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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第一章 蒼の双星
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第一話 邂逅

たった二人の団員で構成される戦闘ギルド《蒼の双星》。彼女ら二人の前に、黒猫を連れた少年、褐色肌のエルフ、落ち着いた黒髪の少年、その三人の子ども達が現れた。そして長らくなかった新加入が《蒼の双星》に訪れる。何を見たのか、何を感じたのか、彼らを迎え入れた二人と子ども達の物語が始まる。


 ビアルデン。

 海に囲まれた大陸。

 同じ海に繋がれた同様の大陸は複数存在するが、大海の荒れはその大陸間の交易を許さない。故にこの大陸は孤島と同じような状態となっていた。

 そしてここビアルデン大陸には、様々な種族がその生活を築き、日々を暮らしている。

 様々な都市が存在し、それぞれに重要な役割を担い特色を持っていた。

 そしてここは皇帝にて統治される帝都のその中心、《帝都中央案内所》である。

 賑わいを見せる所内には様々な種族が各々に動き、受付嬢達がその職務に追われている。

 一つの机の会話だ。

 

「聞いたか?、『孤狼』が議員を殺ったってよ。首ちょんぱらしいぜ」

「また『孤狼』か」

「そう何回も聞く訳じゃないが重鎮の暗殺多いな」

「まあお前なら返り討ちにしそうだがな」

「確かに初撃でやられはしねぇわ」

「だろうな!」

 

 三人の男達は声を揃えて笑った。

 

「ちょっとレオ、行くわよ」

 

 と丁度そのとき、青の長髪と同色の瞳の美女が男達の内の一人、赤目赤髪の青年の肩を叩く。

 青髪の女性を目にした男達は思わずという風に頬を赤く染めた。それほどまでの美しさ。しかし肩を叩かれた青年は何でもないことのように立ち上がり、残りの二人へ別れの挨拶をした。

 

 

「あの、《蒼の双星》に入りたいんだけど…」

 

 

 そして《帝都中央案内所》から立ち去ろうとした二人の耳にそんな声が届く。自然と足を止めた。

 

「僕、《蒼の双星》は今団員を募集してないの。諦めて?」

 

 受付嬢は困り顔で、カウンターから顔を出す少年に笑いかける。その隣には黒猫がその前足で頭を掻いていた。

 《蒼の双星》。二人のみの構成員の小規模のギルド。以前は募集していた団員も今は貼り紙さえなくなっている。

 因みにギルドとは、五人以上の目的を同じにした者達が集い生活を共にする団体のことである。構成員の人数が五人以上の期間が半年を越えていれば、構成員の不足による解散はされないというのも特徴だ。

 

「お前、《蒼の双星》に入りたいのか?」

 

 青年が少年に声を掛けた。

 ビクッと肩を震わせ振り返った少年と受付嬢は同じくして瞠目する。

 

「後は私達に任せてちょうだい、大丈夫よ」

「あ、はい、アンナさん」

 

 腰に手を当てる女性は受付嬢に微笑み、戸惑いを隠せない彼女は奥へと消えていった。

 残ったのは赤髪の青年、青髪の妙齢の美女、紺の髪の少年の三人だ。

 目を点滅させる少年は自分を見下ろす二人に連れられるまま、案内所を出ていくのであった。

 大人二人が子供連れ去る光景を垣間見ていた筈の他の大人達は、彼らを引き留めることもしなかった。

 それはただ故に、二人の正体に気づいていたからであった。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 青髪の女性──アンナと、赤髪の青年──レオ、その二人は一人の少年を連れて帝都近くの森へと訪れていた。

 少年の名がアディン・ネルヴァということ。

 一○歳であること。

 家族は連れて歩く黒猫以外に居ないということ。

 知り得た情報はこの三つだった。

 種族は見た目から言うまでもなく『凡人族(ヒューマン)』である。

 無言のまま三人は森の奥深くまで進み、少年の前を歩いていた二人は唐突に足を止めた。

 

「まあ粗方分かってるだろうが、俺らが《蒼の双星》だ」

「う、うん…」

「今からあなたの力を見せてもらうわ、お目が敵ったら見事私達のギルドに入る資格を得るわ──っとその前に、何で?」

「え?」

「何で《蒼の双星》に入りたいって思ったのか聞いてるのよ」

「お前言い方キツいな」

「だまらっしゃい、ほら、言いなさい」

「えっと…、行き場所が無くて、《蒼の双星》に行けばいいよ、って言われたから…」

 

 アンナは驚いた。まずアディンが行き場所がないということ、そして誰かが奨めたということ。

 詳しく話を聞いてみると、養ってくれていた老婆が亡くなり遺してくれていたものも尽き、どうしたものかとばったり会った同い年程の男の子に尋ねたところ、先程の答えが返ってきたらしい。

 前者は解決した、だが後者の意味がわからない。

 募集もしていない、功績を残していない、故に有名でもない、それにも関わらず奨める者がいた。不可解以外の何物でもない。同い年くらいの少年というのも引っ掛かる。

 ただそれはもうどうでもいいことだと、アンナはアディンに力を見せることを催促した。

 また隣の赤髪から小言を貰うが無視。

 そして、いざアディンが手を振り上げたときだった。

 蹴破る勢いで草陰から小さな塊が弾け飛んできた。

 それは少女だった。

 遠巻きに見ていた二人は反応が遅れ、少女に次いで現れた二足歩行の狼のモンスター──通常の動植物とは異なり特殊な性質の生命体──が新たに現れた獲物、アディンにその腕を振り上げる。

 まだ間に合う、とレオが背に負う大剣の柄を掴み、沈んだ。

 だが、その脚が地を蹴ることはなかった。

 目の前の光景に目を奪われたからである。

 アディンが両手に幾何学の複雑な模様が描かれた円を出現させ、こう口にした。

 

 

「【召喚『氷狐(アイスカーバンクル)』『氷鬼(アイスゴブリン)』】──【融合召喚『氷大鬼(フロストオーガ)』】」

 

 

「───殺れ」

 

 

 突如現れた空色の狐の如き獣と鬼が同色の光に包まれ、剣と盾を持ち鎧を身に纏った鬼が光の中から姿を現した。

 鬼は迫る爪を盾で弾き、触れたモンスターの手に氷が張る。

 

「召喚魔法……!?」

「まさかこんなところでお目にかかるとはな……」

 

 冷たさに怒り狂ったモンスターは凍った方とは逆の腕を振り回す。が、鬼の持つ剣によって斬り飛ばされ、腕はモンスターの背後にボトリと血溜まりを作った。

 即座に首も落とされ、狼のモンスターは絶命する。

 

「──っ、レオ、周囲を警戒!」

「はいよ!」

 

 突然の出来事に放心していた二人も動きだし、モンスターに飛ばされていた少女の治療のために駆け寄り身体を持ち上げる。

 触診と魔力を流した結果数ヶ所の骨折が起きていた。

 

「【聖なる水の精よ汝の力もって癒しをもたらせ】___【水復(アクアヒール)】」

 

 骨が折れ青くなっていた箇所が徐々に元の褐色へと変わっていき、呻いていた少女の呼吸が安定した。

 

「これくらいで大丈夫そうね」

「辺りにはもういないぞ、そいつ一体だけだったみたいだぜ」

 

 哨戒の必要もなくなったと青年は大剣を背に収める。

 彼の視線が向く先は治療していたアンナではなくモンスターを瞬殺した召喚獣を呼び出したアディンの方だった。

 

「なあ、いつからできたんだ?、それは」

「………気づいたときからだよ」

「そんなことよりレオ、この娘をギルドに運ぶわよ。アディンも着いてきなさい」

「うん」

 

 どうやらアンナは先の召喚でアディンの実力、いや可能性を見たらしい。当たり前のようにアディンをギルドへ共にすることを指示した。

 レオはというものの面倒臭がって重荷を自分に押し付ける女に苦笑する。

 持ち上げた瞬間、レオは目を細めた。

 

「軽過ぎる…」

「ええ、どうやら逃げてきたってわけでもないみたいね」

 

 少女を抱き呟いた彼の隣に並んだアンナが少女の顔を覗き込みながら言った。

 

「まあともかく、こいつが意識を戻してからだ、話は」

「そうね」

 

 帝都近くの森で起きた一事件はこうして終結したのだった。

始まりました一章です。

楽しんでもらえたら何よりです。


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