魔剣はいずこへ 2
「そういやぁまだ、名乗ってなかったな。ケルック・ラベルク。ガンデア連邦国特殊任務第一機動小隊隊長をやってる」
まぁ、おっさんことラベルク氏が軍人なのはさっきの戦い方を見れば頷くしかない。戦いの素人です、と言われたら間違いなく疑っている。
まさか、ガンデアの軍人だとは思わなかったけど。
「今回の俺達の仕事は、シーベルエから魔剣ペグレシャンを持って来ることだ」
「ガンデアはペグレシャンを手に入れてどうするつもりなんだ」
嫌な汗を掻きながらも冷静沈着を装った質問。声が震えてないだけ俺にしたら上出来だ。
「そいつぁ、俺みたいな下っ葉の知ったことじゃねけどよまぁ、頭の良い学者さんなら大体予想できるだろ」
おっさんと同じであろう俺の大体の予想なら、決して平和のためや人類の発展のために使われることはなく、むしろ逆の恩恵をもたらしてくれるだろう。
「俺は、お前らを結構好きなんだ。悪いようにはしねぇよ。大人しく付き合ってくれねぇか」
おっさんにお誘いを受けてもねぇ。隣で微笑んでいらっしゃる美女のニーセさんに別の状況で受けたら喜んで承りますが。
「アレン、どうする?俺はガンデアまで伸ばす羽は持ってねけど」
どのみちペグレシャンの所有者が決めることである。
「ごめんなさい。ガンデアの皆さんには失礼かもしれませんが、ペグレシャンを悪用されてしまう気がします。だから、僕はガンデアには行けません」
よし、アレン偉いぞ。自分の意見をはっきり言えたな。
「その通りだ。間違いなくロクでもねぇことに使われるな。坊主は正しい」
笑いながら言うおっさん。
「だがね、こちらも仕事なんだ。…カーヘル!」
そのかけ声に触発されて動き出そうとするアレン。その前に、カーヘルの剣が振るわれる。
俺の喉元に。俺を人質に捕るとは誰が見ても納得する良い判断だ。
「すいません…」
剣を突き付けながらも、本当に申し訳なさそうな表情のカー君を見ているとこちらも頭を下げてあげたくなる。
「ごめんね~、ライ君。アレン君、剣をしまって、お姉さんに渡してくれるかなぁ~」
こちらの心の込もってない詫びには苛つく。自分の非力さにも。
そんな役立たずのために剣を鞘にしまう心優しきアレン。
そんな天使から剣を受け取るために近付く悪魔のような美女。
いきなり、振り返ってこちらを麗しく睨むニーセ。その視線に俺の心が刺される。
まさか、読心術。さっきのは嘘です、貴女は天女のように美しい。その優しい貴女さまは私を火葬したりしませんよね。
にっこり微笑む天女のごときニーセ様。
「どうやら、私たちが向こうにいる間に盗聴魔術が仕掛けられたみたい。イヤね~」
まぁ、心を盗聴するより簡単ですよね。
溜め息に次いで剣を取り出すおっさん。
ボロい扉が軋むノックが1つ。
「失礼しますよ。ガンデア軍の方々」
このボロ小屋に優雅に失礼してきたのは、シーベルエの騎士団の制服に身を包んだいかにも良い家育ちな格好よい顔立ちのおじ様と同じく騎士団であろう服装の男二人。
俺の未来に殺されるか、ガンデアに行くか以外の新たな選択肢が生まれる。
おっさん達のお仲間として仲良く牢獄へ行く。
無許可で国の重要遺跡から秘宝を持ち去ろうとした盗掘者として騎士団のご厄介になる。
俺には輝かしい未来への選択肢はないようだ。