力の譲渡
争いの音が止まぬ昼下がり。
二人の男女の前に立ち塞がるのは黒装束の集団。
自分達の周りを囲むのは血塗れた剣を手にする男六人。
下卑た嗤みを浮かべた男が不躾にこちらを観察している。
「お前が『───』だな?」
左手を上げ囲む者達への警戒を解くように伝えた男から問いを投げ掛けれた。
それがどうした、と言うと男は眉をピクリと動かし、一緒に来いと尊大に言ってきた。
勿論断った。
だが、その場合は隣の幼馴染を殺すと口にした。
その言葉を聞いた途端、自分ではなく彼女が怒声を上げた。
「殺れ」
幼馴染の激昂に男から指示が出され、男達が飛びかかってくる。その攻撃を右手に持つ剣で捌けば、隣の彼女も魔法で奴らを吹き飛ばしていた。
善戦した方に違いない。
切り傷が多くなり始めた頃だ。突如、何かが斬り裂かれた音が背後から耳朶を震わせたのは。
「ちっ、殺したら意味ないだろうが…」
男が吐き捨てる。
振り返ってしまった俺は、次の瞬間絶句した。
目にしたのは、血を流し倒れる幼馴染の姿だった。
哭いた。
彼女の死を嘆き、自分の無力を呪い、男達に怒りを抱いた。
喉が張り裂けるほどの慟哭を響かせる。
『殺したいか?』
その問いは突然だった、が、即答した。
『皆殺しだ』
そうして、最初の黒き魔人が世界に産まれた。
次から一章が始まります。