止まらない問題
教室で俺は一人、机に頬杖ついて窓から外を眺めている。
机の上には書きなぐった感想文をグシャッと丸めて放置している。
「……ふぅ」
口から漏れた溜め息は、グラウンドで幼なじみが陸上でタイムを縮めたこと、そして何の意味もなくグラウンドを眺め続ける俺に向けられたものだ。
幼なじみである彼女は明るく真面目で、勉学にも陸上部にも取り組み常に好成績を出している。
それを自慢せず、常に前向きに精進し続ける姿には、誰しも憧れを抱き、彼女の周りには常にたくさんの友人がいた。
俺はといえば、特に目立った成績もなく、どちらかといえば周りからは不良と見られているだろう。
悪い奴らよ手を組み、今日も度が過ぎたイタズラをしてこの始末だ。
反省文に書きたいこともなく、俺はただ幼なじみを眺め続ける。
皆が群がり、称賛し続けられる彼女の姿に、俺はやるせなさを感じ続け、天井を見上げて目を閉じた。
「あれっ、まだいたの?」
耳元に囁かれ、俺はビクッとして飛び起きる。
「ヘヘッ、何々、テストの居残り?」
彼女は悪戯っぽく笑う。俺を馬鹿にしてるわけではなく、単純に気になっただけというのが伝わる、優しい表情。
「お前には関係ないだろ……お前は何しにここへ来たんだ?」
「私? 実はね……忘れ物っ」
「忘れ物? お前がか?」
「うーんっとねー……うん、私だって忘れ物するよ。私を何だと思ってるの?」
「クラス一の完璧超人。運動も勉強も出来て、友達たくさんな」
「えぇーっ、買いかぶりすぎだよー。私だって忘れ物ぐらいするさ」
俺はふと外の暗さに目を向けた。月が明るく輝き、もうそろそろ学校は締まるだろう。
「たくっ、先公の野郎、俺を置いていきやがったのか……」
「その紙だったら、私が受け取っておきますって言ったから、私がそれを貰えれば大丈夫だよ」
俺は目を細める。
「何でお前が?」
「だって、昔からの友達じゃん?」
そう言った彼女は、少し俯いていた。
「友達? 昔の知り合いなだけだろ」
「今も知り合いだよ! 最近あまり話さないだけで……昔みたいにさ」
「今は俺もお前も違うんだ。弱虫だったお前は、今じゃ俺より輝いてんじゃないか」
彼女が昔は気弱だったのを、俺は覚えている。
家が近く、よく一緒に遊んでいたときは、彼女はオドオドした様子で俺の後ろをついてきたのだった。
俺はといえば、今と変わらないイタズラ小僧で、よく彼女の前で問題を起こらせては彼女をビビらせ、よく巻き込んでいた。
俺はあの頃と変わらない、ガキのままで止まっているが、彼女は今じゃ立派な同級生になっている。
「だって、私は頑張ったからさ……目の前で馬鹿みたいに色々挑戦しては自滅する誰かさんを見てると、色々突っ込んでみるのも悪くないかなってさ」
彼女は丸めた紙を手に取ると、俺に背を向けた。
「こうして輝いた青春が送れてるには、その誰かさんのおかげ……今は、あまり尊敬出来てないけどね」
「今頃気づいたか、尊敬するに値しない、ただのガキ大将だって」
「ううん、そういうことじゃないよ」
彼女は顔だけをこちらに向けた。進学して初めて見る、悲しい目だった。
「あの頃みたいに、一緒にいてくれないから……私を避けてる風で……昔は気弱だった私に、いつも振り向いて見てくれてたのに」
そう言って彼女は俺を一瞥し、数歩足を前に出した。
「今じゃ私がアナタを振り向いてるだけじゃん……そんな人、確かに友達だって呼べないね」
俺は思わずガタッと席を立ち、廊下に出ようとする
「お、俺だってお前のことはずっと見てるよ! 今日だっていつも以上にいいタイムを出せてただろ!」
「っ!?」
「正直、お前が頑張ってるところ見てると、俺は何やってんだろうなって嫌な気持ちになる……だけどな、お前のことは無視してるわけじゃねぇ! いつも明るいところ、見てたからな」
思わず声が荒げ、俺はバツが悪そうに頭をかいた。
「悪い突然……何言ってんだろうな」
「ううん、いいよ、聞きたいことは聞けた」
彼女はそう言って、丸めた紙を広げた。
「いつも離れててごめん。また一緒にいよう。反省文はそう書こうか!」
そう言って彼女は廊下を駆け抜け、俺も追いかけて廊下を駆ける。
俺と幼なじみの昔の風景が、形勢逆転してまた動き出す。




