幕間2
「ここまでが、初日の捜査で私達が得られた情報です。」
長く話していたので、のどが酷く渇いてしまった。コップの残りを一気に飲み干すと、俺は立ち上がり台所に置いてあった薬缶からコップにお茶を注いだ。
「つまり、浅田宏美の周りでは特にトラブルは見つからなかった。その代わり、七月下旬頃に恋人ができていた、と言う情報が手に入った。そういうことですね。」
俺はテーブルの周りに置いてある金属ラックを撫でながら答える。なんと滑らかな触り心地か。
「そうです。もちろん、その後に他の部下からの報告も入りましたが、それについてはこの後お話ししましょう。」
俺はラックから一枚のDVDを取り出す。
「その前に、こちらの映像を。当然ご覧になった事があるでしょうが。」
タイトルは、『愚行の行方』。あの浅田の家で発見された脚本の演劇である。浅田の事件のしばらく後、本作は近隣の劇場で初めて公演された。これはその時俺が(正確には久我が)録画した内容を、DVDに焼いたものである。俺は今でも時々これを観てしまう。劇の内容も、あそこで起きた出来事もすべて覚えているのも関わらず、だ。俺自身、あの事件に囚われたままなのかも知れない。
「とてもテレビで流せられるような内容ではありません。当時、これをそのまま流したテレビ局は存在しなかった。」
「つまり、それは、あの生データということですか?」
俺は彼を見て頷く。紀藤は少し青ざめた顔でこちらの手元を見つめている。
「見ますか?」
彼がジャーナリストだと言うのなら、もちろんこれを見たいはずだ。あの公演の記録映像はこれ以外にも存在する。だが、どれも加工されているものばかりで、あれをそのまま見られる映像はそうそう残っていないだろう。その上、これは謂わば特等席から録画することができたものである。あの瞬間の人々の表情までしっかりと映っている。臨場感において、これより右に出る映像は残っていない。
さあ、どうする?若きジャーナリスト君。
「……もう少しお話を聞かせていただいてからでよろしいでしょうか?」
逃げたな。一時撤退。そう言う判断は嫌いではない。
「わかりました。では、そろそろ続きをお話しいたしましょう。」