魔剣、目覚める 3
頼みというのは、どうということはない。祠内にある古代文字を訳してくれというもの。どうせ頼まれなくとも興味本意に訳すのだから快く引き受けた。
魔光石のランプに魔力を注ぎ、いよいよ祠の中へ。
入ったは良いものの中はなかなかにこざっぱりした空間。半径10mほどの石のドームの中に石碑が一つ。おっさんや先行研究者の言っている通り、ペグレシャンは姿を全く見せてくれない。分かっていても無念に思う。
まぁ、せっかくですし、既に他の研究者に解読されている石碑でも読み直しますか。
「カー君、ランプをこの位置で持っててくれ」
すぐ真後ろにいたカー君にランプを渡し石碑の文字を眺める。
「カーヘルです」
ランプを受け取り不機嫌そうに一言言う青年。
「ぜひ、カー君って呼んでね」
「絶対に嫌です」
おどける美女。否定する青年。苦笑する俺とおっさん。後ろで、人間観察中のアレン。
「カーヘルねぇ。出身はガンデアね」
文字を手帳に訳しながら俺の何気ない一言。一瞬にして固まる空間。
「何、どうした?」
慌てる俺。固まる三人。居心地悪くなるアレン。もしやヤバイこと聞いた?
「そうです。ガンデアの闘神カーヘルツェンから取った名前です」
「神話のカーヘルツェンとは似てない性格だけどもねェ~。特に女関係で」
また茶化すはこの女。まぁ、この真面目青年がカーヘルツェンのように勇猛果敢かはともかく数々の女に手を出すようには見えないからこの意見には賛同しよう。
「両親は勇猛果敢な男になるためにこの名を俺に付けたんです。女たらしになるためじゃないんです!」
「カー君、あんまりランプを動かさんでくれ」
「あっ、すいません」
いえいえ、こちらこそ。貴方のおかげで固まった空気が動き出し俺の作業意欲がアップしたよ。おっと英雄が書き記したであろう偉大なる文字に集中集中。
「よし、何とか文にまとまったぞ」
最も、研究院で読んだこの石碑に関する本で、記憶に残っていた部分はしっかり引用させていただいた。
「そんでその石には何て、書いてあるんだ」
煙草をふかしながら聞くおっさん。真面目になる空気。今回は、この空気に流されてやろう。
「読むぞ。
『魔剣を求めるものよ。知恵を示せ。魔剣はここに在らず。心の目を拡げてここを出よ。さすれば、目の前に魔剣の寝床が見える。
魔剣が誘いとき勇気を示せ。その時、魔剣は目覚める。
願わくは魔剣が平和のためのみに再び目覚めることを望む。
リンセン・ナールス』…だそうだ」
まぁ、この石碑が解読されてここに魔剣がないと分かってしまったから、俺たちのような物好きしかこの祠に寄り付かなくなっている訳だが、読み直して見ると改めてがっかりの2重奏である。
「で、どうすりゃ魔剣に逢えるんだ」
おっさん、俺だって逢ってみたい。出来れば、触ってみたいし、振ってみたい。でもねぇ、ナールスに封印されて以来誰も魔剣を見た人もいないんだよね。
「ライ兄。心の目を拡げてこの祠を出ればいいんじゃないの?」
おぉ、ナイスアイデアだぞ、アレン。ただし、心の目ってどうやりゃ拡がるんだ。
「まぁ、とりあえず祠から出ませんか?」
カーヘルのアイデアが可決。みんな揃って、祠から出ることに決定。心の目、心の目と呟きながら隣を歩くアレン。アレンは心の目拡げることはご執着のようだ。少しはこいつの熱心さを見習うべきだろうか。祠を出た大した収穫無しの俺たちを昼下がりの太陽だけが迎えてくれる。この輝かしい歓迎に目がなかなか付いてきてくれない。
「見えた!魔剣の寝床」
「どこに!」
走り出すアレン。まさか、こいつ、本当に心の目を拡げちゃったの!
慌てて追いかけようとする俺たちだったが、アレンの見た魔剣の寝床は案外近くにあったのだった。