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3.ロドリゲス・ファミリー(3)

 マスターの助言を得た二人は、ロイス保安官の遺したロドリゲス・ファミリーの記録を求めて詰め所へと進路をとっていた。

 昼の町中は閑散としており、外にいる人間よりも風に吹かれて転がる回転草の方が多い。


 人目をはばかる必要がないことをいいことに、アーバンとアヤメは奇妙なダンスを踊りながら歩いていた。


「だからそこの腕はこう。そしてぐるっと回してドーン!」

「こ、こう?」

「腋はしめて二の腕は力を抜いて。肘の辺りに重りがついてるイメージだ」

「こうかな」

「もっと大胆に! もっと大げさに! なんかもう一回転してもいいかなって思うくらい! ていうか飛ばせ! 腕を引っこ抜いてスローイン!」

「できないよ!?」


 暗黒ダンスレッスン……ではなく、移動の時間を利用して、アヤメに無銃(ムガン)流の戦闘術をレクチャーしていた。とはいっても技術の全てを一朝一夕の付け焼き刃で身につけられるようなものではないので、ごく簡単な、護身用にも使えそうな動き方を教えていたのだった。


「人体の中でも最も戦闘に使えるのは、肘と膝だというのが師匠の教えなんだ。攻める時は的確に相手の急所を射抜き、守りには相手の拳や足を逆に破壊できる。攻防一体の部位だ」

「でもさ、このビリビリする感じはどうにかならないの?」

「耐えろ」

「……」


 歩いていくうちに、道の真ん中で人が集まっているのが見えた。土埃があがり、時折怒声と馬の嘶き、少女のものと思われる鳴き声が漏れ聞こえた。

 近づいて様子を窺うと、ガラの悪い二人組の男が馬の手綱を引っ張り、小さな女の子が男の足にしがみついて泣きじゃくる。必死に少女を引き離そうとするのは父親か。


 遠巻きに集まっていた中年の女性に尋ねた。

「これは見たままありのままの出来事だと受け取っていいのか?」


 突然話しかけられた女性は少し驚きながらも、ええそうよと説明する。

「なんでも、いきなりロドリゲス・ファミリーの連中がやってきて、これから戦争が始まるから使える馬を徴収するとかぬかしたそうなんだよ。あの馬は、しがみついてる女の子のペットでね、家族のように可愛がっているのに気の毒ねえ」


 腹に据えかねるのか、女性の拳は固く握られていた。


 礼を言ってそこを離れ、アヤメに話す。

「アーバンの宣戦布告を受け取ったんだろうね。戦いの準備を始めてるんだ」

「俺のせいか……」


 アーバンは深く肩を落とした。自分の軽率な行動が形でこんな無関係な人を苦しめていたとは。正義の心が軋みを上げて悪を断じる義憤を沸き立たせる。


「向こうの準備が整う前に、こっちも対策を立てなきゃ。早く行こう、アーバン。うーん、迂回しなきゃならないからさっきの角まで戻って……」

 背を向け来た道を戻ろうとするアヤメの肩を掴んで止める。


「俺はこれを見過ごすことができない」

「何言ってるのよ。そういうわけにもいかないでしょ。こうしている間にも着々と体勢を整えているはず。いつ私たちの居場所を突き止め、襲って来るかわからない。一刻も早く先へ進むべきだよ」

「……確かに、お前のいうことも一理ある……と思う。でも、だからといって、目の前で泣いている子供を放っておくわけにいかないだろ! 俺の正義が許さない!」


 その時、群衆からどよめきが上がった。

 しがみついていた少女が蹴り飛ばされた。

 男にとっては軽く小突いた程度のつもりだったが、体の小さな子供が吹っ飛ばされるには十分だった。


「この……人でなし!」「子供をいたぶるなんて恥を知れ!」「バーカバーカ!」「下っ端の癖に!」

「へっ、ちょっとぶつかっただけじゃねえか。そんな騒ぐこっちゃねえ。……最後の奴調子こいてねえか!?」


 二人の男は無理やり馬を引っ張り、人垣を割いて去って行く。馬の嘶きが悲鳴のように木霊した。


「シュバル……シュバルぅ……」

「仕方ないだろ……諦めろ、諦めるんだ……」

 嗚咽を漏らす少女を抱きしめ、父親がどうにかなだめようとする。父親自身も悔しさを押さえられず、肩が震える。


「ちょっとアーバン。行くつもりなの?」

「当然だ」


 アヤメは肩を竦めると、ため息をついた。何を言っても意志を変えることはできないと悟った。

「わかった。じゃあ私は先に詰め所へ向かうわ。こんなところで無駄な時間を費やすわけにはいかないもん」

「ああ、そうしてくれ。だがな、これは無駄なんかじゃないぞ。あの子を助けること、それすなわち正義の実行であり」

「あーハイハイわかりましたから。じゃ、さっさと終わらせてよね」

 ウィンクすると、身をひるがえしてさっさと歩いて行った。


 アーバンは見送ると、どよめく群衆の中に割って入っていく。


「大事はないか」

「あ、ああ。僕もこの子も怪我はしていない。だけど……」

「シュバル……うう」

「シュバルというのがあの馬の名前か」

 少女は無言で頷く。


「私、取り戻しに行く!」

 涙をぬぐい、少女が言った。

「何を言ってるんだ。そんなことできるわけにだろう!」

「行く! 行くったら行くの! お父さん離して!」

 父親を突き飛ばして立ち上がると、キッとアーバンを睨みつける。


「あんたもジャマしないで! シュバルは大事な家族。あんな奴らのところに一秒でも長くいさせてたまるもんか!」

 涙と鼻水を垂らし、それでも目の奥には強い意志を湛える。子供ながらに見事だなものだ、とアーバンは唸った。


 泥だらけのまま大股で追いかけようとする、その肩をつかむ。少女はその手を払いのけて振り返った。

「ジャマしないでって言ったでしょ!」

「ジャマする気はない。だが、行くのはお前じゃない」

「私が助けに行かなきゃ誰が行くっていうのよ。お父さんは弱虫だし、他の人たちも見てるだけだったじゃない」

 周りの町人たちが目を背ける。自覚があろうとも、彼らは非力な民。何ができようか。


「助けに行くのは、この俺だ」


 見えるように、胸の星を傾ける。親子ともども、驚きに口が開いた。

「それは……あなたは保安官だったのですか」

「保安官? あなた強いの? シュバルを助けてくれるの?」

 力強く安心させるように、少女の頭に手を置いた。


「ああ、心配するな。必ず連れて帰ってくる」


 背を向けたアーバンに、少女が声をかける。

「保安官のお兄ちゃん、あなたの名前は?」


「俺の名はアーバン! 保安官アーバンだ!」

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