魔剣はいずこへ 3
もうどうにでもなれば、そんな悲観主義者に転向する俺を全く気にすることなく、銃を構える騎士団員という素敵な背景を後ろにおじ様は紳士的なご挨拶。
「まずは、お久し振りですね。カーヘル・ドーヌ君。こんな場所で君と出会えるとは思わなかったよ。ドーヌ卿はお元気ですか?近々、また国境地帯の衛兵増員について会談に出向きたいのですが。最近、貴方達のようなガンデアからの不法入国者が増えていましてね」
うん、私の喉元に剣を向けられながら無言を突き通していらしゃるお方は、ガンデア共和国7大貴族の一人でシーベルエとの国境を守られているドーヌ公爵のご子息であられました。本当に貴方様は何故このような場所にいらっしゃるのですか。
「なぁんだ、カー君のお知り合い?この素敵なジェントルマンを私たちにご紹介して下さる」
相変わらずのラフ過ぎる貴女です。
俺とは異なりニーセさんは長い物には巻かれない肝が据わったお方であらせられる。いや、もしかしてこの御方もド偉い御身分をお持ちでしょうか。これまでの状況からありえそうで怖い。
「此方の御方は、レッドラート家の御嫡男で在られ、シーベルエ北方騎士団長を務められていらしゃるキアン・レッドラート様です」
「ホゥ、そいつは大物だ」
ド偉い身分の御方は訪問者の方でした。
説明しよう。
シーベルエ建国戦争の大英雄ハール・レッドラート。その大英雄の子孫であるレッドラート家は、1500年経つ今もシーベルエ国に忠誠を誓い、騎士団を統括してお国を守っているというド偉い御家である。ガンデアでも名が通るであろう名家に軽口を叩くなんて、おっさんは一体。
まさか、実はガンデア国王の隠し子とか。いや、さすがにないか。
どうやら、よく知らない人を見ると偉い人かと考えてしまう人間不信に陥ってしまったようだ。
「ところで、わざわざ不法入国までして遠いところお越し頂いた皆様に対して、このような場所で立ち話というのは失礼でしょう。私どもの駐屯所に皆さんを御招待したいと思うのですが如何でしょう。」
ご馳走しますよ、と笑うレッドラート北方騎士団長。
私は謹んで御辞退させて頂きたい。牢屋の中での荘厳なる雰囲気や素敵な晩餐のは、私ごとき善良な一般国民には場違い過ぎて似つかわしくないです。
「せっかくのお誘いありがたく思うが、仕事が残ってんでお断りするぜ」
おっさん達もご遠慮するらしい。
「御奇遇ですね。私も仕事中でしてね。では、お互い早めに仕事を終らせようではありませんか。貴方のお仕事がここで直ぐに終わるようにお手伝いしますよ」
「そんな御手数をお掛けする訳にはいかねぇよ。…ニーセ!」
「捕縛しろ!」
レッドラート騎士団長の号令と同時に大爆発。
轟音と共に飛び出るは視界を塞ぐ濃霧。これで銃は使えない。
次いで、おっさんが重要遺跡であるこのボロ小屋の壁を遠慮なくぶっ壊したであろう破壊音。そしてレッドラート団長の外を包囲しているであろう騎士への逃がすなとの激が飛ぶ。
この隙にあまり今回の件に関係なく巻き込まれてしまっただけの善良な一般国民の俺たちは、騎士団の仕事の邪魔にならないよう退散させて頂こう。
外から聞こえる騎士団員のものであろう銃声や悲鳴と恐らくニーセさんが派手にやっているのであろう爆音をバックミージックに手探りでアレンの腕を掴み、喧騒とは逆方向へ動き出す。
息さえも殺そうと必死な俺の腹に固い物が触れる嫌な感触。
一陣の風と共に消し飛ぶ俺たちの隠れ蓑。
視界良好になり、まず目に入るは、俺に拳銃を当てている北方騎士団長。口元だけの冷たい笑顔で
「貴方達は私の招待に“素直に”応えてくれますよね?」
もちろん、喜んで御招待を受けさせて頂きます。
とても熱烈な御誘いに涙が出るほど嬉しいです。