魔剣、目覚める7
倒れていたカー君がアレンの手を借りて痛々しそうに立ち上がる。自分一人で歩き始めたことから、心配したほどは酷い状態でもないようだ。
他の面々はピンピンしてるし、今度こそ愛しき煙草とほろ苦いキスタイムを楽しもう。という俺の恋路はまたしても阻まれる。
『いやぁ~、良い勇気を見せてもらったよ。』
俺たち以外何もない空間に響きわたる若さのある男の声。姿は何処にもあらず。
『皆さん、ご苦労様。ではでは、僕のとぉーっても大事な愛すべきペグレシャンを断腸の思いで譲ってあげちゃおう。』
認めたくない仮説を提唱しよう。どうやら、このくだけまくった口調の声は、魔術によって時を越えたリンセン・ナールスの声であろう。
あくまでも仮説である。
ナールスの敵味方問わずに感服させる威厳ある話し方をするということが、歴史研究上も重要な参考文献とされる俺の愛読本に記されている。
決して、このような不真面目な話し方をする人物である筈がない。もっと威風堂々とした人物なのだ。
よって、俺はこの仮説を棄却したい。例え現実世界が認めたとしてもだ。
『そこで、皆さんに残念なお知らせだけどね。僕の可愛いペグレシャンは一人にしかあげられないんだよね~。』
俺の心の葛藤は誰にも知られずにナールス(仮)の話は進んでいく。
『ということで、一番良いものを見せてくれたアレン君に贈呈しま~す。皆さん、拍手!』
カー君だけだよ。真面目に手を動かしたのは。不真面目な三名は無言で突っ立ってる。
「僕よりもライ兄やそちらの方達のほうが…」
いや、どう考えても俺らよりお前でしょう。
『アレン君、君の剣を掲げて』
アレンの意見を却下、マイペースを極めている。
指示通りにアレンは遠慮がちに剣を挙げる。
その剣めがけて落ちてくる閃光。空間が光で満たされ、俺の眼は反射的に閉じるという行動を選択する。僅かに聞こえたアレンの小さな呻き声とともに空間を裂くナールスの凛とした声。
『正義は君の中にある!君の正義を信じてペグレシャンを振るえ!それが君の進むべき道だ!』
最後の最後で、この威厳溢れる声は間違いなくリンセン・ナールスのものであると断定し、憧れの英雄の名台詞を直に聞けたことに感動する俺であった。




