逃亡者、期待を背負う
ご飯を食べた後、僕は木の下で昼寝していた。
葉っぱが影になって気持ちいい。
「お兄ちゃん、起きて。馬車が見えたよ」
ミアに起こされる
起き上がって、少し待っていると馬車が近くに止まった
「お待たせしました、ハイト様!」
御者の青年が降りて挨拶する。
行きでも乗せてくれ青年である
急いで来てくれたようだが、さっきまで昼寝していた僕としてはもう少しゆっくり来てもらっても良かった。
「わざわざ迎えに来てくれてありがとう。行き先が帝都じゃないんだけど大丈夫かな?」
皇帝には念話で飛ばしたから会わなくてもいいだろう
「私は大丈夫です。ハイト様達を乗せることが出来るのは光栄な事ですので、私でよろしければどこまででもお連れします」
青年はキラキラとした目で僕を見ている
行きの時も実は気になっていたけど、乗っている時間も短かったので理由は聞かなかった。
ミハイル様の街までは長旅になるので聞いておくとしよう
「君はなんで僕のことをそんなキラキラした目で見るの?どこか他の所で会ったことあったかな?」
Sランクだからとか、そういった理由にしては尊敬の眼差しが過ぎる
「ご不快でしたか?」
青年は恐る恐るといった感じで聞いてくる
「いや、そんな事はないよ。これからミハイル様の街に行ってもらいたいんだけど、結構な時間一緒に過ごす事になるからね。気になったから聞いただけだよ」
「そうでしたか。大した理由はありません。ハイト様達が獣人を助けたり、村を救ったりしたことを聞いて尊敬しているだけです。権力に屈する事もないですし、見返りを求める事もありません。ハイト様達は弱者の希望なんです」
恥ずかしい。聞かなければよかった。
権力に屈しないって……Sランクの権力を振りかざしたりしてるよ?
「そ、そっか。みんなの期待を裏切らないように気をつけるよ。君も誰か困ってる人がいたら助けてあげてね」
「はい!」
いい返事が返ってきた。はぁ、弱者の希望なんて言われてもプレッシャーなだけだよ
「それじゃあ、よろしくね」
僕は逃げるように馬車に乗り込んだ
「お兄ちゃん、大人気だね」
ミアにからかうように言われる
「ハイト様“達”って言ってたでしょ?ミアも含まれてるよ」
僕はミアに真実を告げる
「え?でも私フィルちゃんの時は大したことしてないし、ルカちゃんの時は何もしてないよ。私いなかったよね?」
「実際にやったかどうかは関係ないんだよ。ミアはいつも一緒にいるから、僕がやった事はミアも一緒にやったとみんなには伝わってるんだよ」
「そんな……」
ミアはショックを受けている
「諦めて一緒に受け入れよう。悪いように言われてるわけじゃないから。恥ずかしいだけだよ」
「うん……」
馬車は静かに走り出す
「さっきはあのように聞きましたけど、ハイトさんはスゴい人だったんですね」
エメラムルさんに言われる
「ま、まあ、冒険者だからね。普通の人よりはスゴいかもね。さっきも言ったけど自分の目で確かめるといいよ」
助けを求めようとミアを見る。どこか遠くの一点を見つめている。
現実逃避中のようだ
「そ、そうしますね」
エメラムルさんも察してくれたようだ
その後、エメラムルさんがこの話題を出す事はなかった
馬車の中は異様な空気のまま進んでいく。
お菓子を食べたり、寝たりしていたら少しづつ気持ちが回復してきた。時間が解決してくれたようだ。
ミアも大分いつも通りになってくれて良かった。
僕達は褒められ慣れていないので、持ち上げすぎないようにして欲しい。
移動を終えて、ミハイル様の街に戻ってきた
「とりあえず、フィル達の所に行こうか」
前回の失敗があるので、僕はノッカーを使って入ることにする
「ハイトさん、おかえりなさい。お久しぶりです」
サラさんが出迎えてくれる
「サラさん、お久しぶりです。フィル達は中にいる?」
「皆さん、ダンジョンの方に向かわれています。ヒメノさんはミハイル様のところです。今この屋敷には私だけです。」
「ありがとう。夜にはみんな帰ってくるかな?」
「その予定です」
「それじゃあ中で待たせてもらうよ。この人達はエルフなんだけど里から出て暮らしたいって事だから連れてきたよ。みんな揃ったらちゃんと紹介するね」
「かしこまりました。お茶をご用意致しますのであちらでお待ちください」
僕達は淹れてもらったお茶を飲みながらフィル達の帰りを待つ
「サラさん、何か変わった事はあった?」
「そうですね。すぐにお伝えした方がいいことはありません。私からではなく、皆様から直接聞いてください」
「そうだね。そうするよ」
この様子だとフィル達は頑張っているようだ。
後で自慢話が聞けそうだから楽しみにしておこう
しばらくして、みんなが着々と帰ってくる
雑談をしながら全員が帰ってくるのを待ち、揃ったところで夕食を食べながらエメラムルさんとエミルの紹介をする。
エルフの事もざっくりと説明して、エメラムルさんが他のエルフと比べて変わった思想を抱いている事と、里の外でエミルを育てていくために、しばらくここに寝泊まりして働かせてもらえないか確認する。
「もちろんですよ。人手も足りていないので助かります。エメラムルさん、何の仕事をするかはまた後で相談しましょう」
フィルは即答で了承してくれる。
他のみんなも、エルフだからと言う理由で距離を置くようなことがないことに嬉しく思う。
「ありがとう。助かるよ」
その後はみんなから近況を聞く
苦労しながらもうまくやっているようで安心する。
でも、クルトと姫野さんには険しい表情が見え隠れしている。でも悪い話はしないのでみんなの前で話すつもりはないのだろう。
念話で後で聞かせて欲しいと飛ばしておいた
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誤字報告とても助かっております
ありがとうございます
カクヨムにて連載中の
「イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・」
宜しければ読んでください