二人旅と別れ 1
只今の近況を報告しよう。
絶賛奮闘中である。
主にアレンが
その我らがアレンが苦戦しているお相手は全身に黒衣装を纏う黒き長髪のお方。唯一の白い肌を見せる綺麗なお顔と僅かな膨らみの胸元が女性だと教えてくれている。
「ボッ、僕たちは盗賊ではないです…」
「何を戯けたことを。その自信のなさが言葉に現れているぞ。」
いや、単に人見知りなだけです。俺達は盗賊ではありません。
暇というか、あまりに速すぎる二人の動きについていけない俺はこれまでの経緯を思い出しながら、何故ここに至ったのか思考に耽ることにしよう。
レッドラート北方騎士団長から使命を押し付けられた俺たちはシーベルエンス行きの船に乗るためにシーベルエ最大の貿易都市ターシーに向かっていた。
旅は順調でした。魔物が出てもアレンのみの活躍により撃退、俺の出る幕は皆無。問題が起きたのはついさっき。
今日中には、ターシーに到着するぞ。という時に出会ったのは、覆面の男女の二人組。
身ぐるみをおいて行きなと陳腐な台詞。俺一人ならば、財布を取り出すところだが、此方にはアレンが付いているのである。
抵抗というのは間違っている気がするが、まあそういう姿勢をこちらが見せると少し痛い目を見ないと分からないようだねと女盗賊の陳腐な発言。
その結果、痛い目を見て頂きました。俺はもちろん痛い目に合うところを見ていました。
「命だけはお助けください。」
覆面を取り土下座して命乞いの盗賊。いや、取らねぇけどさ。
「あの盗賊は…、ヨ、良くないですよっ」
剣先を向けながらも弱気な発言のアレン。
「私どももそれは分かっております。しかし、実は…」
そこから始まった涙無しには語れない二人の身の上話。二人は兄弟であり、病を患っている老母の高額な薬代を稼ぐために泣く泣く犯罪に手を染めてしまったらしい。
一つ言おう。そんな陳腐な話しか出来ないのかその口は。
「ライ兄…」
剣を下ろし涙目で見てくるアレン。
うん、信じてるよ。君はこんな与太話で心が動く純粋な人間だ。溜め息一つ。
「まあ、あんた達もこんな仕事をやりたくてやってる訳じゃねぇんだろ。これをやるから町でまともな仕事を探せ。」
財布から1G金貨を取り出そうとする俺。騎士団長から渡されて財布が潤っていなかったら、こんな大金は渡さねぇけどね。
そのタイミングで嵐がやって来た。
「貴様ら何をしている。」
優しい俺たちは自分たちを襲った盗賊たちに恵んでます。
「追い剥ぎのみならず、か弱き女性を狙うとは見下げた行為だ!」
正しい意見ではあるが、間違いを指摘しておこう。アレンは見た目はそうだが、か弱くも女性でもないぞ。
「ア、あのぅ、もう終わりましたから」
突然現れて怒鳴る女性に気圧されるアレン。
「何をぬけぬけと!どうやら、その腐った根性を叩き治さねばならぬようだな。」
変わった型の剣を鞘から抜く黒づくめの女。
状況整理。
地面に座す武装解除された男女の二人組。目の前には、抜き身の剣を持つ男と財布の中を確認している男。
さて、事情を知らずにこの場面を見たこの女性はどちらを盗賊と判断したでしょうか?
答えは冒頭です。