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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第一章 蒼の双星
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第四話 獄剣と水神


「第二ラウンドだ」

 

 燃え盛る焔を纏う青年がそう宣った。

 消費されていくマナ──魔法行使のための燃料──にレオの相貌に笑みが浮かぶ。

 

「使ったわね、ならこっちだって本気を出さしてもらうわ」

 

 不遜の態度を崩さないアンナは杖を右手に口を開いた。

 

「三人とも見てなさい。これが、魔法を極めた先の光景よ」

 

 演舞なのか、アンナが話続けているにも関わらずレオは動きを見せない。

 訝しむ三人を置いて、アンナは唱えた。

 

 

「【神格顕現──アクアス】__【神化】」

 

 

 次の瞬間、美杖が神々しい光を放った。

 強烈な光に子ども達は腕で目を庇う。

 そして、光が弱まり視界が正常になり始めると、三人は同時に息を呑んだ。

 光が晴れ顕になったのは、虹光を携え流動する水の衣を纒い、数々の美しい装飾品を身につけたアンナの姿であった。

 神徒。

 その単語が目を見張るカイトの脳裏に浮かぶ。

 時を止める子ども達と反し、動きだしは同時。

 

「時間だっっ!!」

 

 そう叫んだ瞬間、風船が破裂したような音が響いた。

 

「溺れなさい【大津波(ダイダルウェーブ)】【大濁流カワイア・イヌンダシオン】【大瀑布(カタラクトブレイク)】」

 

 対する水を纏うアンナは特大の魔法を三連発、大津波、大濁流、大瀑布、その規模に仮想空間の地面全てを覆い尽くした。

 

「かっ、は……」

 

 が、次の瞬間には彼女は遥か後方の壁に叩きつけられていた。

 そして先程までアンナがいた場所にはレオが大剣を振り抜いた形で立ち、アンナの手にもいつの間にか大剣が握られている。

 もう一度破裂音が鳴ると同時に、アンナも急いで双剣に変化させ壁を蹴った。

 始まるのは魔法の援護射撃を含めた壮絶な斬り合い。

 激上した身体能力で音を置き去りにする赤髪の剣士が大剣を幾度も唸らせ、カバーしきれない攻撃を無詠唱で行使した魔法で阻み手数の多さで青の魔導師は猛攻を凌ぐ。苛烈な金属音が空間を揺らし、その衝撃は子ども達の元へさえ届いていた。

 

「【顕現せよ王の水冠、民を護る権威の一撃】」

 

 戦況に変化を投じたのは青髪の美女──アンナである。

 どれだけ劣勢であっても、諦めることなく立ち向かう彼女は、その小振りな唇から詠唱を紡ぎ始めた。

 魔法を同時に複数放つ、他の動作をしながら詠唱する、などを表す平行詠唱という高等技術を軽々と、それも激しい戦闘下で行う出鱈目さ。その意味は分からなくとも、子ども達は今目にしている光景の壮絶さを本能で感じ取っていた。

 

「【我が袂を侵す蛮賊に慈悲無き死を、纏められし幾千の命の願いの成就を】」

 

 レオの大剣の威力が増し求められる膂力が上がろうとも、技の速さが増し求められる見切りが難くなろうとも、彼女の玲瓏な謌が途切れることはない。

 

「【悉くを蹂躙せし御魂を召喚せよ】」

 

 近づく魔法の完成。

 そして、レオが微かな焦りを見せてしまった。

 そこを逃さずアンナは【魔球(ボール)】を放つ。

 

「【汝、水王の化身なり】!」

 

 自身とレオの間に生まれた水球がその破裂で両者ともに吹き飛ばした。

 出来上がった構図は魔法を完成し終えた魔導師と距離を取られた剣士だ。

 レオを見定めたアンナ。

 到底剣の届かない間合い。

 それを認めた彼女は、慈悲無く腕を振り下ろし──

 

「【ソウルアクエリア──】」

 

 

 

「残念、お前の敗けだ」

「………参った、わ…」

 

 

 

 ───首に添えられた熱の感触に、動きを止める他なかった。

 目で追うことができないほどの一瞬でアンナの元に移動したレオ。

 魔法行使の直前で犯した止めの気の緩み、彼女は自戒の念に嘆息を吐いた。

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉっっっ!?」

「すげえぇぇぇぇぇぇっっ!?」

「~~~~~~~~~っっ!?」

 

 そして、それを目にした三人は同時に雄叫びをあげた。

 三者三様、一人ばかり言葉になってない者がいるがご愛嬌。

 興奮が天元突破している三人は決着のついた二人の戦いを口々に褒め称えた。

 模擬戦を終えた二人は仮想空間から離脱し、はしゃぎ回る子ども達の前に戻る。

 

「見たか、これが本物だぜ」

「天才の戦い、ちゃんと脳に焼き付けたかしら」

 

 アンナの方に暗さが少し残っているものの、自信たっぷりに二人は口端を吊り上げて言った。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

 それから暫くし、心身を落ち着けた子ども達を居間に座らせ、大人二人はふんぞりかえっていた。

 

「早速鍛練……っていきたいところだけど、今日は身体を休ませなさい。明後日からビシバシ鍛えて上げるから」

「俺が剣術、アンナが剣以外の武器と魔法を教えることになったぞ」

 

 レオはSランク剣士の資格──剣聖を名乗ることが許された剣の達人である。これほど贅沢な指導者はいないだろう。

 対してアンナは魔法の化物──《頂点》という二つ名をもつ帝都の主、皇帝の兄にして天才と云わしめたAランク魔導師の資格者である。

 因みにレオは《獄剣》、アンナは《水神》という二つ名をもっている。

 

「三人とも剣でいいな?」

 

 いい返事が二つ、手を挙げたのが一人。

 

「ああ、カイトはアンナにも教えてもらえ。お前の魔力に合ってるからな」

「魔法は全員魔力が違うから詠唱の仕方、魔法の作り方を教えるわ。これは全員参加、強制よ」

「強制というか強くなるには必要なことだからな」

 

 今度は返事が三つ、居間に響くのであった。

 

「じゃあ今日は解散、ここを探検するなら物を壊さないようにね。明日は帝都を案内するから遅くまで起きるんじゃないわよ~」

 

 そう言ってアンナは居間から出ていった。

 

「じゃあ俺らは二人でまだ模擬戦を続けるわ。何かあったら呼べよ?、じゃあな」

 

 二人の監督者が姿を消した瞬間、三人はそれぞれ別方向へと走り出した。

 アディンは探検に、ジャスミンは風呂に、カイトは外に。

 既に魔力認証を行っているため異物として扉を通過できないなどということはなくなっているが、もしそれがなければ一晩中カイトは外で過ごすことになっていただろう。

 

「ふふっ、思ったとおりね」

「まあ、あの歳だ。気になるのは仕方ねぇだろ」

 

 実はそれを微笑ましく覗いている存在があったなど知らずに、彼らは楽しそうに動きを回るのだった。

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