8.無鉄砲アーバン
ロドリゲス・ファミリーが消滅したことによる影響はすぐに現れるものではない。かつての盛況ぶりを取り戻すには短くない時間が必要だろう。
だが、人々の顔に笑顔が戻った。
ニューウェーブタウンに新しい風が吹き込んだのだ。
戦いから一ヶ月が経った。アーバンはほとんどの時間をドクターの診療所で過ごした。体中の傷は重く、一時は意識が戻らないこともあった。
特に、肘の損傷はひどかった。
数多の強敵と渡り合い、酷使し続けた代償として、もはや戦いに臨めるものではなくなった。
「五年前にロディに撃たれ、残ったままだった銀の弾がなくなっておるな。それだけ無茶をしたということじゃろう。全く、自分の体をなんだと思っているのか」
ドクターですら呆れる無鉄砲さ、そして山を乗り越えもう快復しつつある生命力。こいつこそが不死身なんじゃないかと思うほどだった。
治療の甲斐あって動けるようになった彼の姿は、”大陸砂漠”にあった。
砂舞う大地を歩く。彼は一人ではなかった。
「オレたち、道に迷っちまってよ。こんなところで人に会えるとは運がいいぜ」
「水と食料、それから有り金全部置いていきな。代わりに鉛弾をくれてやるぜ」
ガンマン崩れの柄の悪い男が二人、アーバンの前に立ちふさがった。
「……もう少し行けば、町がある。そこまで頑張れば水も食料もあるぞ。酒場に行くといい。うまいものを食わせてくれるぞ」
「それはいい。お前から代金をいただいた後、しっぽりとやらせてもらうぜえええ!!!」
襲いかかってくる男たち。
アーバンは目を細め、構えをとる。
その肘に銀のプロテクターはなく、包帯が固く巻き付いてある。日常生活を送る分には問題ないが、戦えるような状態ではない。
だが、無銃流はその程度で窮する戦闘術ではない。頭が、足が、全身が武器となるのだ。
ものの数秒で、伸された男たちが砂漠の砂に横たわる。当然のように、アーバンは息の一つも乱れていない。
「む、危ない危ない。つい肘を使いそうになった。修行のやり直しも考えた方がいいな」
彼が戦いを止めない限り、無銃流は終わらない。これからも看板を背負っていくつもりだ。
「次の決め台詞は……鉄砲は鉄砲でも膝鉄砲だがな! に決まりだろう。うん、悪くない」
山中に埋まったイモタルを生み出す隕石は、聖教会が回収した。ドクターは自分で研究したがっていたが、個人での研究にはやはり無理があると、最終的には回収に同意した。ドクターがイモタルの研究を続けられたのは、良くも悪くもロドリゲス・ファミリーあってのこと。ファミリーは、もうない。
ニューウェーブタウンの治安は回復し、特別保安官としての役割は終わった。町に居着くことも考えたが、彼は立ち去ることを選択した。マスターやシュバルの少女に気に入られ、あの手この手で町から逃げられないよう策を巡らせていたが、どうにかこっそりと抜け出して来たので、身の着のまま、砂漠越えの装備もなかったりする。
「なに、来る時もそうだったんだ。どうということはない」
数時間前から同じセリフを繰り返し、自らを鼓舞する。でないと心が折れてしまう。
「無鉄砲ここに極まれり、か」
病み上がりの体、元々無茶できるような状態じゃない上に、適切な装備も持たない。肉体も精神も磨耗し、極限へと近づいていく。
「……」
鋭敏な感覚、あるいは朦朧とした頭が作り出す幻覚か。何もない砂漠、誰もいない孤独な空間に、さっきからリズムよく砂を踏みしめる音が聞こえている。それはどんどん大きくなり、ついには背後にまで接近した。
ゆっくりと振り向く。
「んんっ!?」
生暖かい空気が顔を包み込み、視界が闇に閉ざされる。
これは、前にもあった感覚……?
「ようやく見つけた」
女の声とともに、視界が開かれる。
「アヤメ……? シュバル……?」
黒い馬に跨った女が微笑んだ。
「置いていくなんてひどいな。一緒にいるって言ったでしょ? ほら、乗って」
問答を許さず、アーバンを引き上げる。
「お前な……」
呆れたように、でも嬉しそうにため息をついた。
「どこまで行く?」
「とりあえず、セントラルシティに戻ろうと思っていた。そうだな……生まれた家がどうなっているのか、見に行ってもいいかもしれない」
今まで考えたこともないことだったが、ロディとの心の整理がついたことで、もう一つの過去にも何らかの決着をつけたい。そう思った。
「それは、結婚報告になる?」
「そ、それは…………い、いや、それも悪くない、かな」
シュバルが暴れだし、振り落とされそうになりながら、彼らの姿は砂嵐を越えて行くのだった。
了




