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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第五章 魔王の城
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第十九話 魔王VS《蒼の双星》


「ルナっ!」

 

 アンナの声だ。

 名前を呼ばれて顔を上げる。

 ステイタスが封印されている私にとって先程の閃光は堪え、視界の回復が遅かった。

 そのため、彼女に声を掛けられるまで俯いていたのだ。

 

「封印、解くわよ」

「え?」

「え?、じゃないわ。解くわよ」

 

 なるほど、アディンが伝えたか。

 本当に良い仲間を見つけたようだな。

 アンナが私の胸に手を触れ瞑目する。そうすれば、ほんのりと熱を持ち些か堪え辛い刺激が襲った。

 

「──んっ」

「───結構、強力な封印ね……」

 

 真下に目を向ければ、刻一刻と紋様を返る魔法円が展開している。

 体内を操作されるような感覚が体に走り、歯を食い縛る。

 

「ここがこうで───こっちこうで───これが───」

 

 先程の戦いでもわかっていたことだが、相当な技術の持ち主のようだ。相手に魔力を流すこともだが、これほど自在に練られる存在に初めて会った。この実力ならば、極大魔法を連発、或いは三重で発動できるのではないだろうか。

 

「───ザァッ!?」

「あっ、ごめんなさい……」

「だ、大丈夫だ、───問題、ない……」

 

 意識が飛びかけた。

 前言撤回。

 この女、感覚派だ。

 

「でもほら、解けたわよ」

「え?──────ッッ!?」

 

 キ、タ………

 

「やっぱり人目につかないところじゃないといけないわね。なんで解除するとこんなことになるのかしら……」

 

 それは多分、押さえつけていた力、がっ、一気に吹き出す、から、だと思うぞっ……

 

「はぁ……はぁ……」

 

 痙攣、目眩、矛盾する弛緩、初めてステイタスの封印解除を受けたが、散々な目に遭った。

 だが……これで戦える。

 

「すまない……感謝する」

「アディンが言ったのよ、期待してるわ」

「ああ、勿論応えよう」

 

 裸であることを無視し、毅然とした態度で立ち上がって、唱えた。

 

「【閃月(アクセルムーン)】」

 

 手の中に顕現するのは拳二個分よりも一回り長い金属の棒。

 

「あら、神器持ちだったわけね?」

「そうだ───【光刃展開(ブレード)】」

 

 金属棒の先から光が噴出し、刀の形を模す。

 

「【神器解放】」

 

 そして、紅月の影響を受け光が赤に変色した。

 

「あら……?」

「力上昇──攻撃力上昇──破壊力上昇か………丁度いい」

 

 月により力が変化するこの神器は──とても私と相性が良い。

 

「【付与(エンチャント)】」

「貴方、光の魔力じゃないわけ?」

 

 彼女が驚くのも無理はないだろう。

 今私が纏っているのは炎なのだから。

 

「これは私のスキルで──[付与師(オールエンチャント)]というものでな。知っている魔力なら全て付与できる。例えばこんな風に───【付与(エンチャント)】」

 

 次いで纏ったのは風。

 すると、炎の勢いは更に増し、アンナが顔を腕で覆ったほどだ。

 そして──

 

「【神化───『ツクヨミ』】」

 

 宿すのは月明かり。

 構築されていく異風の着物。

 袖は広がり、襞が重なる腰巻きは長く、紫と金を基調とした服をこの身に纏った。

 閃月(アクセルムーン)の光は花の(あか)に変わり、私の瞳には三日月が浮かんでいるだろう。

 

「では───押して参る」

 

 そして私は地を蹴り、爆風を利用して魔王の元へと突貫した。

 

 

 

 

 

 

「はっや……」

 

 あとに残されたアンナは、そう言ったという。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

「「────っっ!!」」

 

 駆け抜ける金と白。

 二人の援護に回っていた僕はその存在にいち早く気づいた。

 疾走する二人は同時に剣を振り抜き、背後から両脇をすれ違い様に斬って行った。

 加速も乗せたものであったため反応が遅れ、魔王に為す術はなかった。

 

「遅くなったわね」

「迷惑かけてごめんなさい!」

 

 謝罪を告げる少女達にレオは笑って言った。

 

「見てたぞ、アディンのこと助かったぜ」

 

 僕もカイトもそれほど余裕が無い訳ではなかった為、一部始終を確認することは出来ていた。

 本当に、よくやってくれたよ。

 

「【切断魔(シャドウスラッシュ)】」

 

 二人に襲い掛かろうとする魔王を牽制する。

 

「【ウエポンバースト】」

「【光あれ(リスプレンド)】」

「【風斬(エアストブレイド)】」

 

 闇の斬撃に気を取られれば爆発で視界を塞ぎ、『白』による強力な浄化でダメージを着実に与え怯んだ隙に風の斬撃を見舞う。

 

「オラァっ!」

 

 最後、爆発の影響と浄化により発生した蒸気が晴れがら空きになった魔王にレオが斬り掛かった。袈裟の大振りは見事入り、魔王に少なくないダメージを負わせた。

 避けられるはずもない。

 だが、僕達がこうして戦い続けているのは、一重に魔王の回復力が凄まじかったからだった。

 無尽蔵のマナを燃焼して発動される自己治癒は異常で、今レオがつけた傷も既に塞がれている。唯一希望を持てるのが、リンカの『白』による攻撃が一番治りが遅いことだ。爛れた肌はまだ元に戻らず、未だ蒸気を立てている。

 

「───うざいなっ!」

 

 痛手を負っているようには見えない魔王は天に手の平を向けた。

 

「───【黒わ(ブラックネピュ──)】」

「リンカっ!」

「うんっ───【白わ(ヘイロウリン──)】」

 

 魔王が幾度も行使してきた破壊の魔法を放とうとし、それを対消滅させようと同様の『白』の魔法を使おうとしたその時、一条の光矢が視界を過った。

 弾け飛ぶ魔王の頭部。

 ザァァァァァァと地面を削って僕の前に現れたのは一人の女性。

 艶やかな黒紫の長髪を揺らす彼女。

 身に付けているものは美しさを際立てるように奥ゆかしく、僕は時を止めてしまった。

 

「さて、反撃といこうか───【魔法札(マジックカード)】」

 

 彼女の指先に現れたのは、一枚の紙。

 

「【光あれ(リスプレンド)】」

 

 白の魔法円が刻印され、紫の炎に跡形もなく焼き付けされた瞬間、前方から絶叫が上がった。

 

「私が奴を縫い止める、皆は最大火力を備えてくれ」

 

 そして、タンッ、と音が耳朶を震わせたときには既に彼女は魔王に斬りかかっていた。

 

「やべぇ、めっちゃ速ぇ…」

 

 レオがそう評するほど、ルナは鮮烈だった。

 動きはとてつもなく速く、その斬撃は目で追えればめでたいと思えるほど。

 足運びは行動を悟らせず、高すぎる敏捷も相まって魔王は防戦一方となっている。

 光による援護も絶妙で、決して隙を晒さず相手の焦りを誘う。

 そして一番厄介で頼もしいのが、こちらからでは観測不可能な力による幻惑だった。

 闇に属する魔力を持つ僕ですら、何かをしていると判るのがやっとだという事実に、驚愕を禁じ得ない。

 僕達が攻めあぐねていた魔王は、完全に完封されていた。

 勿論、相性もよかったのだろう。

 スキルの効果だろう複数の【付与(エンチャント)】や元来を強化した敏捷、加えて神由来の幻術。技術の伴わない魔王からすれば、彼女は天敵のような存在だった。

 僕からすれば天から舞い降りた美の使徒だが。

 ああ、綺麗だ。

 

「準備は整ったか!」

 

 既に出来ている。

 応えるのは行動だった。

 

「【聖浄光(クラリスフェイト)】!」


 初撃はリンカの『白』だった。あのベアトリスを消滅させたものだ。

 そしてそれは魔王にも有効だったようで、連鎖する魔法のファンファーレは彼女が飾った。

 

「【颶風狂乱(フェリクスフレイジ)】!」

 

 次に放たれたのがジャスミンの『風』だ。

 立ち上っていた渦巻く四つの竜巻が彼女の意のままに蠢き、体躯を曲げて天頭を魔王に向けた。風による乱混は地面を捲り上げ、相手に全身が引き千切られそうになるほどの圧力を叩きつけた。

 

「【エクスカリバー】!」

 

 三撃目はカイトの『武器』だった。

 天を貫く『白』のエネルギーを凝固して造られた巨大な剣身が振り下ろされ、それを受け止めた魔王の身に絶大なダメージを与えた。その傷は治ることが難しいだろう。

 

「【龍の咆哮ドラグネスインフェルノ】!」

 

 次いでレオの極大魔法。

 吐き出されたのは龍の息吹を連想させる一条の炎砲。彼我の間合いを喰らい尽くし爆炎を浴びせ、高火力の炎熱により攻撃する。魔法を得意としない彼のそれは他のもの(魔法)に少し劣ったものの、無視は出来ない火傷を魔王に負わせることができた。

 そして、彼はスキルを発動させた。

 

「【阿修羅(アシュラ)】!」

 

 そして最後に僕の『闇』の魔法だ。

 背後に召喚した巨大な獄門。耳障りな音を立ててゆっくりと開いた門の奥は煉獄。そこから一斉に伸びたのは亡者の(かいな)だ。闇色の千手は一直線に魔王を目指し、その身体をがんじがらめにする。そして強烈な膂力で締めるのだ。

 これには堪えたらしく、相手の口からは苦悶が漏れた。

 この邪悪かつ無慈悲で狡猾な魔法には流石の《蒼の双星》でも頬をひきつらせ、僕を振り返った。

 ステイタスが強化されるのが伝わる。

 実に良い塩梅だ。

 丁度いいタイミングだ。

 僕は嗤った。

 

「──グァァっ……」

 

 魔力も高なり、魔王へのダメージが着々と増えている。

 

「────【超水圧(キューミレスドラウン)】」

 

 そこに、膨大な量の水が叩きつけられた。

 

「遅くなったわ」

 

 神を宿して颯爽と舞い降りたアンナ。

 魔王は虫の息になったと思えるほどの極大魔法を放った彼女は一度全員を見回して、口を開いた。

 

「アディンはまだ掛かるらしいわ、まあ、その前に終わらしても文句はいわれないでしょうけど」

 

 ここで本当ならそんなことは縁起でもないと口を挟んだだろう。だが、アンナ・ハリスを前にしてそんなちゃちな言葉を口にすること自体が烏滸がましい。

 

「さぁ、やっちゃいましょう」

「ええ、行くわよ!」

「着いてこい──ジャスミン!」

「カイト、『白』で嫌がらせしよ?」

「いいな──乗った」

 

 一瞬で連携を紡ぐ皆。

 

「いい仲間だ……アディンはいい仲間を得たようだな。私もこの一員となるのだろう?」

 

 やはり速い、気づかない内に彼女は隣に来ていた。

 そして、僕はその言葉に歓迎の意を含めて応える。

 

「そうだね……いい仲間だよ。ルナ・ネルヴァ、ようこそ──《蒼の双星》へ」

「歓迎するわ」

「強い奴は大歓迎だぜ」

「速さじゃ、負けないんだから!」

「お、お姉さんと呼ばして頂いてよろしいでしょうか!」

「親友の姉ってことか……よろしくな」

 

 ああ、凄いな。

 本当に、このギルドに来てよかった。

 ならばこそ、僕も本気の本気を出すとしよう。

 ここからは───マジだ。

 

「こっからは更に強いわよ、お子ちゃま魔王さん」

「────ぼ、僕が負けるわけないだろォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」

 

 バツン、と弾かれてしまった闇手。

 いつまでも拘束できるとは考えていなかったが、随分と早いな。

 

「あら、ちょっと不味いわね」

 

 アンナの言葉に、僕は表情を曇らせた。

 それは皆も同様らしく、沈黙が満たされる。

 

「───君達調子に乗り過ぎじゃないかなぁ?、僕を誰だと思ってるのさ?。邪眷属の『変』の魔神──アレス・ディス・ブリーロ───魔王様だろぉ?」

 

 いや知らないよ、という喉からでかかったのは堪え、警戒を怠ることなく魔王を見据える。

 変化が尋常じゃない。

 魔力は高まり、徐々に体躯は肥大している。

 僕の三倍はあるだろう。

 既に小柄な少年の面影は無く、度が過ぎた巨漢と称するのが正しいほどだ。

 

「駄目なんだよなぁ……かしづくべきなんだよなぁ……頭下げろよ」

 

 威圧も強い。

 強者の纏う気配というものが練りに練られ叩きつけられているかのようだ。

 頬を一筋の汗が伝う。

 『変化』を司る力を持つだけあって、その変容はリンカとジャスミンの気迫が削がれるほどだった。

 だが、そこに《蒼の双星》全員を鼓舞する声が響いた。

 

 

 

「待たせたな」

 

 

 

 ───アディンだ。

 そして何故か、僕達は一斉に武器を下ろした。

 解放が、霊装が、神化が解除される。

 

「頼んだぞ」

「ぶっ殺せ」

「目にもの見せてやりなさい」

 

 カイト、レオ、アンナが不敵に笑い───

 

「負けたら許さないんだから」

「久方の再会だ、期待している」

「勝つって……信じてるから!」

 

 ジャスミン、ルナ、リンカが微笑み───

 

「遅いお出ましだね?」

 

 僕が振り返りながら問えば───

 

 

「全部──俺に任しとけ」

 

 

 歯を見せて笑みを見せたのだった。

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