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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第二章 黒
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第六話 皇帝参上


 防衛軍が『タルマリ』に到着した翌日、その全員が町の北門に集められていた。

 昨日の馬車待ちのようにごった返しになりながら、何が行われるのかと冒険者達の緊迫が広がる。

 一つ異様なものがあった。

 仲間や急遽共に行動することになった面々と会話を弾ませる彼らも、それにチラチラと意識を向けている。

 金属で作られた一段高くなっている台座のような物だ。

 そしてその傍ら、静かに佇む『テミス』の存在も不可思議さを際立てていた。

 

 

「皇帝陛下がいらっしゃいます」

 

 

 冷然と呟いたエレンに気を取られずに、気づいたのは少数だった。

 (かぶり)を勢いよく振り上げ、空を仰ぐ。

 アンナは相貌を喜色に染め、レオは不敵に笑い、エリスは珍しい笑顔を見せた。他にそれぞれの反応を示す者もいた。

 それが何者であるか気づくことのなかった者も、次の瞬間には思い知る。

 ヒュンッ、と一矢が放たれるのと、轟音が鳴り響くのはほとんど同時であった。

 土煙が爆風と共に吹き荒れ、腕に自信のある冒険者達でも踏ん張りを効かせなければならない。

 敵襲だと騒がなかったのは、『テミス』の一言のおかげであろう。煙で見えなくとも、音で判断できなくとも、魔力を感じられなくとも、この現象を引き起こした張本人の正体を掴めていた。

 徐々に土煙は晴れ、その姿が露になる。

 まるで何者かにかしづくように、片膝を付き右腕で身体を支えていた。

 サラサラとした耳までの金髪、深い海のような叡智を魅せる蒼眼、細身の長身からは鍛えられているのが窺え、圧倒的な存在感がその場を支配した。

 

「皇帝陛下──ユーリ・ハリス様がいらっしゃいました」

 

 驚愕を禁じ得ず、多くの者が目と口を開いたままにしてしまう。

 皇帝ユーリ・ハリス。

 全ての『頂点』。

 魔法の『究極』。

 埒外の『化物』。

 神の域まで達した男『魔導王』。

 『最強』に勝てるわけがないと言わしめた『天才』ならぬ『神才』。

 帝都に収まらず世界最強の存在が今、舞い降りた。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

「じゃ、エレン説明して」

「わかりました───では私から一言。これは救世の戦争、私利私欲を満たさんと、禁忌に手を触れた悪辣な宿敵を討つ戦いとなります。全力をもって殲滅をもたらすことを願います」

 

 その前置きから始まった『黒の軍』討伐の説明。

 淡々と語られる内容を腹に落とし込む。

 おつむの足りないことを自覚している者はせめて作戦だけは叩き込もうと、自分の思考に耽っていた。

 

「私からは以上です。続いて皇帝陛下からお言葉があります」

「はい、知ってると思うけど僕がユーリ。世間からは『化物』とか呼ばれてるみたいだけど、それはそれでありだと思ってるんだよ。この名を恐れて治安が良くなればいいしね」

「陛下、脱線しています」

「ああごめんごめん、『黒の軍』だったね」

 

 多くの防衛軍のこめかみから一筋汗が伝う。尻に敷かれる旦那の構図にあまりにも似ていたためだ。

 実の兄の失態に、らしくなくアンナは耳を赤くしていた。

 

「北は君たちにお願いする。あとは僕に任せておいてくれ。帝都にマナ少しも手出しさせるつもりはないからね。君たちは存分に奴らを駆逐してくれていい」

 

 どこまでも頼もしく、どこまでも尊大な態度。不安など覚えるはずもない。畏怖と尊敬を抱く彼らにとって、帝都の絶対的守護者がいる限り北さえ守ればいいと思っているからだ。

 

「さて、気になっていることだろうけど、無事帰ってきたら舞踏会を開こうとと思ってる。好きな人と踊るのも良し、豪華な食事を楽しむのも良し、楽に過ごしてくれていい。あと、特別な報酬だけど、エレンから聞いた活躍度合い上位三名の願いを叶えようと思う。ビシバシ頑張ってくれたまえ!。では活を入れるとしよう!───『黒』を倒せ!『黒』を薙ぎ払え!『黒』をブチ飛ばせー!」

 

 ほとんど勝手過ぎる報酬に隣のエレンの眉間には皺ができ、どこかの業界が喜びそうな目をしている。

 

「勝ち星をあげろ、ここは僕たちの世界だー!」

「ではこれよりミリア・リード主導の会議を行ってもらいます。陛下はお下がりください」

「みんな頑張ってねー!」

 

 段々と気分が上がってきたのか、拳を突き上げ叫びだした皇帝を『テミス』が引き摺っていく。

 それでも彼らに手を振るユーリの姿に、汗が止まることがない防衛軍であった。

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