王の権威 4
黙る周囲に聞きたくはないが、寧ろ聞いてくれと言わんばかりの決め文句を言ってやる。
「それで、俺…、私たちに何をさせ…、どうしろって言うんだ」
不敬罪?ここまで来たら知ったこっちゃないね。そんなもんより恐いことが待っていそうだ。
国王からはいい度胸だのお誉めに与り、何故かアレンからは賞賛の眼差し。アレン、敬語を操れる大人に成りなさい。予想通りユキには無言で睨まれる。
「では、これからの貴方たちの処遇について話しましょう。彼も来たようですし」
騎士団総長の待ってましたと言わんばかりの事態。予言通りにドアが鳴る。
「第5独立遊撃隊隊長ジンサ・レッドラート、只今参上しました」
楽団ならばおそらくバスだろう声域。ほぼ同じだろう声で入りなさい。部屋の外ではここで待っていろの男の声がかかる。
入ってきた男は、騎士団総長を若くして、綺麗に生やした髭を白から黒い無精髭にした感じだ。
王様は常連客なのか驚く気配は無かったが、俺たちを眺めた訪問者は、アレンを見つけると顔を歪める。明らかな嫌悪の表情だ。だが、同士殺しを見る目ではない、何かもう少し違う理由のある嫌悪が含まれている。
俺は再び、父親だろう騎士団総長の誘いを断り立ち尽くす律儀な男に俺たちの経歴を簡単に語ることになる。
「さて、本題に入りましょう。貴方たち4人にガンデアが次に狙うであろうセレミスキーを守り、出来るのならば確保して頂きたい」
ほら来なすった。息子さんの北方騎士団長と同じで拒否権はありますか?
「行方の分からないセレミスキーを手に入れるにはライシス君の知識が必要になるでしょうし、アレン君のみが扱えるペグレシャンが必要になるかもしれません。貴方たちが適役なのです」
ロンタル執政官長、お世辞は要らんぜ。トーテスの研究院には俺以上の知識人はたっぷり居るよ。アレン並みの逸材は滅多に居ないがな。
他を当たってくれと言いたいところだが、責任感の塊なアレンは引き受けるみたいだ。俺もそろそろ運命への反抗期をやめるか。
「条件その一だ。後でこっそりする気のユキの報告を今すぐ聞かせて貰おう」
アレンが只で良い返事をする前に交渉だ。関わるならとことん関わってやる。
執政官長は渋顔。今更、俺を選んで後悔しても遅いね。王は俺流のユーモアがツボに嵌まったようだ。それまで無表情を通してきたレッドラート息子殿は驚愕。
騎士団総長の許可は易々と降りユキの報告は始まる。
「ガンデア連邦国首都グルアンにて大幅な議会の改変があり、軍事色に染まりました。また、兵の大量募集、兵糧の徴収が始まりました。ここまではすでに御存じでしょうが…」
国のお偉いさんならばここまで派手に動けばな。そのお偉いさんたちの巧みな情報操作で庶民の俺たちは知らなかったけど。
「ガンデアは極秘利に異界ヘブヘルより何者かを呼び寄せました。力不足にもその者に関しては情報を得られませんでした。申し訳ありません」
「構いません。御苦労様でした。さて、ネイスト君、クロツキ准尉の集めてくれた情報からガンデア連邦はどういう行動を起こすか推察をお願いします」
騎士団総長、俺はガキじゃないんだぜ。分かりきったことを。
「第二次魔導大戦とかかな」
俺の解答を聞き、機嫌がすこぶる良くなる国王。
「決定だ。我々が勝てばその名にしよう。ガンデアが勝てば、第二次世界統一戦とかだろうね。教科書に載る戦の名前を決められるのは勝った国の権利だからね」
中々な格言だ。その格言を口に出した後、国王は変わる。まるで一国の主のような風格が表れる。
「ライシスのような歴史家の仕事を否定するわけで無いが、僕は戦争の名付け親になる気はないんだ。国王として愛する国民を傷付ける訳にはいかない。戦争を起こす訳にはいかないんだ」
そこで頭を下げる国王。俺の背筋は真っ直ぐに伸びてしまった。
「シーベルエ国王として頼む。ガンデアとの戦争を回避するために力を貸してくれ」
国王の下げた頭は俺には重すぎた。二千年、この国を治めてきたシーベルエ王家の末裔は只の女誑しではなかった。
これがシーベルエ国王だと語る俺の身体の小さな震え。
感慨に耽る俺に水を差したのは、ずっと黙り込んでいた男。
「総長、今回の任務に私の隊のスベルク医術伍長の同行を許可して頂けないでしょうか。このメンバーには、医術師が居ないようですので」
「ダメ!ユキちゃんも行っちゃって、癒しのエルちゃんも出てったら僕は何を楽しみに生きたら良いんだ!」
女誑しの心の叫び。分かったこと。スベルク医術伍長は女性であること。現国王は、結局セクハラ野郎だということ。
勿論、騎士団総長の許可は簡単に降りた。