逃亡者、被害者に会う
翌日、僕は姫野さんが殺してしまった男性の奥さんの元を訪れていた
さすがに子供に話を聞かせるのは酷なので、子供には聞かれないように話を進めることにする
「ハイト様、その節はありがとうございました。ハイト様のおかげで娘を1人にせずに済みました」
僕のことを覚えているようでお礼を言われる
「街での生活はどうですか?村とは勝手が違うと思いますけど、不便なことはありませんか?」
「色々と良くしていただいていますので大丈夫ですよ。それで今日はどういったご用件でしょうか?」
「旦那さんの件で来ました。旦那さんを殺した人があなたに謝りたいと言っています。」
「それはどっちの人ですか?」
どっち?もしかして全部知ってる?
「もしかしてミハイル様から聞いてますか?」
「いいえ、領主様からは何も聞いていません。私は夫が殺されるところを見ていただけです。男が女の子に夫を殺すように命令しているところも、女の子が夫の胸に剣を突き刺したところもです」
そうだったのか……。
「謝りたいと言っているのは姫野さん……実際に旦那さんを殺した女の子です。脅されていたとはいえ、殺してしまった事を後悔しています。……先に僕の方から謝らせて下さい。2人とも僕の同郷なんです。すみませんでした」
僕は頭を下げる
「頭を上げてください。ハイト様が悪いわけではありません。女の子の方であれば会うのは構いません。それに元々彼女のことは恨んでいません。私も同じ状況であれば、同じことをしたかもしれませんから」
「ありがとうございます。近くに待たせていますので連れてきていいですか?」
「ええ、大丈夫です」
僕は姫野さんを呼びに行く
昨日は心配なので隠れて様子を伺うつもりだったけど、その心配はいらないことがわかったので、姫野さんを中に入れて、僕は外で待つことにする
しばらく待っていると姫野さんが泣きながら出てきた
「大丈夫?」
僕は確認する
「ええ、大丈夫よ。昨日は殺されてもいいなんて言ってたのに、逆に心配されちゃったわ。影宮君もありがとう。やっと前を向けそうな気がする」
「そっか。良かったよ。また何かあったら相談してくれていいからね。僕が力になれるかはわからないけど、話を聞くことくらいは出来るから」
「うん、ありがとう」
この感じなら姫野さんは大丈夫そうだ。
「これから横井君の様子を見に行くけど、姫野さんはどうする?先にミハイル様の所に行って川霧達の話も聞くつもりだけど……。そういえば姫野さんは横井くんに会ったの?」
「会ってないわ。迷惑じゃないなら一緒に行っていいかな?ミハイル様と今後の話もしたいし」
「わかった。それと先に言っておくけど、横井君と会う時は僕は姿を変えるからね。僕の事を名前で呼ばないでね」
「う、うん。わかったわ」
僕達はミハイル様の屋敷に行く
「ミハイル様、お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだな。エルフの件は助かった、ありがとう」
会ってすぐにエルフの件の礼を言われる。
ちょうどいいからミハイル様にも言っておくか
「いえ、攻撃されるような事もありませんでしたから大丈夫ですよ。エルフの件ですが、ミハイル様にお伝えする事があります」
「ん、なんだ?」
「まず、エルフの女王が代替わりしました。まあ、エルフ以外にはあまり関係ないですけどね」
「よく状況がわからんが、女王が替わったから攻めてくる可能性があるとかではないんだろう?」
「それは大丈夫です。あの件は丸く収まってますので。それと、元女王がこの街に住むことになりましたのでよろしくお願いします」
「……いや、なにを言ってるんだ?話が飛躍しすぎていて訳がわからないんだが」
「元女王…エメラムルさんって言うんですけど、里の外に出たいって言ってたので連れてきました。エミルも一緒です。ミハイル様ならエルフだからって無下に扱うことはしないでしょう?詳しいことは、フィルの所で働いてもらうことになりましたので本人に聞いてください」
「ああ、そうさせてもらう。それで今日はその件を言いに来たのか?」
「いえ、エルフの件はついでにお伝えしただけです。召喚者を捕まえたって聞きましたので、その件がメインです。後は前の3人のその後を聞こうと思ってます」
「その件か。私からも戻ってきたら話をするつもりだった。誰からどこまで聞いた?」
「クルトからフィルを暗殺しようと画策していた所を捕まえて、僕の頼みを聞いて殺さずにいるってところまで聞きました」
「それで全部だな。ただフィルちゃんが狙われた理由に確信が持てないんだ。戦絡みではあると思うんだが、皇帝から戦の話が全く降りてこないからな。そろそろ準備を始めないと間に合わないんだが……」
あの皇帝、他の貴族に碌に説明していないらしい
僕はミハイル様にも戦の話をする
「なるほどな。それならそれで説明して欲しいものだな。まあ、王国に情報が漏れないようにしているのかもしれないが……」
「そういうことですので、準備は必要ありませんよ。それで横井君に会う前に確認したいんですが、フィルを殺そうとしたのは本人の意思なんですか?それともやらざる終えない理由があってですか?」
姫野さんみたいに、やらなければ自分が殺されるなんて状況なら助けてあげたいし、川霧達みたいに自分の欲のためにやったなら助けるつもりはない。
「本人は命令されたと言っているが、ヒメノみたいに断れない状況に追い詰められていたのかと聞かれると怪しいな。命令されたのは本当だが、やることによって自分に利があったのではないかと思う」
川霧達ほど酷くはないけど、姫野さんみたいに強制されたわけではないってことか
「暗殺が未遂に終わっているのはわかってますが、他に被害は出てないんですか?」
「他に被害はないな。標的がいたから、他で騒ぎを起こさないようにしていたのだろう」
「わかりました。会って話をすることにします。横井君がいるのは衛兵の所ですか?」
「いや、この屋敷の地下にある牢だ。あの3人もそうだが、他とは対応が違うからな。さすがに衛兵に任せるわけにはいかない」
川霧達もこの屋敷の地下にいるってことか……
「苦労を掛けてすみません。3人はその後どうしてますか?」
「最低限死なない程度の食事と水を与えて放置している。一応見張りは付けてはいるが、両腕がないからな。暴れることもない。反省しているのかは知らん」
「そうですか。地下牢に案内してもらってもいいですか?」
「ああ、こっちだ。ヒメノも行くのか?」
「はい。ミハイル様、後ほどお時間を頂いていいですか?先程、殺してしまった方の家族と話をして、自分がこれからなにをするべきかが少しわかった気します」
「ああ。今日はこの後予定が入っているから、明日話そうか。少し顔つきが変わったね」
「ありがとうございます」
僕は姫野さんにも偽装を掛けて、地下牢に向かった
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新作始めました
[クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです]
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[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
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