魔剣はいずこへ 4
ところは変わりナールスエンド騎士団駐屯所の応接室、時間も変わりそろそろ夕食の時間帯です。
今日の俺の大活躍を考えると、早く夕飯を食べてベッドにダイブしたいところですが、俺たちの目の前のテーブルに置かれているのは、どう見ても食べれないアレンの剣と俺たちの身分を証明する二枚のカードである。
レッドラート北方騎士団長は俺たちの対面に座りゆっくりと人間観察中。
俺の隣に座るアレンは俺と騎士団長の顔を見比べて不安そうに顔を沈める動作を2、3分置きに繰り返す。
俺は何を言うでもなく威風堂々とソファーに腰を沈めている。内心はアレンよりも心臓がバクバクだけどね。
無言の30分が辛い。いっそのこと牢屋の中で良いから休みたい。そんな堕落しようとする俺に名も無き救世主が登場する。
敬礼と共に入ってきた名も無き騎士団員がガンデアのお三方を見失ったとのご報告。
「分かりました。では、引き続き人員交代しながらの捜索、捕獲をお願いします。…さて、ライシス・ネイスト君、アレン・レイフォート君。お疲れのようですし要件を早めにお伝えしましょう。」
「そうして下さるとありがたいです。」
平常心だ、ライシス・ネイスト。相手が誰だろうとビビる必要は無い。俺達は何も悪くない。たぶん。
「まずは、レイフォート君にこれを返しましょう。」
「えっ、いいんですか。」
アレンに心の中で続こう。良いの?それはペグレシャンだよ!
「返すと言うよりは預けると言っておきましょう。」
「と、言いますと?」
嫌な予感がしてきます。只より高いものは無い。
「君たちに魔剣ペグレシャンを王都“シーベルエンス”に届けて頂きたい」
「何で…、何故、私たちにそのようなご役目を与えるのですか?騎士団員を遣った方がよろしいのでは」
俺としてはペグレシャンを手離すのは残念極まり無いが、それ以上に厄介事は御免である。
「お恥ずかしい話、北方騎士団も手が足りてない次第でしてね。先程のガンデアのお客様を何としても丁重におもてなさなくてはいけませんので。それに、レイフォート君は除団員服役期間が終了していません。まだ、騎士団員として働いて頂けます。」
ネイスト君は、この制度を知っていますかと続ける騎士団長。
概ね肯定。要は騎士団辞めてもある一定期間は、有事の際に呼び戻されて働かせられるということであろう。国の一大事に優秀な人材が居ないなんて事態が発生しないようにする制度だろう。
今回の場合は悪用例。これを口に出されたということは、アレンがこの仕事を断ると騎士団を敵に回すことになるわけだ。
「分かりました。預からせて頂きます。」
ペグレシャンを受け取るアレン。
「それではレイフォート君に北方騎士団長代理権限を与えます。」
アレンのIカードに対して、おそらく王国騎士団長クラスに渡されるMIキーをかざす。このMIキーを使えば、その人の全ての経歴が載っており、その人のIキーがないと見ることのできない国民の必需品であるIカードを覗き放題、また、犯罪歴、特別権限の記入などもやりたい放題という素晴らしき犯罪魔道具である。
最もそんなことを考える俺のような人間には与えられる訳のない代物だが。
アレンのIカードに北方騎士団長代行権限という重すぎる権限を記入したレッドラート騎士団長は、Iカードをアレンに返し、俺のIカードを右手で弄びながら俺に聞く。
「それで、ネイスト君。君は騎士団として強制的に労働させることは出来ません。ただし、国の重要機密保持のために君を拘束することは出来ます。どうしますか?」
聞かれるまでもない。アレンが行くのなら付いていくさ。決して脅しに乗った訳ではない。
満面な笑顔の性悪騎士団長からIカードを無言で受け取る。それを見て心底嬉しそうな表情をしてくれるアレン。
もう一度、心の中で騎士団長殿に念を押そう。アレンが一人で心配だから行くんだからね。
凄く煙草と酒が恋しい気分だ。