魔剣vs魔鎗、そして奸雄現れる 5
出来れば、頭と背中を冷やしてこの物体がクレサイダか確認したいが、俺にそんな余裕はない。
俺の化けの皮は剥がれかけている。くそっ!
身体の震えを隠すので手一杯だ。俺は、只の弱虫だ。
俺はこいつに当然勝てない。俺たちでも勝てない。
クレサイダかどうかはともかく、異界ヘブヘルの魔導構成体種族シャプトである可能性が高い。
ならば、剣や銃による物理的攻撃は効果はないと言われている。ダメージを与えるならば魔導しかない。
ヒョロメガネと話している間に絞り出した魔力がまだ残っているが、俺の中級魔法程度で倒せる相手じゃない。
このままでは最悪な全滅が目に浮かぶ。
そして俺の頭に浮かぶ最低なアイデア。
こいつらを当て馬にして逃げ伸びる。
俺の頭脳に残された生き延びる確実な方法。勝てないだろうが、このメンバーならば時間稼ぎに十分なる。
生きる為なんだ。元々、俺にはこんな仕事は無理なんだよ。俺はこいつらみたく強くはない。
心身どちらにおいても。
何で俺はここにいるんだよ!役に立たないのに!
俺はアレンのようには成れない。勝てない相手に喧嘩を売れない臆病者。ただ英雄の幻影を真似るだけの大根役者だ。
俺には戦うなんて無理なんだよ。仲間を守ることなんかできねぇよ!
だから、俺は一人で逃げる。
有難い、背中の痛みが罪悪感を消してくれる。
「ライシスさん!!」
俺の下からこれから裏切る人間の必死な声が聞こえる。
状況も見ずに考えすぎていたらしい。
目の前に迫ってくる炎の魔法。
俺は逃げることもまともに出来なかったらしい。これは、アレンがいなければ無能な俺が調子に乗って英雄に近付こうとした罰だ。この罪は死罪ものらしい。まぁ死んで当然の人間だな。
エル、巻き込んで悪いな。
そんな俺の目に映る頼りない小さな背中。そいつに似合わない醜い雄叫び。
光り放つペグレシャン。
そして、炎の上級魔法は切り裂かれる。
俺の前に立つその輝く背中にアレンとの出会いが思い出される。
アレンの左肩を貫く魔鎗。銃弾が魔鎗の追撃を防ぐ。
悲鳴を上げずにペグレシャンを構え直すアレン。その小さな身体は魔鎗手に向かって突進する。
その姿に俺は本日一番の恐怖を覚える。
何でお前はそんなに強いんだよ。どうすれば、俺はお前みたいに強く成れるんだよ!
「あの黒坊主は魔力を込めないと傷がつかない」
ジンに言い置いて、俺はエルを残して、黒坊主に背を向けて駆け出す。俺のリュックの元へ。
ジンの発砲音、おそらく魔法を使って弾を強化しているだろうを背に聞き、自分の荷物に手をかける。
「逃げるか!ライシス・ネイスト!」
ヒョロメガネの荒々しい声。
「あぁ、悪いが逃げさせてもらうぜ!」
俺の前に立つアレンの俺がどんなに足掻いても絶対に追い付けない領域にある小さな背中を見たとき、俺は覚悟を決めた。
生き伸びる為に逃げる覚悟を。