王の権威 1
五体満足で地に足を踏み締めました、王都シーベルエンス。後、少しでこの大仕事は終わる。俺はやっと解放されるのだ。
「ここが難攻不落の王都シーベルエンスか…、これは攻められんなぁ」
おっさん、ナイスぼやきだ。歴史学者たる俺の見せ場だ。
「その通り!見ての通りこのシーベルエンスは三方を山に、一方を海に囲まれている。三方の山に関所を設け、海はこの港以外浅瀬、これで侵入路が絶たれる。初代シーベルエ王はこの天然要塞を拠点にシーベルエ統一戦争を行ったんだ。以来、一回も敵軍が王都に攻め入ったことはない」
「じゃあ、私たちがここで暴れだせば、シーベルエ初の侵略行為だね」
ニーセ様やめてー。歴史的建造物が乱立する俺の宝箱を壊さないで!
「ところで、ライシスさんたちはこれからどうなさるんですか?」
まだ船酔いの抜けない青顔カー君。その手には乗らんぞ。君たちとは残念だがここでお別れだ。
「僕達はペグレシャンを王城へ持っていきます」
アレン君、うっかり何言っちゃてるの。
いや、アレンの目には覚悟が宿っていた。
ここでこの人たちを試している。ここで捕らなければペグレシャンはこれまた難攻不落の王城へ行くことになる。
「良い目をしてるな、坊主。俺たちとやり合うってか」
笑うおっさん。アレンはペグレシャンに手をかける。
「ペグレシャンは坊主がまだしっかり持っておけ。勝負はまた今度だ。俺たちはもう一つの仕事を片付けにゃあならんからな」
おっさんの威圧感が俺の肌を暑くする。
「必ずまた逢おうぜ。じゃあな」
大剣を背負う背中を向け去っていくおっさん。
「ユキチャーン」
ユキに抱き着くニーセさん。ニーセの耳元での囁きに不意にユキが顔をしかめる。ニーセ姉さん、その生意気な女をもっと苛めちゃてください。
「じゃあね~。ライ君、アレン君、しっかり私のペグレシャンを守ってね」
予想外にあっさりと去っていくニーセ。
「皆さん、どうかご無事で」
頭を下げて恭しく去っていくカーヘル。カー君も元気でな。
こうして、おれの周りは少し静かになってしまった。正直寂しいです。
「では、私達も行くぞ」
聞き間違えでしょうか、ユキちゃん。『私も』だよね。くっついて来ませんよね。
「何をしている城に行くんだろ?早く行くぞ」
「いえ、ユキさんにそこまで付き合ってもらう訳には…」
その通りだ、アレン。この女のように遠慮を知らない人になったらいけないぞ。
「私も王城に用があるんだ。一緒に行こう」
「あの…、ユキさんは…」
「行けば分かるってことだ。アレン。行くぞ」
悪いがカッコつけさせて頂く。この女は自分をさらけ出す腹をくくったらしい。シーベルエ男児として狼狽えられるか!
そんな俺の意地は、シーベルエエンス城城門の壮大な景観に脆くも崩れかける。
庶民の入れない領域に踏み込むのだ。緊張しない訳がない。
最もこの後、庶民の俺がもっと踏み込んでいけない領域に踏み込むことになるのだけど。