魔剣、目覚める6
辺りは静まり返る。聞こえるのは、男二人の荒い息遣いとおっさんが煙を吐く音だけである。
「若いもんが情けねぇ。こんな軽い体操でぜぇぜぇと。坊主を見習えや」
「ハイ…」
素直に応える汗だくなカーヘル。
残念ながら、同じくカルイ体操で汗だくな俺は返事をする代わりに余裕なおっさんを見習ってタバコを吸おう。
「で、学者さん。この後はどうするんだ」
出来れば一仕事後の一服をゆっくり味あわせて頂きたい。
味あわせて頂きたかった。残念ながら、俺の至福の時に火を付けることは出来なかった。
またまた現れる召喚陣。出てくるは、さっきと同じ乱暴な試験官たち。どうやら、勇気を見せる試験は落第点。喜ばしいことにナールス先生は再試験を行ってくれるようだ。
出来れば、日を改めて頂きたかった。
「もう一回かぁ~。カー君、ライアス君、まだいける?」
「はい!」
良い返事だ。剣を構え出すカー君とそれに倣うアレン。若いって良いね。体力がある。
ニーセさん、俺は無理です。まだ、20代中盤で俺は若い方でしょうが、俺の中の常識では、人間の体力は20過ぎで普通は衰えます。
そこに居らしゃる二回戦突入する気満々の40代であろう元気なおじさんとは身体の鍛え方が違うんです。
「坊主とカーヘル、ドラゴンを任せる。ゴーレムは俺一人でやる。ニーセはさっきと同じだ。学者は自分を守りながら、このテストを終らせる方法を考えろ」
さっきと異なり元々のチームの能力に俺とアレンの戦闘能力加えて考慮した的確な采配。
ただし、俺を過大評価し過ぎだぜ。なぞなぞを解くのは苦手なのだ。『勇気』を示せ。そもそも『勇気』ってなんなんだ。俺の一番持っていないものじゃないか。これに関しては他の皆さんが考えた方が早いのでは?と、頭をフル稼働出来たのは僅かに一分。身に迫って来る刃の対応にも頭を使わなくてはいけない。
あー、どうすりゃいいの?
ニーセの援護もあり、何とか骸骨達の攻撃を避けまくる俺。案は案の定、何も出てこない。周りを見てみるがおっさんは、ゴレームの右腕をぶった切り、左足に取り掛かろうとしているようだ。一方、ドラゴン相手の若いお二人はなかなか苦戦しているようだ。主にカー君が。さすがに連戦の疲れが見え始めているようだ。
身体の動きが鈍るカー君は、防戦に専念せざるを得ない。そのカー君を助けるためにオフェンスからディフェンスに回るアレン。骸骨とドラゴンの猛攻にじり貧である。いつまで保つか。
早いところおっさんの加勢を期待したいが、ゴーレムという普通は訓練された戦士5人は必要なお方を相手にしているおっさんに、「とっとと片付けろ」は酷な話である。頼りになる魔導師のニーセ様はカー君以上にバテている頼りにならない俺の生命維持で手が回らない。俺はもちろん、勇気のなぞなぞに無謀に立ち向かいながら、目前の死から逃げ回ることを頑張っています。
ここは、ドラゴンを一撃で葬る我らがアレンに任せるしかないでしょう。
ふと、俺の中でこの場に相応しくない冷静な分析が頭の中を駆け出した。
これまでの戦績から分かることだが、アレンはドラゴンを一人で倒す力を持っている。しかも、余裕綽々で。ただし、一人でならばだ。
役立たずな俺が言うのは大変失礼なのだが、前回の村では駐在騎士団、今回はカーヘルがアレンの枷になっている。
いや、どちらかと言うとカーヘルが枷になっているというよりアレンがカーヘルを枷にしている。アレンは味方に合わせて攻撃に転じるよりも味方を守ることにこだわる。味方が殺られないことに異常にこだわっている。まるで『同士殺し』というクソ喰らえな異名の呪縛から脱け出そうとしているように。
そんなアレンがとても弱い人間に見えてしまう。
どうしたことやら、温厚な俺に似合わずに舌打ちをしてしまった。
そんな勇気の謎とは全く違う方向へと思考がジョギングしていく中、遂に、アレン・カーヘルの防衛陣は崩壊する。
ドラゴンの炎と骸骨の剣による連撃をかわしたカー君の懐にドラゴンの尾によるアッパーが捕らえた。カー君は垂直に宙に舞い、地面にうつ伏せに衝突する。カー君に身体と意識を向けるアレンと追撃の豪腕をカー君に降り下ろすドラゴン。
この大ピンチに活躍するは、良い仕事をすることで定評のあるニーセさん。ドラゴンの腕に風の刃が数発命中。グッジョブ。
それを感知してカー君の救援に向かおうとするアレン。
そして…
「アレン!!カーヘルを見るな!敵を見ろ!!」
こんな怒鳴り声が自分から発生するなんて俺もビックリしたよ。第一に俺が言えた台詞ではないでしょう。何、キレてるんでしょう俺は。
一瞬、固まるアレンに自分のことは棚どころか屋根の上にあげて、さらなる口撃。
「カーヘルを殺す気か!!」
自分の汚さに本気で自己嫌悪に陥るね。
目標をドラゴンに向けて、似合わない咆哮をしながら突っ込むアレン。炎を吐くために口を開けたドラゴンの上顎をその大剣にて貫通、怯んだところを脳天にぐさりと押し込む。
お見事です、さすがアレンさん。出来れば、先程の暴言は撤回させて頂きたい。
ドラゴンが倒れると同時に消えていく試験官たち。
どうやら、追試はパス出来たようである。もっとも、俺がパスしたわけではないのだが…
ただ、漠然とアレンの示した勇気の模範解答が合格したのは納得出来る。アレンは自分の恐怖に立ち向かったのだ。勇気を示すのは難しくて簡単なことなのだ。なんて、哲学っぽいカッコ良さそうなことを考えながら、不様に仰向けに倒れて過呼吸になっている俺でした。
もしも、この小説の更新を待っていて下さった方がいらっしゃいましたら長らくお待たせしまして申し訳ありませんでした。
次はお待たせしないように急いで書きます。