シーベルエ城の夜に 1
ロンタル執政官長の勧めにより今夜の寝床がこの城に決まった俺たちはやっとのことでこの息の詰まる部屋を出られた。騎士団総長に居残りを命じられたジンサ・レッドラートを置いて。
ジンサ・レッドラートに、外で待っているように言われ、部屋を出た。
そして、直ぐに可愛らしくて嬉しそうな声が掛かる。俺では無くて、後ろに続くアレンに。
「アレン君、帰ってきたんだ!」
この城では珍しくアレンに好意的な態度だ。アレンと同い年ぐらいの騎士団隊装があまり似合わない少女。その顔は喜びの一色に染まっている。しかし、こんな美少女の歓迎に上手く喜びを言葉で表現出来ないシャイボーイ。
「あっ…、アレン君は元気だった?」
顔を赤らめて、目を下に反らす女の子。
ウンの一言で済ますアレン。勿論、彼女の顔を直視はしない。いや、出来ない。こちらの顔も負けず劣らずの赤さである。そして、俺の苦手な無言空間が広がる。
何と無く雰囲気がピンクです。
え~と、俺やユキちゃんはお邪魔ですか?出来ればお兄ちゃんにその娘を紹介してくれるかな。二人はお付き合いは長いのかな?
このピンクな空気をぶっ壊してくれたのは、遅れて出てきた仏頂面のジンサ・レッドラート。
この状況をアレンと少女を一睨みする事で破壊。
最もアレンに対しては一睨みって長さではなかった。
しかも、さきほど拝見した目付きで。
それは哀れみと憎しみが混ざったような不可思議な目付きだった。
何かを語り掛けている視線に、アレンは叱られる子供のように顔を伏せている。
「全員、付いてきてくれ」
無表情に戻ったジンサ・レッドラートに連れ立ち城の中を歩く。五人も要るのに誰かがを喋る場面は全く無い。こうなると気の利いた小噺でもしたい衝動が急襲してくる。
到着先は、城の屋上。城下町が一望出来る絶景ポイント。何より城の中での所々で飛んでくる熱い視線が無いことが嬉しい。
塀に背を預け腰を掛けるジンサ・レッドラート。周りを気にせずタバコを吸い出す。じゃあ、俺も。何で、俺の時は睨むんですか、ユキちゃん。それは身分の違いによる差別ですよ。
「こいつが今回の任務に同行するエルシア・スベルク医術伍長だ。宜しく頼む」
「エルシア・スベルクです。騎士団員として未熟者ですが宜しくお願いします」
ご紹介頂いたのは、先程のアレンに好意的なお嬢ちゃん。俺としてもこのメンバーではアレンに次いで宜しく出来そうだわ。
空を眺め出したジンサ・レッドラートに頼まれ、エルちゃんに今回の任務とやらを説明し終わった俺。親切に質問タイムを設けてやった。
「え~と、ネイストさんは…」
「ライシスでいいよ。スベルク伍長」
「あっ、私もジン隊長達にエルって呼ばれているんで、エルでいいです」今更ながら王の発言に賛成。エルがいると空気が和むわ。
「それでライシスさんはアレン君とはどういう関係ですか?」
真面目に考えると難しい質問だ。
「旅のパートナーかな。なっ、アレン」
いつもに増して口数の少ないアレンは僅かに頷くだけ。目線は何故かジン隊長にずっと固定されている。
俺も質問していいか?あんた達二人とアレンの関係。特にアレンの同士殺しにまつわることを…
「それで、この後どうするんだ。レッドラートさん」
気楽に聞ける質問にしておこう。
「ジンで良い。解散だ。明朝、城門前に集合。エル、ライシスとアレンを客室まで案内してやれ」
そう言うとまた空を仰ぐジン。伝説の子孫殿は何を考えているのやら。
まぁ、旅の同行者としては、方っ苦し過ぎる奴よりは良い。タバコを好む分、ユキよりはマシであろう。
エルのガイドにより着いた俺とアレンの今夜の寝床は実に豪華絢爛。キラキラなカーテンの向こうにでっかいテラス、十人で使用出来るでっかいユニットバス、そして使い道の分からん屋根の付いたでっかいベッドが二つ。文句の付け所が分からんぜ。
俺、さっきの屋上で野営して良い?
この部屋よりはゆったり出来そうだ。