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7.対決(3)

 互いの肘が交差する。


 同じ無銃(ムガン)流を学んだ者同士、決着をつける時がきた。


「腕が落ちたな、ロディ。修行を怠るからだ」

「ハンデだハンデ。血塗れで今にも倒れそうなお前には、ちょうどいい具合だ」

「血にまみれているのはお互い様だ」


 拳と拳がぶつかり合う。バキリと嫌な音が響いた。どちらか、あるいは両方の拳にヒビが入ったのかも知れない。痛みに顔が歪むことなく、互いに相手を圧倒することしか頭にない。


 笑みさえ浮かべていた。


 拳の一振りが、蹴りの一薙ぎが、肘の一突きが、全ての攻撃が必殺を狙う。腹をぶち抜かんと、骨を砕かんと、首を刎ねんとする。

 殺意ある一撃を避け続けていられるのは、修業時代の記憶のおかげだった。幾度となく拳を合わせ、思考の癖を熟知し合い、体に染み込んだ動きで致命傷を避けていた。


「くくくくく、楽しいな、アーバン!」

「昔を思い出すな、ロディ!」


 保安官アーバンではなく、アーバン・クロサイト個人として。

 ドン・ロドリゲスではなく、ロドリゲス・ジャスパー個人として。

 かつてを懐かしむように、あの頃の続きを謳歌する。何者の邪魔が入らない、互いの立場を忘れた愉楽は二人だけの世界を作った。


 だが、それは永遠には続かない。


 アーバンの体はあらゆる箇所が青黒く変色し、折れた骨が内蔵を傷つけ、酷使した肘は銀のプロテクターがとうの昔に失せて旧い傷が開いた。筋はズタズタに裂け、骨の一部が露出する有り様。もはやまともに動かせないことは、本人が一番よく理解している。


 ロディの体も似たようなもの。全身くまなく傷を負い、感覚も麻痺して精神力だけで立っているような状態。


 次が最後の一撃になる。言葉を交わさずとも、心は伝わる。


「――ッ!!!」

「――ッ!!!」


 声なき雄叫びが空間内に木霊し……ぐしゃりと肉を打った。肉を撃った音が一つだけ響いた。


「……肘鉄砲(エルボー・ガン)ッ!!」


 アーバンの肘が、ロディの側頭部を打ち抜いた。きりもみ回転しながら吹き飛んでいき、ぐしゃりと地に落ちた。


「アーバンが……勝ったの?」

 息を呑んで見守っていたアヤメが口を開く。


 アーバンはただ静かに横たわるかつての友に背を向けた。


 全ては終わったのだ。


「……本当にそう思っているのか?」


 倒れたまま、息も絶え絶えにロディは嘯く。その物言いに不吉なものを感じたアーバンは駆け寄ろうとする。

「そこを動くんじゃない、ロディ!」

「いい勘しているが……もう遅い。オレとお前の戦いは、アーバン、お前の勝ちだ。負けを認めるぜ。だがな。ロドリゲス・ファミリーのドンとしては……ドン・ロドリゲスとしては、負けるわけにはいかない」


 ロディは這うように手を伸ばす。その先には、鎮座する隕石。イモタルを生み出す黒い石。


「くくく。本当ならこんなものは使いたくなかった……。やはり、修行は続けなくちゃ衰えちまうな。……師匠に怒られる」


 隕石に触れた瞬間、ロディの体が反り返った。喉を潰さんばかりの絶叫が轟く。

 流れていたはずの血が止まる。折れ曲がっていたはずの手足が正常に伸びる。

 不死の生命力が、ドン・ロドリゲスを蘇らせる。


「……くそっ!」

 完全に復活する前に銀でとどめを刺さなくてはならない。しかし、今のアーバンに銀の肘はない。


「が……ガガガガァァあああああ!!!!!!」


 我を失い、血を求める亡者、『人ならざりし者』となるロディ。最初の犠牲者を定め、飛びかからんとする。


「アーバン、これを!」

 それより先に、首から引きちぎったペンダントを投げつける。


 聖教会のシンボル。

 ユリがアヤメに送ったお守り。


 銀の十字架。


「うおおおおおおおおおお!!!!」


 アーバンは受け取ったそれをドン・ロドリゲスの喉元へと突き刺した。


「ガ」


 力の限りを込め、十字架は根本から折れる。

 軽い手応え。刺さった部分からさらさらと灰が吹き出す。


 さらさら。

 さらさら。

 範囲を広げていき、ロディだったものは白い灰となっていく。


「……………………」


 断末魔も上げず、あっけないほど静かにロディだったものが崩れていく。

 最後に彼は笑ったような気がした。確かめようにも、既に顔も、金髪も灰となった。

 身につけていた衣服のみが、その場に残された。


 ニューウェーブタウンを支配していた闇の首領にして兄弟同然に育った男、ロドリゲス・ジャスパーは灰燼に帰したのだった。


 刺し貫いた感触がまだ手に残っている。一生消えることはないだろう。憶えておくこと、それだけが彼への唯一の手向けとなるのだから。

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