王の権威 3
目覚めし当代シーベルエ国王クーセリング・シーベルエの第一声。
「クロツキ准尉、まずは、ガンデアへの遠征任務ご苦労だった。…ところで、僕のもう一つの勅命を何故行わなかったのかを聞きたい」
先程までと違いそこには初代に並ぶ名君と噂に名高いクーセリング・シーベルエ王が居た。これが国王の風格か。
「畏れ多くも、もう一つの勅命を承った覚えがないですが…」
惚けている訳ではなく、本当に身に覚えがないようだ。俺は珍しく、国王に睨まれて身を強張らせるユキを助けてやりたい気持ちだ。
「覚えがないと!僕はあの時、この場所でしっかりと伝えた筈だ。今夜、僕の部屋に誰にも気付かれないように忍びこんで来なさいと。あの晩、寝ないで待っていたのに!レッドラートも聞いていただろ」
「確かに拝聴致しました。陛下が退室した後に、クロツキ准尉には真に受けないように注意しておきました。最もクロツキ准尉にはその必要はありませんでしたが。陛下、いい加減に私の部下に手を出すのは慎んで頂けませんか?」
初代に並ぶ名君は噂の中だけに居られるようだ。所帯持ちの女たらしは不機嫌に黙り込む。まともな話に移る。
ロンタル執政官長の先導でペグレシャンを手に入れてからシーベルエンスに着くまでの経緯を俺が代表して掻い摘まんでお話する。
途中、俺にとって都合の悪い、元盗賊たちに無断で職を与えたことやターシーであの三人組と再会し、船で酒を飲み交わした話をウッカリと話し忘れた。
そのことについてはアレンとユキも同じく忘れてくれていたようで非常に助かった。
しかし、俺が話終わるとまず口を開いた王様。
「ライシス君、何か抜けてはいないか?特に、ターシーからシーベルエンスへの船の中で」
この人を舐めすぎていた。いくらふざけているように見えても王の名は伊達じゃないのか。いや、普段は惚けて、周囲を油断させているだけだったのかも知れない。
「野宿ならまだしも、船の中だぞ。夜の船、静かな波音、月が浮かぶ海という素晴らしいシチュエーション。そこにカイナの黒髪の美人。さぁ、そこで何が起こった。まさか、僕の愛すべき国民を襲ったということはないよね」
愛すべき国民は女性限定な国王様に申し上げたいです。もし、国王のピンクな妄想通りの行動を行っていれば、今頃俺の斬殺死体が海を漂っていることでしょう。国王のお陰で話が中々進みませんよ。
俺の中で、権威が地に落ちた国王はロンタル執政官長に黙らせられる。
「ライシス君たちは世界七大秘魔具は知ってるかね」
国王と打って代わり、騎士団総長の的を僅かに外れる質問。勿論、頷く俺たち。俺たちどころかこの世界で学業積んだやつならば誰でも知っている。世界七大秘魔具についてなら三日は語れる自信があるぜ。
世界七大秘魔具とは簡潔に共通点だけ説明しよう。全て異世界から召喚されている、歴史に名を残す活躍を行っていること、非常に強い力を持つ魔導具、の三点である。代表を一つあげるならば魔剣ペグレシャンである。
「では、その中で現在シーベルエ国内にあると思われる3つの秘魔具は御存じですか?」
話を次ぐロンタル執政官長。俺にとっては九九よりも詳しく御存じですよ。
「ナールスエンド…、ここにある魔剣ペグレシャン。トーテス研究院に保存されている魔鎗エウクレイ、ルンバットにあると言われている魔鍵セレミスキーの三つです」
模範解答でしょ。そして、今までの話の流れから予想して言っておきたい。ペグレシャン以外の2つには俺は何の関わりないし、これ以上は関わりたくはない。すでに魔鎗エウクレイは研究院で触らしてもらったことがあるけど。あの時ほど研究院に入って良かったと思ったことはない。
だが、俺は厄介ごとに関わるという星の下に生まれたらしい。俺の気持ちを無視して事態は動いて行く。
「5日前にトーテス研究院から魔鎗エウクレイが強奪されました。おそらく、主犯はガンデアでしょう」
何、俺の初めてのおさわり記念の秘魔具が盗まれた。
ところで、もう一回強く願わして頂くが俺はこの件にこれ以上は関わりたくはないです。許可をもらえれば何も聞かなかったことにして立ち去ります。巻き込まないで。
ガンデアが何をしていようと知ったことではないのだ。俺に火の粉が降りかかって来なければ。
だが、神様はどうしても大火事の目の前に俺を連れて行きたいらしい。