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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第一章 蒼の双星
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第三話 Blue & Red


 青と赤。

 風のうねりも騒ぐ動植物も存在しない不毛の白空間。赤髪の青年と青髪の美女が相対する。

 二人から距離を空けた中央には固唾を呑む齢一○頃の子供三人がいた。

 

「【聖厄(セントディザスター)】」

 

 虚空から現れる黄金の下地を持つ蒼玉の美杖、その柄を掴み二回転。と同時にレオの背より黒に赤色が映える大剣が抜かれた。

 清涼な美しさと神々しい威圧感を放つそれは神器『聖厄(セントディザスター)』。神『アクアス』の力を宿した超越武器。所有者の熟練度によって力を変動させるそれは今、アンナの手の中で絶大な力を放っている。

 対しこちらも見惚れるような剣身に猛々しい造形を見せつけるそれは封器『獄炎剣』。迷宮より産まれ、更なる力を所有者に与える魔獣『ヘリオス』の映し身。レオの持つ『封器』だ。

 

「見とけよ、三人とも」

「これが、トップの冒険者だってこと、刻み付けなさい」

 

「「【付与(エンチャント)】」」

 

 獰猛な笑みを浮かべた両者とも同じ魔法を行使する。

 自身の魔力を武器及び体に付与することで身体能力を強化するというものだ。その強化度合は魔力の高さに依存し、アンナは持ち前のそれに幅を利かせ、剣の達人であるレオを上回るほどの身体を作り出した。

 次の瞬間、地を蹴った二人が衝突し、手にした得物を交えた。反動で少し間ができ、両者の大剣は適度な間合いを得ることができた。

 そこから始まるのは激烈な剣戟である。

 縦横無尽に振るわれる蒼の大剣を往なし躱し逸らす赤の大剣。散る火花がアンナの大幅に強化された膂力を物語っている。

 全ての斬撃が防がれているというのに、彼女には焦りが見えない。しかしそれは簡単なことで、これまで共に過ごしてきた二人にとっては相手の実力を把握した上での模擬戦ということになるためだ。

 言い換えれば、手の内を知り尽くした身内との戦いである。

 動きの癖、戦いの運び方、使える魔法、使う技術、その全てが頭に入った二人にとって軍配の硬直など茶飯事。

 故に、同じタイミングでかち合った大剣は大きく弾き飛ばされた。

 即座に大剣を弓へと変形させ、その弦を引き絞る。

 

「【魔槍(ランス)】!」

 

 青色の矢先から同色の魔法円が展開し、矢は水槍となって青年へ放たれた。

 だが、眼前に迫ったそれをレオは容易く大剣の腹で打ち払い、飛沫ごと剣により生じた風圧で弾き飛ばす。

 再度大剣へと変わった神器と獄炎を纏う封器が交わり合う──かと思えば、斧へと変化したそれが身体を狙い、槍へと変形するそれは胸を貫かんと即座に突く。

 次々とその姿を変える神器がレオを襲った。

 『聖厄(セントディザスター)』。その属性は水と災厄。そして今レオの手を煩わせているのは神器の特性──変形。アンナに合わせて能力を定めた神器は、その数八つの姿を持っている。

 アンナの意思に応じる『聖厄(セントディザスター)』は、その威力を余すことなくレオへと振るっていた。

 

「おらぁぁぁっっ!!」

 

 しかし、突如として増した火力に吹き上がった炎が産み出した風により、アンナは一歩後退をしてしまう。

 丁度双剣に変えていたため、炎を防ぐ面積が足りなかったのだ。

 そして、その隙をレオは見逃さない。

 

「──っ!?」

 

 豪速で放たれる脚を狙った一閃。

 間一髪、跳躍することでそれを回避したアンナは次の瞬間目を見張った。

 追撃を警戒していたアンナの度肝を抜いたのは、極限の低姿勢のまま回転する赤髪だった。

 生半可な身体能力と体幹では為し得ない大技に、反応する間もなく身に斬撃を受けてしまう。

 ぬるりとした動きで振るわれた大剣が捉えたのは右脚。血を撒きながら落下する脚を見届けたアンナは、三撃目を食らわまいと【魔球(ボール)】を自身に当て強引に距離を取った。

 直ぐ様、無詠唱で魔法を行使、失った右脚を生やし、握る双剣を大剣へと変えて追撃せんと迫り来る大剣に立ち向かう。

 またまた打ち合う大剣だったが、その均衡を崩すことが起きた。

 【付与(エンチャント)】には普段使わないほどの魔力が注ぎ込まれ、先程アンナを退かせた炎を超える火力がレオから燃え上がる。

 そして彼の狙いに気づいたアンナも負けじと魔力を膨れ上がらせ、神器の力を解き放った。

 

「【神器解放】」

 

 神々しい光を放った神器はその威厳を増し、魔力により発生した衝撃波を用いてアンナは身体能力を激上させる青年から離れる。

 

「【砲撃(ブラスト)】【魔球(ボール)】【魔槍(ランス)】【光線(レーザー)】【噴水(フエンテ)】」

 

 砲撃、水球、水槍、水の光線、噴水、次々と魔法を放ちレオの行動を阻害していく。

 そして、手のひらから撃ち出されるものとは明らかに異なる動きを見せる魔法円が、アンナの足元に展開していた。

 

「【光輝水砲(アイルボンバード)】【地水面(ウォーターフィールド)】【澄水剣(リムピッドソード)】【竜巻(ストーム)】【集結せよ水の力──霧雨炸裂(フラリーファイア)】」

「がぁぁ、くそっ。近づけねぇ!」

 

 放たれる光輝く水の砲撃、水浸しになる地面、発射される何振りもの水の剣、竜巻、水の散弾、レオの撒き散らす火の粉によって喧しく水蒸気が発生するなか、向上した身体能力をもってしても彼はアンナに接近することはできなかった。

 遠距離として有効な魔法を行使するための詠唱をする暇もなく、防戦一方となる。

 魔法の対処に手こずる間に刻一刻と、自分に止めを差す一撃が構築されていた。

 

 突然だが、魔法の行使には『詠唱』『無詠唱』『操作』『構築』がある。

 『詠唱』とは、詠唱文を口にすることで自動的に魔法を行使する方法である。詠唱文には魔法名も含まれる。

 『無詠唱』とは、魔法名さえも声にださず想像力のみで魔法を行使する方法である。因みに、魔法名のみを唱えることは詠唱短縮という部類に入るが、実際には無詠唱と言われている。

 『操作』とは、自身のマナを直接に具現させそれ自体を操り魔法の規格を作り上げる方法である。

 最後に、今アンナが行っている『構築』とは、普段は魔法行使の瞬間にしか展開しない魔法円を予め展開し、それに魔法の規格を設定する方法である。

 操作と似ているがその実別物で、要する集中力が構築の方が多い。

 

 つまるところ、アンナは無詠唱と構築で魔法を二つ行使していることになる。

 世の中には五つ以上の魔法を同時行使する者もいるため最強魔導師という肩書きはないが、彼女は天才魔導師というそれを欲しいままにしていた。

 差し当たる問題、レオが焦りを感じているのはアンナの構築技術が他をずば抜けていることに起因している。

 

「【地水面(ウォーターフィールド)】【水流(コリエンテ)】【噴水(フエンテ)】【澄水剣(リムピッドソード)】【貫通雨(レイニッド)】」

 

 地面に広がった水に流れができ、そこから水が噴き出し更には水剣も放たれ、最後に行使され終わった飛沫が高速でレオへと殺到した。

 

「【付与(エンチャント)】!」

 

 対してレオも負けていない。

 先程よりも苛烈で洗練された体捌きと糸をなぞるような繊細が絶技で全ての魔法を斬り払っていく。

 炎と水による熱気と、加えて魔力が膨れ上がった。

 

「おしまい───」

 

 ポツリとアンナの唇が震え、戦いの終焉を知らせる。

 巨大な空色の魔法円が地面に展開し、膨大な魔力が噴き上がった。

 

 

「【絶対零度(アブソリュートゼロ)】」

 

 

 バキバキバキッと忽ちに拡がる氷結。

 その威力は凄まじく、アンナによって放たれた水属性魔法の数々は言うまでもなく、更には空気にまで冷却が伝播する。

 彼女から前方が一転し、ありとあらゆるものが時の流れを止めた。

 一瞬にして、世界が凍結した。

 


「【焔転】」

 


 氷に世界が包まれる中___しかし焔が現れる。

 そのあまりの高熱にレオを中心にして凍てついた氷が爆ぜ、大剣を構える彼の姿が顕になった。

 

 

「第二ラウンドだ」

 

 

 不敵に歪むレオの相貌が、メラメラと猛ける焔に照らし出されていた。

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