ふたり旅の始まり 1
日が落ちてた頃、無言で歩き続け、何とか村へと生還することができてホッと一息。いやぁ~、助かった。あの森の中で野宿はしんどいからね。
「とっとと宿屋に行って、金貰って寝ようぜ」
その当然の台詞に考え込む同行者。どうしたの?俺、何かおかしいこと言いました?
「お金、払うのでは…」
その当然のように言い放つアレンに俺が唖然。
「違う。仕事の代金を貰って、その金で泊まるの」
旅人の泊まる宿屋は、ただ客を泊めるだけではなく、その村や町で旅人が請け負える仕事の斡旋を行っている。それが、村民、町民の一時的労働力となり、旅人の糧となる。
アレンよ、そんな旅人にとって、重要なシステムを知らないのか。この子供でも知ってる常識を知らんとは、新米旅人にしても酷いぞ。それともこいつ、お坊ちゃんなのか?
アレンの人物鑑定をしながら、旅人先輩の俺がこの素晴らしきシステムを説明してやりながら、宿屋の扉を抜けたところ、暖かい店内で、カウンターに納まっている宿屋の主人が挨拶をくれた。
「お帰りなさい。ライシスさん。薬草は取れましたか?」
「おぅ、何とか。でも、聞いてないよ。鬼蜘蛛があんなに多いなんて」
宿屋のおっさんに愚痴るだけ愚痴って、薬草と料金を交換する。アレンは俺の後ろで黙っている。
「ところで、今日もお泊まりで?」
当然ながら、この商売トークには乗ってやる。身体がここで休めと言っている。
「俺はここに泊まるが、アレン、良かったら相部屋にしねぇか? そっちのほうが安いし」
今まで、石像のように黙って突っ立ていたアレンは、俺の提案にアッサリとしかもかなり嬉しそうに頷いた。
ウワァ~、こいつぅ~、結構可愛いわ。女の子だったら、襲っちゃうね。
そんな馬鹿なことを考えながら、借りた部屋へと向かう。
ベッドが二つ並ぶ、ユニットバス付きの狭い格安部屋。俺みたいな貧乏者にとっては、とても過ごしやすい落ち着いた環境である。アレンがいなければ…。
今の状況を簡潔に言えば、会話がないです。
隣のベッドに居心地悪そうに座りながら、食後のタバコを楽しもうとしている俺の方をチラチラと見ているアレン。うーむ、何と話し掛ければよろしいのやら。まぁ、アレン君もそれで悩んでることでしょうがね。
「まぁ、アレン、俺のことは気にしないで楽にしなさい。まぁ、気になることがあるなら聞いてくれよ。」
優しい俺の一言。何で俺偉そうなんだろう。
「あの…、ライシスさんは何故に旅をしているんですか?」
アレンがおそらくかなりの勇気を振り絞り訪ねてきた。うわぁ~、初っぱなから、スゴいこと聞くね、ボクは。
「どうして、そんなことを知りたい?」
「あのっ、すいませんでした。」
「いや、別に気にすることじゃないって。ただ、どうしてかなぁと思って?」
だから、泣きそうな顔にならんでくれよ。俺がいじめたみたいじゃないか。
「僕には、旅の理由が無いから…」
アレンはそう言いながら、俯いてしまった。その姿は、俺に話させることを強要させる一番の苦行だった。タバコの火を揉み消し、一息を入れさせてもらう。
「アレンの期待してるような立派な理由は無いぞ」
言い訳めいた前置きは上々。話してやろう、俺という素晴らしき愚か者の話を。