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いけるんじゃないか!?

作者: 立川好哉

◆もうダメだ編


 流川雄助、24歳。折角カッコいい名前をもらったのに見た目はあまりカッコよくない。女の子と話すのが日常だったのは幼稚園と小学校の頃で、中学に上がった途端に話さなくなった。それは女子が男子を異性として意識し始めたせいか、あるいは恋愛に溺れる自分に酔いたくなったせいか。優秀な者はモテるというのがこの世の常識で、彼は小学生の頃は成績トップだったのでモテた。モテたというのは恋愛ではなくよく話す程度のことで、彼が望んでいたものとは少し違っていた。最近の子は小学生の頃からキスをするという話だが、当時はそんなことはなかった。不純異性交遊というものが禁忌のように扱われていた時代だから、そのようなことは起きなかった。

 中学校に入って他の小学校を卒業した奴らと同じクラスに入ると、他の小学校で鳴らしていた奴らが目の上のたんこぶとなった。自分は所詮小さな学校のトップで、世界的なトップではなかった。少し、ほんの少し世界が広がっただけなのに、自分はただの平凡な奴に成り下がってしまった。そのことに気付いた女子は小学校の頃はよく話してくれたのに、中学校では同じクラスになっても話しかけてこなくなった。自分より優秀な奴に目が向いているのは間違いなかった。

 高校ではついに恋人という関係が意識されるようになり、周りでは多くのカップルが誕生していた。雄助の友人もそうだ。彼以外全員が恋人を作って彼と一緒に登下校できないと言い出してからは、彼は一人で寂しく登下校していた。

 大学ではもはや恋人でなくても好き勝手にセックスすることが流行した。ヤリサーと呼ばれるところに入れば酔った勢いでハメられるし、酔った勢いで告ることもできる。しかしそんな下品で女性を軽んじる行為を許せなかった雄助は敢えてそれを避けた。それは人間としての尊厳というか、品格を護るためだった。自分はそんな卑しい奴らとは違う、そう思いたかったのに、どうしてか悔しい思いだけが残るのだった。おそらくは他者を評価することをやめて飛び込んでいれば一度くらいはパコパコさせてもらえたのだろうが、彼はそもそも非処女が嫌いだった。他の男に股を開いた女に価値はない。自分のために純血を守り続けてくれた女子だけが、同じく純血を守り続けた自分には相応しいと自惚れたことを宣っていたがために、本来果たすべき役割である子作りの勉強すらできなかった。はっきり言って大学は友人ができたことを除けばまったくの無駄だった。


 簡単にまとめると彼は自分磨きも積極的な行動も酔った勢いでセックスを申し込むことも一切しなかったのである。それで童貞を嘆くのはなんと哀れなことか。言ってくれるな。

 そんな全人類の哀れみを受けるべき雄助は過ぎた日々にこそ欲情していて、もはや手に入りがたい女子高生とのセックスを志していた。それ以外と言えば一般企業に就職しない限り触れることのないOLやなかなかにしんどい仕事をしているパン屋の看板娘などだが、コンビニで夜に働いている彼には無縁な話だ。

 どうして一般企業に就職しなかったのかというのは話すまでもないが一応話すと彼が無能だからである。そもそも週五日、一日八時間を超える勤務をずっと続けることは彼にとって地獄の沼に浸かることより辛いことであり、何が何でも避けたいことだった。親父に引きずられてその門を潜るとすれば、その前に四肢を切り落とす覚悟だった。そんな懸念は彼とは無縁なもので、中退したなら仮に内定していようと問答無用で蹴り落とされるのだから、中退したときは就活していなくてよかったと思った。つまり長い時間継続して働くこともムリだし大学を卒業することもムリだった彼はどうにかこうにかコンビニでの労働で食いつなぐことくらいしかできないのだ。

 幸いにもコンビニは意外と楽なもので、クソみたいな客さえ来なければ相方と楽しく喋っているだけのスーパー楽ちんワークである。しかしクソみたいな客はわりと頻繁に来るもので、その度に働くことがバカらしくなる。国の要請で働いてやっているのに不幸な目に遭うのは道理にかなわぬ。生活保護万歳!と叫んだり濃いめのタバコを吸ったり濃いめの酒を飲むことでどうにか紛らして次の勤務へと向かうのが常だ。それでも一応はまともに生活できているのだから、もっと楽な方法が見つからない限りはこのまま過ごしていたい。


 そんなギリギリ人間の生活を送っている彼が女に餓えても叶わぬ願いだと自ら諦めてしまいがちなときにいつも思い出す人物がいる。


 姉だ。


 姉とは最も親しい女であり、誰よりも長く一緒に過ごしてきた人である。何かしらの理由によって仲違いをして互いを知ることを拒んでいるなら話は別だが、これといって嫌いでないのならある程度のことは知っているはずである。これまた幸いなことに雄助は姉、優果と仲が良い…と思っているのは優果のほうだけで、その実雄助は彼女のことが本気で好きである。

 その理由は彼の大学時代の出来事にある。彼はその頃働いておらず金がなかった。一年生の時は特待生だったので学費を免除され、その分を親からの仕送りに上乗せしていたので今と同じくらいの収入、約11万円があった。学生寮に入ったなら家賃を親が出すというので初年の冬まではそうしていたが、この寮がどうにも不便で一般の賃貸アパートへ引っ越すことを決めた。そのときに親と仲違いをしていた姉が一緒に住むと言ったので彼女と二人暮らしができる物件を見つけて契約したのだが、姉は八月からでないと住めないと言い出した。家賃は9万円、食費や光熱費は貯金を崩せば賄える。これで八月まで耐える気でいた。

 しかし彼は成績不良を理由に特待を解除され、二年からは学費を払わねばならなくなった。これは親が代わりに出したのだが、浮いた分の上乗せがなくなって月5万の収入となった。これでは毎月約10万円の赤字で、貯金があっという間に尽きた。5月時点で既に親に借金をせざるを得なくなった。親の脛がなくなる前に姉が来てくれてからは姉が11万を出すことになり、雄助は仕送りの5万をすべて食費に回せるようになり、財政が安定した。姉に金を出させる代わりにするのが家事だけなのだから、これは彼にとって大きな救いであった。この生活は賃貸契約が満了するまでの一年半ほど続いた。別居している今思うととても幸せな生活だった。


 そのことから雄助は優果に尋常ならざる恩を感じていて、それが数年経て歪んだ末に強い好意、性的なものを含むまでに育っていた。簡単に言えばお姉ちゃん大好きちゅっちゅなのである。最も近い女性、しかも自分のことをよく知っている姉なら、もしかしたら手が届くかもしれない。そんな期待があった。しかし姉は過去にこう明言している。


「近親相姦はないわ」


 この言葉はこれまで雄助を過ちから救ったものであり、雄助の夢の実現を妨げてきたものでもある。優果の意思なのだから最大限尊重されるべきだというのが雄助のドグマとなって彼を留まらせているが、彼は幾度となく見たパンチラやブラチラ、谷間チラなどを誘惑と勘違いしていて、そのせいで『いけるのではないか』と思ってしまっている。その思いはそのような幸運が重なれば重なるほど強くなるもので、そろそろ耐えきれなくなりそうだった。彼は姉を悪しき自分から護るための手段として代償を得た。彼女の下着だ。雄助はあねぱんつを嗅いだり被ったりすることでなんとか満足しようと試みて、今のところ成功している。まだ彼の中には背徳感というものがあり、それが姉の苦しむ顔を想像させることで行為への道を塞いでいた。あくまでも優果のほうから誘わなければ念願の姉セックスは果たされない。それが彼をガチガチに縛り付けているうちは互いに安全だった。



◆ダメじゃないかも編

 


 雄助は優果への恩を少しでも返すべく収入の一部を親を介して送金している。これまでの総額はおよそ100万円、簡単には稼げない額だ。しかし同居しているときに払ってもらった額約200万円の半分だから、まだまだ足りていない。満額返しきったときに漸く雄助は優果と対等の立場になれる。早くそうなりたいと願う彼は自分のできる最大の頑張りで日々働いていた。大学時代の彼は自分が将来ここまで必死に働くとは想像していなかった。働くくらいなら死ぬとまで断言した彼をこれほどに奮い立たせているのは、やはり姉への想いだろう。


 そんな彼に奇跡のような情報が舞い込んだ。

 親のメッセージにはこのようにあった。


『姉ちゃんが雄助と一緒に住んでもいいってよ』


 これはかつてない明るさで雄助を照らした。彼の人生がまた好転する。その予感と大好きな姉と再会できる喜びとで舞い上がった雄助は迷わずオファーを考えた。

 家賃光熱費負担、食費一部負担、家事負担。これが優果へのオファーだ。これを断るならば自分は嫌われているとすら思える好待遇を提示して姉の反応を待った。


 そもそもどうして優果が雄助に一緒に住む話を出したのかというと、彼女が仕事疲れを起こしたからだ。そのつもりでなかったにしろ結果として雄助を救済することになった同居を決めた慈善家なところのある優果は介護職を志していくつかの施設で働くうちに介護現場の実際を知って絶望し、夢や希望を持って仕事ができなくなった。萎えていても金を貰えないので違う職を探していてもなかなか興味の湧くものがなく、もたもたして親に煙たがられるよりは弟を頼って親から離れるほうがマシだとした彼女の強い決断をしたのだった。働こうとして仕事がクソだという現実を知ったのは雄助も同じで、その同情と恩返しと、それと好意とで彼女を受け入れる態勢を整えた雄助は良い結果を聞けると信じていた。


 返事はしばらく保留となっていたが、それは将来を左右しかねないことに対する覚悟を決めるための期間であると分かっていたため待ち遠しく思うことこそあれ、苛立ちはしなかった。

 結果は承諾だった。喜び飛び跳ねた彼はすぐに寝室の掃除をして姉のための部屋にすると風呂やトイレ、台所を入居時より綺麗になるよう磨いた。溜め込みがちだったゴミも捨てたし、余計なものを取り除いた。今の仕事を辞める宣言をしてから一ヶ月後となる来週を目安に優果が母と引っ越し作業をするというので雄助はそのつもりでいた。楽しみで仕方がないし、ガス代が高くなることを見越して貯めた金を姉のために使えると思うと少しも惜しくない。これで可愛い服を買って着てくれれば彼はさらに可愛い姉を見ることができる。彼女は彼と違ってオシャレで昔からモテる。センスが抜群だし彼好みの服も着る。雄助は姉のオシャレ着を見るのが好きだ。それがまた始まると思うと興奮が止まらない。

 ご神体のように崇めていたこのパンツも数年越しに彼女のものとなって穿かれるだろう。なんとも感動的だ。




 一週間のうちに雄助はヘルプに入って追加の給料を得た。これもすべて姉のために注ぐことになる。それが彼の幸せだ。少しの貯金を持った状態で姉を迎えた雄助は二人きりでなければ言えないことを打ち明けた。ぎこちない仕草となかなか出ない上手な言葉のせいで訝しまれていたが、なんとか重要なポイントを伝えることができた。彼の本心を聞いた優果はまだ彼女が優位であることを盾として上から目線でこき使うことを宣言した。『せいぜい私のために働け』という言葉でさえ今の雄助には心地良く届くのだった。

 これから長い間、姉を幸せにするだけの生活が始まるのだ。


 昼過ぎに作業が終わって三人で外食をしたので雄助が台所に立つのは夕飯からだ。知っていることに加えて新たな苦手食材がないか確かめてから献立を考え、買い物では優果の好きな高いアイスクリームも追加した。自炊ばかりの雄助の腕前はなかなかのものになっていて、褒められたのが折角作ってくれたものを卑下することなく褒める優果の優しさなのか、素直に美味しかったのかの判別がつかなかった。

 流川家は食事の後に風呂に入るのが常で、昔からそうだった。引っ越し作業で疲れた優果を先に風呂に入れるべく湯を張って今日の家事は終わりだ。彼女はいつも通りゆっくり浸かったので湯が冷めていたが、姉の残り湯なら凍っていても構わない雄助は喜んで浴びた。


 そして一日を締め括る睡眠なのだが、不手際で布団を送っていなかったため普段雄助が使っている一枚しかない。雄助は同じ布団で暖かく眠ることを提案したが優果がこれをあっさり却下したため結局は優果が布団で、雄助はカーペットの上にベンチコートを着た状態で寝ることになった。これはなんとも残念なことだが、好感度が高くなれば一緒に寝ようと言ってくれるのだと思うことで活力とした。

 いつか必ず言わせてやる。強い意思は優果には伝わらなかっただろう。




◆おかしくないか編




 勤務日は朝からナーバスだ。くだらないミスをくだらない客に怒られることを恐れるあまり、仕事そのものを嫌いになっている。楽しいところにだけ目を向ければ少しは行く気になるものだが、これまでの嫌な思い出が重くのしかかって瞼を塞いでしまう。


 仕事をしていない期間の優果の生活はだらしない。雄助が趣味のお絵かきに没頭している朝はずっと寝ていた。昼になって起きたと思えば容赦なく難しい料理を要求してきた。しかしこの要求、雄助にとっては最高であった。


 オムライス!


 彼は奮い立った。姉に捧げるラブラブオムライスを作るべく買い物に出た。材料を知っている。テンプレートから彼女の嫌う食材を除けばよいのだ。作り方も知っている。何度も試したことがあって、最終的には美味しいものを作れた。今回はそれに情熱が加わっているのだから不味いはずがない。精神病歴のある優果が雄助の寝ている深夜に食べ尽くしたアイスを買い足して家に戻ってくると、優果ではない人が侵入していた。これはビックリ。




 雄助は叫んだ。これは誰だってそうする当然の反応だ。謎の人物の向こうにいる優果はただ唖然としていた。

「あ~ぁ、あんたがユースケか…」

 直感、声が可愛い。振り返ったときに初めて見た顔も可愛い。珍しい赤髪はアニメのキャラクターみたいで、それに全く違和感なく他のパーツ馴染んでいるのは稀代の可愛さだからだろうと一瞬で考察が組み上がった。姉を超える美少女だと気付いた瞬間に魅了された童貞野郎の胸に学校の先生がよく使う伸び縮みする棒が向けられた。この美少女は彼に用があって来た。

「なんでしょうか…」

 美少女が自分を目当てにしていることを喜ぶ一方で姉とのラブラブライフが崩壊する予感に震えてよく分からない表情になってしまった雄助を嘲った勝ち気な少女は綺麗なアーチを描く二重まぶたを退けて開く美しい紅蓮色の目を大きくしてこう言った。

「あんたの幸せを奪いに来たわ!」

 信じがたいことにこの美少女は雄助から幸せを剥奪しようというのだ。しかしこれに大きな矛盾点があるのを雄助は逃さず指摘した。


「奪おうとしてるのに今のところ幸せにしてるよ?」


「…は?」

 美少女はキョトンとした。虚を突かれたという感じだ。どういうことか解せずに立ち尽くしていると、自然に首が傾いていたのか、それを見て萌えた雄助が説明した。

「美少女はいるだけで俺を幸せにするじゃん」

「ワケわかんない。とにかく今からここをメチャクチャにしてあんたから幸せを奪ってやる!」

「待て待て待て、それは君の目的じゃなくて誰か大きな存在からの命令だろ?そうに違いない」

 これはなかなか鋭い指摘だった。この美少女はただ目的だけを見ていて重要なことに気付いていない。それは美少女を送れば雄助が油断するということである。そのことに気付いていない彼女が自ら始めたことではなく、そのことに気付いている誰かが意図して美少女を送ったのだ。彼女は作戦の道具に過ぎず、それは既にある彼女の不幸である。

「この世の理ってやつよ。あんたはいま幸せを感じている。あたしはあんたが幸せになってはならないというこの世の理によって作られた存在で、あんたから過剰な幸福を剥奪する仕組みなのよ!」

 ドヤ顔で語られても納得できることではない。この美少女が創造された存在ということではなく、こんな不幸を被っていることにだ。憤怒に駆られた雄助がするべきことは一つ。


「お前を幸せにしてやる」


 その瞬間、雄助は目にも留まらぬ速度で美少女を抱きしめた。思わずよろけたせいで二人とも倒れてしまったが、見事な捻りで下になった雄助が背中を強打しただけで、美少女は無傷だった。

「ヴッ」

「いきなり何すんのよぉ!?」

 予想された反応なので雄助は動じなかった。彼にとって抱擁とは最も簡単に幸せを感じる手段の一つで、一度目の同居でそれは証明されていた。姉を抱きしめることで幸せになれたのだから、この美少女も抱きしめることで幸せにできる…実に身勝手な試行に巻き込まれた赤髪強気少女は驚かされた腹いせに倒れっぱなしの雄助を思い切り蹴った。蹴ると言えばサッカーで、小中高とサッカー部で大学時代はフットサルをやっていた蹴球少年の雄助は彼女の蹴りに未来を見て立ち上がった。

「キミ、なかなかいい蹴りだよ。俺とサッカーやらない?」

「やらないわよ!まったくもう、いきなりヘンなことしないで!」

 憤っても可愛い美少女の名前を聞きたい雄助がカッコいい名前を紹介すると人間ではなくシステムの一部である美少女は名乗りを返した。

「プリメーラ・アリステロスよ!」

 プリメーラと言われて真っ先に思い浮かぶのがサッカーだ。スペインでは一部リーグのことをプリメーラ・ディビシオンと呼ぶ。つまり第一という意味で、この美少女が理によって最初に創られた使徒だということが考えられる。

「よしプリメーラ、暴れるのはやめだ」

「なんでよ!?あんたの幸せを崩壊させなきゃ私はシステムとしての役割を果たせないじゃない!」

「簡単に倒されたのに?」

「く…!」

 攻撃の意思はなんとなく感じられても実行する気がなさそうなのが気になっていた。その気なら宣言するまでもなく、そして主の帰りを待つまでもなく、この場をメチャクチャに破壊し尽くしていただろう。そうしなかったということは、理に支配されている彼女には自由があってその自由意志で決めた行動だったのかもしれない。そこに光明を見出した雄助は幸せを奪いに来たプリメーラから戦意を剥奪することにして素早く動いた。起き上がって間もなくプリメーラの背中をとった彼は右手の人差し指、銃のポーズをとったときの銃口にあたるその先端を首に軽く当てた。

「力関係は明白。俺はこの世の理なんざにはやられてやらない曲者なのよね」

「バカな…!」

 優果は途中から茶番だということに気付いて寛ぎに戻っていた。その後のことはあまり意に介していない。

「お前を幸せにしてやる」

「ヒッ……!」

 圧倒的優位なはずのシステムが初めて感じた恐怖。理すら拒む力強い幸福に満たされた男に勝てる気のしないプリメーラは長い息を吐いて降伏を宣言した。

「降伏することで幸福を受けられるのさ。ブレス・ユー」

 なかなか上手な言葉遊びではないかと自画自賛した雄助はエアコンの利いた暖かい自室にプリメーラを連れ込んでいろいろ調べ始めた。もちろんプリメーラは不快そうな顔をしている。この女の子のような振る舞いはやはり理が雄助を油断させるためにプリメーラに仕込んだたくさんの少女のデータのせいだろう。

「身長・目測150cm、体重・俺より軽い、胸・Bカップくらいか」

「胸を触るな無礼者!」

「あぁいい蹴り!」

 サッカー経験者なら蹴られた経験は万とある。しかも経験者に蹴られた経験なのだから、こんな美少女の蹴りなどちっとも痛くない。すね当てをしているなら蹴ったほうが痛いくらいだ。それはさておき、勝ち気、ツリ目、赤髪ロング、そこそこお乳…殆ど完璧な要素の集合体であるプリメーラを逃がすのは女に餓えている雄助のすることではない。当然正位置!の某決闘者くらい当然に彼女を迎え入れた雄助は楽しくなりそうな予感に歓喜していたが、彼の心が分散することを懸念した優果は難しい顔をしていた。

「安心しなさい!私はシステムだから食事も風呂も睡眠も要らないの!」

「そういう問題なのかなぁ……」

 二日目にしておかしなことが起きた流川家にはこの先もおかしなことが起きる予定だ。


 今回は、ここまで。

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