると言えば良いんじゃないですか」エルちゃん、中々良い質問だ。だけど、それは綺麗事だ。
「セレミスがセレミスキーを召喚した後に、セレミスキーを巡ってルンバットが焼かれた事実があったとしてもか?」
そう、人々を救うために神を呼んだ聖人は、この地に戦いの火種も呼んでしまった。始めは消極的だったセレミスが宗教団体を承認するのはこのルンバットを守る為だったと俺は考える。宗教都市となったルンバットにセレミスキーは存在しない方が良いのである。
「つまり、戦禍を呼ばない為に教皇が密かに管理していると言うことか」
「ご名答。昔、トーテスの学者の一人が何者かに暗殺されて部屋ごと燃やされた。焼け残った部屋から出た手帳の一部に教皇の代替わりにセレミスキーが密かに引き渡される儀式があると書かれていたらしい。最もその手帳は行方不明になったけどね」
アララ、皆さん。顔が曇っていますよ。
「まぁ、学者はセレミスキーに関しては教団が教える以上に調べたらいけないよってことだ」
「セレミスキーを手に入れるには教団にケンカを売るしか無いのか…」
ジンさん、事を荒立てないで出来るだけこっそりパクりませんか?
「それにしてもお前は本当に食えない奴だな」
何がでしょうか?ユキさん。
「酔わされて、あの三人にペラペラと情報を垂れ流していたと思いきや、しっかりと重要情報は腹にしまって置くとはな」
少しは見直してくれましたか?俺は酔わされた訳ではなく、酔った振りをしていただけなのよ。だから、この頭痛を伴う倦怠感はきっと風邪を引いたんだ。
巡教者たちに交じって向かう先には日の光を反射して輝く壮大なステンドグラスが見えて来る。
セレミス教大教会。その豪華絢爛さはそのまま教会の威信を表していると言っても過言では無い。
巡回している物々しい武装の聖騎士を横目に、どうやってこの教会からセレミスキーを取り出すか頭を悩ます俺だった。
やっぱり武力行使?この人数じゃあ無理ですね。
ここはユキちゃんに頼んで泥棒になって頂くか。
これを口に出したら、ユキちゃんは殺人者になるでしょう。そして、俺は遺体に早変わり。
こんな俺の悩みを計らずも解決してくれたのはガンデア連邦の軍人さんでした。
さらには、新たな大きな問題も持ってきてくれた。